表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世のルキエル  作者: ウルハ
第2章~毒と嫉妬。ロギとミレア編~
17/57

『見られたかった少女』

――空気が、軋んだ。


「ロギ、いくよ……!」


ミレアの声が震える。だがそれは怯えではない。あふれる感情に、声が追いつかないだけだった。


彼女の足元から溢れ出す黒紫のオーラが、ロギの身体とともに渦巻く。


「オイラの出番だね、ミレア!」


ロギの無邪気な声が空気を裂いた。丸っこい紫の体が、ひゅるりと浮かび上がり、ミレアの全身を包むように融合していく。黒紫の嫉妬のオーラが彼女の肌を這い、指先へと集束する。


「――ずるいよ……ズルすぎるよ…!ルアン……!」


その声と同時、ミレアの手から黒い槍のようなエネルギーが放たれる。


ルアンはギリギリで跳ねのく。風が喉元を掠め、頬に細く血が滲んだ。


「っ、なんで……!」


思わず漏れた言葉に、ミレアは答えなかった。


――記憶の深淵。



森の奥、小さな石と木で作られた、静かな家。

ミレアはそこで、おばあちゃんと二人だけで暮らしていた。

静かで、あたたかい家。


街に行くと、いつも誰も声をかけてこなかった。


(……今日も、誰とも話せなかった)


目が合ったと思ったら、すぐに逸らされる。

見られている。でも、そこには「意識」がない。


まるでお化けのように。


(……私、ここにいるのに)


俯いたまま、森へ戻る。その繰り返し。


(……ねえ、おばあちゃん。今日も、誰も話しかけてこなかった)


小さな囲炉裏の前。薄暗い森の家の中、ミレアは膝を抱えて、ぽつりと呟いていた。


(何度か……街に行ってみたけど……)


街の広場、通り。誰かの背中を見つめ、そっと歩み寄ろうとする自分。でも、目が合っても――すぐ逸らされる。


まるで、最初から“いなかった”かのように。


(目が合ったの、嬉しかったのに……)


ミレアは、言葉にならない感情を飲み込んで、静かに家に戻る。そこには、いつものように優しく笑うおばあちゃんだけがいた。


そんなある日、ミレアは広場で暴力を受けていた少年を見た。

泣いて、叫んで、それでも誰かに囲まれていた少年――ルアン。


(……なんで、あんなに見られてるんだろう)


痛めつけられても、彼は存在していた。


(いいな……羨ましいな……)


ミレアは、それから毎日森の木々の陰からルアンを観察するようになった。

話しかけることはできなかった。でも、目を離すこともできなかった。


「ねぇ、おばあちゃん……私も……ルアンみたいになれたら、皆から見てもらえるのかな……」


囲炉裏の前、おばあちゃんの膝に頭を乗せて、そう呟いた。


優しく微笑むおばあちゃんは、何も言わずに彼女の髪を撫でた。


……その、数ヶ月後。



おばあちゃんが、突然倒れた。


「まってて……!すぐ戻るから……!」


ミレアは街へ走った。唯一頼れる、医者のもとへ。


だが。


「……お金がない? じゃあ無理だよ。ごめんね。帰ってくれる?」


玄関先で言い放たれたその言葉は、胸を焼いた。


(……そんな……!)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ