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創世のルキエル  作者: ウルハ
第2章~毒と嫉妬。ロギとミレア編~
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『嫉妬の影、朝靄の中で』

――夜が明けた。


淡い靄が森を包み込み、朝の静寂が世界を優しく染め上げていた。

境界線の森。ここはアナグナとエルディアを隔てる、誰にも管理されない“忘れられた場所”。


その片隅で、ルアンとルキエルは目を覚ましたばかりだった。


「ふぁ……よく寝たけど……あんまり体は休まってないかも……」


ルアンが眠たげに目をこすり、背中を丸めてのびをひとつ。

霧と朝露に濡れた冷たい地面が、昨夜の焚き火の名残すら飲み込んでいた。


「まあ、森の地面だしね。寝心地は最低だったでしょ」


ルキエルは飄々とした声で笑う。だがその双眸だけは、じっと遠くを見据えていた。


「……昨日の夜から、ずっとこっちを見てた子がいるんだ。

どうやら、向こうも“動く気になった”みたいだね」


「……え?」


その言葉が終わるや否や――


ガサッ、と低木を揺らす音。


「っ!?」


反射的に身を引いたルアンの目の前に、何かが飛びかかってきた。

鋭い気配を本能的に察知し、地を蹴って回避する。足元をかすめて風が通り抜けた。


「なっ……誰っ!?」


倒木の陰から、ひとりの女が現れた。


ボロボロのワンピース。裸足。

泥に汚れた脚。長く伸びた髪が目元を覆い隠している。

だが、その髪の隙間から覗いた瞳だけは、異様なほど沈んで、凍てついた感情をたたえていた。


「……君は……ミレア?」


ルアンが、思わずつぶやいた。


その名前に反応するように、――ミレアの眉がぴくりと動く。

だが、口を開くことなく、ただルアンを睨み続けている。


「知り合い?」


隣で、ルキエルが静かに呟いた。


ミレアが、ふと口を開いた。


「……なんで、どうしてなの」


声はかすれていた。

だがその響きには、鋭く刺すような嫉妬がこもっていた。


「私には……誰もいなかった。

誰にも気づかれなかった。

ずっと、ずっと……独りでここにいた。

それなのに……なんで君だけ……」


その足元から、黒紫の気配が広がる。


影の中から、まるっこい小さな異形がぴょこっと現れた。


「んへへっ! 嫉妬に満ち溢れてるよミレア!それであんなやつけ散らかしちゃえ!」


――ロギ。ミレアのエピルーク。


紫色の身体をくるくる回しながら、楽しげにルアンたちを見上げていた。

だが、ミレアの背後に回ると、その体はするりと彼女の身体にまとわりつくように、影と同化する。


ミレアが睨みながら言う。


「なんで君まで選ばれてるの……!?

ずっと周りから注目されてたくせに! 泣いてただけのくせに!!

なんで君ばっかり……!!」


彼女の叫びが、森に響いた。


「この気持ち……君にも思い知らせてやるッ!!」


全身から溢れ出す紫黒いオーラ。

ロギを媒介として、嫉妬の力がミレアを包み込んでいく。

その姿はまるで、感情がそのまま実体化したかのようだった。


ルアンは拳を握った。


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