見つめてるモノ
焚き火の燃える音が、静かに夜を包んでいた。
ルアンはマントをきゅっと体に巻きつけ、湿った地面に腰を下ろしていた。
あたりはしんと静まり返っていて、風の音とルキエルの吐息だけが響いていた。
「……ねえ、ルキエルは眠らないの?」
「君は“セントラクト”だからね。ぼくがそばで見てないと、変な虫とか来るかもしれないし、追っ払ってあげないと」
「……あはは、頼りにしてるよ」
ルアンは、空を見上げた。
雲の切れ間から、星がいくつか顔を覗かせている。
「……ぼくの“属性”、星だったんだよね」
「うん。Radiant Star(輝く星)。希望の象徴だよ」
ルアンは目を細めて、夜空を見つめる。
「希望、か……。
まだ何もできてないけど、そう思えたことが、ちょっと嬉しかった」
ルキエルは何も言わず、ただルアンの隣で焚き火の炎を見つめていた。
けれどその頬が、ほんのわずかに、緩んでいた。
やがて、ルアンはゴロンと横になり、腕を枕にして目を閉じた。
「ねぇ、ルキエル……」
「なに?」
「ぼく、きっとまだ弱いし、ダリオを殴った時もすごく怖かったけど……
でも、誰かを守る時に強くなれるって、ちょっと思えたんだ」
「……うん」
「だから……ぼく、強くなるね。ちゃんと、意味のある強さで」
それだけを残して、ルアンの呼吸が徐々にゆっくりになっていった。
静かな、夜の眠り。
その隣で、ルキエルは目を閉じたようにも見える、無表情のまま月を見上げていた。
「……意味のある強さ、か」
風がふわりと吹いて、焚き火の炎を揺らす。
その揺らめきの奥ーー
ルキエルの瞳に、一瞬だけ影が走った。
「……ふふ。ほんと、面白いね、君は」
空には、ひときわ大きな星が一つ。
雲の合間から、その光がルアンたちを静かに照らしていた。
……その時。
遠く離れた木々の陰。
誰かが、じっとルアンたちを見下ろしていた。
気配を殺し、気配だけを漂わせるような、獣のような眼差し。
ルアンは眠っている。
気づくはずもない。
けれど、ルキエルは気づいていた。
焚き火の火を弄ぶように指先でつつきながら、ふっと笑う。
「……気づいてるよ。
でもまあ、いいや。今日はもう、寝かせてあげなきゃね」
ルキエルは、夜空を一瞥してから目を閉じる。
「ーー明日、だね」
炎の揺らめきが、その横顔を静かに照らしていた。
そして夜は、深く静かに、闇を育てていくのだった。