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第4話 光の領域(2)

「おっはよう! オレの夜鳴き鶯ちゃん!」

 翌日、ひどく脳天気な挨拶をまき散らしながら、テオファネスが来訪した。

「……もう昼過ぎですが」

「やだなあ。その日初めて会うときの挨拶は、おはように決まってんじゃん。今日も美人さんだね! イリアンちゃんが綺麗だと、オレも嬉しいよん」

「因果関係がわかりません」

「またまた照れちゃって。恋するオトコが愛しいヒトの美しい姿を見るのが嬉しくないわけないでしょ? それともイリアンちゃんって、もしかしておニブさんなのかな? おやおや」

(なにが、おやおや、なんだか)

 依頼人の青年が軽薄なうわごとを垂れ流しているあいだ、イリアンの手は休まず動いている。

「なにしてんの?」

「仕事です」

「薬作るのが?」

 イリアンの手元を覗き込んだテオファネスが、不思議そうに訊ねた。

 イリアンは数種類の薬草を磨り潰し、粉薬を作っている。

「夢魔に悩まされているご婦人からのご依頼で、魔除けと安眠の薬を調合しております」

「ふーん。なんでもできるんだね。さっすが、オレのイリアンちゃんは優秀だなあ」

 言いつつ、ちゃっかり肩に手を回してくる。

「あなたのものになった覚えはありません。邪魔しないで下がっていてください」

「うーん、怒った顔もイイねぇ。ゾクゾクしちゃうよう」

 処置なし。ここまで無節操に口説き倒されたのは、さすがのイリアンでも初めてだった。

「なにをしにいらしたのです」

「オレだってお仕事で来たんだもん。……ここ、見張られてんね」

 イリアンは手を止め、今日初めて青年を見た。

「何人かいるよ。胡乱な黒ずくめのおじさんたちと、たぶん別口だと思うけど、も少し洗練されたおにいさん」

「……どちらも心当たりがあるから、かまいません」

 無関心なように言い返すが、本当は少なからず驚いていた。

(ピントの密偵もそうだが、彼、の気配に気づくなんて)

「へえ、イリアンちゃんって見かけによらず、剛胆なんだね。それはそうと、方法は決まった?」

「検討中です」

 小さな要塞とも言えるナクソス公爵の邸に侵入するのは、容易ではない。情報収集はアドナンとディアーナが引き受けてくれたが、私兵や密偵を小国なみに抱えるピントに、真正面からぶつかって勝てるはずもない。

(しかも、あちらはすでになにか感づいているらしいし……)

「それがさあ、イリアンちゃんにはすごーく申し訳ないんだけど」

 拷問されるときは真っ先に口から焼かれるだろう青年が、めずらしく言い淀む。

「七日後の満月までに、奪還できるかな?」

「七日後? それは、なぜ」

「満月期はさ、セイレーン最大の繁殖期なんだよね。んでもって、満月から新月のあいだの大潮期に産卵する。……あの雌は、実はそろそろ繁殖年齢の限界に来てるんだ。今回の大潮が、産卵の最後の機会かもしんない」

 深海の青が、上目に見つめる。

「つまり、今度の大潮を逃すと、天然海竜魚は本当に絶滅する……?」

「そゆこと」

 テオファネスは腕組みをし、真剣な面持ちで言った。

「オレら一族がセイレーンの生命を守り繋いできた時間は、もう永遠に近いくらい長いよ。そのあいだ、外敵は色々いたけど、ヒトは一番凶暴で始末が悪いよ。オレらはキミたちの神サマは信じちゃいないけど、大いなる自然の絶対の力は信じてる。その自然の力に淘汰されんのは仕方ないから受け容れるけど、ヒトに食い尽くされて、利用されまくって終わんのは、納得いかないんだよね」

「それは……わかります」

 テオファネスの言うことは、もっともだと思う。だが、あとわずか七日間で、どうにかできるだろうか。

 イリアンは答えられないまま、薬鉢をかたく握りしめた。

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