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夜と令嬢 夜界ー14


 そんなわけないでしょ、と笑おうとして、ミルファは表情をひきつらせた。頭の中でなにかがカチリとはまったのだ。


「待って、じゃあ、あんたはもしかして……」


 魔族。

 そういう種類の魔物がいたことを、ミルファだって知らなかったわけではない。

 魔物たちの頂点に立つ存在。姿は人間に酷似していて、絶大な魔力を持ち、魔王軍を率いた。

 でもそれはお話の中のことだと思っていたし、だいたい全滅したとか書かれていたし、リオは片目がちょっと人と違うし、それに――これが第一の理由だが――態度も見た目も弱そうだったので、人の姿をしているからこいつは魔族、という風に結びつけて考えることができなかったのだ。


「魔物の中でも特別に強い、竜より強い、魔族……。こんなのが……」


 頭がくらくらしてきた。食事係のくせに。ナルジフにこき使われているくせに。


「まぞく?」


 リオが首をかしげている。魔物が通じないのだから魔族もダメなのだろう。ミルファは頭を上げて、リオに疑問をぶつけた。


「じゃああんたは氷の塔で一番強いの?」

「うん」

「じゃああんたは実は仲間の中で一番えらいの?」

「そうだよ」

「じゃああんたは、なんで、ナルジフの命令をきいてるの?」

「ナルジフは命令なんてしてないよ」

「で、でも言うことを聞いているじゃない」

「それは命令じゃなくてお願いだよ。だってナルジフは正しいんだもの」


 また出た。苛つくのをおさえながら、ミルファは質問を続けた。


「ナルジフはあんたより弱いんでしょ?」

「うーん、魔力量ならゾラナの方が大きいかも。パットと同じくらいかな? でもナルジフは物知りだからね」

「じゃあなんであんたは食事係なんてしてるのよ!」

「それはだって僕が一番強いから。あれ、ミルファは知らなかったの?」



 これまでも散々そういう風に表現してきたけど、リオの話というのは基本的に要点が掴みづらくてわかりにくく、長い。だから、ミルファはこの時も幾度も説明を求め、疑問点を洗い出し、それていく話題を引きずり戻し、繰り返し質問して、どうにか彼女の中で話をつなげることに成功した。

 でもそれを逐一描写するとなると時間をとりすぎてしまうから、今回はぼくから簡単に解説させてもらうね。

 何度か話に出てきたけれど、夜界は弱肉強食。やるかやられるかの世界だ。

 基本的に食料を備蓄する習慣とかはないし、貨幣制度もない。物々交換なんかは、たまに成立していたみたいだけどね。でもそれは力の均衡がとれたもの同士がやることだ。弱いものが相手なら殺して奪えばいいだけだからね。

 でも、そんな彼らがコミュニティを成立させる時、その中での殺しは御法度になる。

 なぜって、みんな集まって生活しているのにその中で食い合いをしたら、あっという間に一番強いのだけが残ってしまうだろ?

 だから構成員の食料を調達することは、コミュニティのトップの責務となる。逆に言えば、それができないものはコミュニティを作れないし、それに参加しようというものもいなくなる。小さな集団なら通りすがりを捕まえるだけで事足りるけど、氷の塔くらいの規模になると到底無理だ。

 だから、夜界で雑多な種族を集めた組織を作ろうと思う時、リーダーになれるのは、全員分の食料を集め、彼らの満足するごちそうを――つまり魔力を提供することの可能な、膨大な魔力量の持ち主だけなんだ。

 魔王が闇の国を統べることができたのも、この魔力量がずば抜けていたからだ。彼は家来の魔族たちに魔力を提供し、魔族たちは手下の魔物にこの魔力をさらに分け与えた。魔力という報酬があったからこそ彼らは魔王の元に集い、従い、戦ったんだ。

 もちろん、リオの話していたように、魔力だけでは彼らは生きていけない。残りの分は、魔王に従わない勢力を定期的に襲って賄っていたようだね。まあ、昔の話だ。

 さて、話を戻そうか。



「……つまり、夜界では食事係が一番えらい、ってこと?」

「そうだよ。だってごはんをくれない人の命令なんてきいてどうするの?」


 ミルファは答えに詰まってしまったが、お金をくれない人には雇われない、ということだと変換して納得した。


「でも待って。あんたはなんでそんな財政難になるほど仲間を集めようと思ったの?」

「こんなに集まってくれるとは思ってなかったんだよ……。かなり遠くからも来てくれてさ。でも、今はミルファのくれたものを売ったお金があるから、充分足りてるよ」

「じゃあ、その前。なんで仲間を集めることにしたの?」


 ミルファは既視感を覚えていた。

 ずっと前にもこんな話をした。夜で目を覚ました、はじめの時だ。


「ナルジフがそうしようって」

「なんのために?」

「ええと……その方が楽しいからじゃないかな」


 リオは曖昧に答えるばかりだ。

 あの時は、ただはぐらかされているのかと思った。けれど今は、本気で言っているのだとわかる。

 本気で、わからないままに、リオはナルジフの方針を唯々諾々と受け入れているのだ。


「なんでナルジフの言うことをそうやって聞いちゃうの? 理由を知りもせずに。あんたの方が強いんでしょ?」

「だから、ナルジフは命令なんてしてないってば。ただ僕のいいように計らってくれるんだ。僕じゃどうしていいかわからないからね」


 仲間内で一番強い魔族のくせに、カエルの魔物の言いなりになって。リーダーなんて名ばかりで、食事だけ用意させられて、実権を握っているのはカエル。とんでもない話だ。


「どうしてあんた、自分で考えないのよ! おかしいわよ」

「だって、ナルジフの言うことに間違いはないよ」

「間違ってるとか間違ってないとかそういうことじゃないわ。あんたの気持ちを訊いているのよ。どうしたいの?」

「別に……、どうもしないよ」


 ミルファは呆れかえった。呆れてそれを通り越して、腹を立てていた。

 ただ弱いから、逆らえないのかと思っていた。強くないから、自分を守るために従っているのかと。だけどそうじゃなかった。したいようにできるはずなのに、しないのだ。


「……あんたみたいにからっぽなお人形さんは見たことがないわ」

「そうかもしれないね」

「あたしは馬鹿にしてるのよ! 怒りなさいよ」


 侮辱されたというのに、リオには気に障った様子などまるでなかった。それどころか、眉一つ動かさずにこう言ったのだ。


「僕は人形だよ。そういうふうに造られたんだ」




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