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夜と令嬢 夜界ー4



「この魔術っていうのが、特定の場所と場所を繋ぐことしかできないから、対象物だけを運ぶっていうわけにもいかなくて。ウーシアンだけを呼べるように、もっと小さな穴にすればよかったのかも。でもそうすると、精度がね」

「まずは質問させてもらってもいいかしら」

 話の腰を折られたのを気にする風でもなく、魔物は――いや、男はあっさりと請け負った。

「あ、うん、どうぞ」

「ウーシアンっていうのは誰?」


 男はあっと声をあげて、またぶつぶつと言った。だめだ、もう間違った、とかなんとか。

 こいつはけっこうバカだ。案外簡単に尻尾を出すかも、とミルファは思った。いやいや、油断はいけない。なんといっても、相手は魔物なのだから。


「ウーシアンは、僕らの仲間だ。闇トカゲだよ」

「トカゲ……」


 そういえば、今日、トカゲを見たわ。どこでだったかしら。そうそう、あのいまいましい魔術師の部屋だった。


「ウーシアンは君のこととても感謝していたよ。それで、君をかばって、無事に帰してあげるべきだって主張したんだ。ウーシアンの恩人なら僕らの恩人だ。だから君は、安心してここで待っていてくれればいいからね」

 また話がわからなくなった。こいつは本当に話が下手だ。自覚はあるようだが。

「……えっと、じゃあなんでその、ウーシアンを呼ぼうっていう話になったの?」

 恩人とかなんとかはおそらく誤解だろうが、とりあえず勘違いさせておいた方が身のためのような気がするのであえて触れないでおく。


「そっか! そこから話さないとわからないよね。ええとね、ウーシアンは闇のトカゲだけど、体は小さいし、持っている魔力も少なめだから、昼に出て行くことができるんだよ。もちろん、端っこの方の、影が濃くて長い地域に限るけどね。ここのところ食糧不足だから、ウーシアンもおなかがすいていたんだろうね。影を伝いながら移動して、ごはんを集めに出かけていたんだ。そうしたらニンゲンに捕まっちゃったらしいんだよ。そこからがもう災難で、何日も光の中にさらされて、馬車で遙か遠くまで連れて行かれちゃって。エサは与えられてたみたいだけど、蓄えてた魔力は磨り減るし闇は抜けるしでフラフラ。閉じこめられて、もう少しで解剖されるところだったっていうじゃないか」


「ああ……。それは多分見たわ」

 では全ての元凶はやはりロージャーなのだ。あいつがトカゲをつかまえてケースに入れて、だからいきなり夜が来て、それであたしはこんなところにいるのだ。

 あの、人騒がせな、魔法オタクめ!

 ミルファは心の中でさんざんにロージャーをののしった。絶対にサラをくれてやるものか。あの子の目を覚まさせなくっちゃ。


「うん、衰弱して、すごく危険な状態だったんだよ。君のおかげでやっと動けるようになっても、こっちに助けてって信号を送ることくらいしかできなかったらしい」

「それで、()()()()()()()で、ウーシアンは死なずに帰ってこられたというわけね」


 いったいどういう理屈かはわからないが、恩を売っておくに越したことはない。ミルファは念を押してみた。


「そうなんだよ。本当にありがとう。ウーシアンも君に直接お礼を言いたいと思うけど、まだ弱っているからさ。でもそのうち来ると思うよ」

「そう。じゃあ楽しみにしているわね」

 トカゲに会いに来られて嬉しいはずもないが、ここは相手に合わせるのが一番だ。

「伝えておくよ。えっとそれから……ああ、君の聞きたいことに答えていった方が早いかも。質問はある?」

「あるわ」

 ミルファは情報を整理しながら、ひとつずつ確かめることにした。


「ここは、夜界なのよね。その中の、氷の塔っていう名前の場所で」

「うんそう。みんなで考えたんだよ。いい名前でしょ? 他にもいろんな案があったんだけど、なかなかまとまらなくてね」

 そんなことはどうでもいい。

「ええ素敵ね。それで、みんなっていうのは?」

「えっと……その時いたのは、ゾラナとウーシアン、ピピ、サウザーだね。もちろんナルジフも」

 名前もどうでもいい。つまりは魔物ばかりということだろう。


「あなたたちは集まって一緒に暮らしてるの?」

「そうなんだ。ナルジフが、拠り所となる場があった方がいいって言ってさ。ナルジフはほんとに頭がいいんだよ。ここで暮らすようになってから、仲間もすごく増えたし」

「すごくって、どのくらい?」

 ここは大事だ。

「ええと……数えたことはないな。時々寄ってきて、また出てっちゃうのもいるし。仲間になってくれるのかなと思ったらごはんだけもらっていなくなっちゃうようなのも。でも今……そうだな、百……二百……三百はいないと思うけど……」


 めまいがしてきた。ここは魔物の巣窟だ。最悪だ。


「そんなに魔物を集めて、なにをするの?」

 怖いが聞いておかねばなるまい。ミルファは体に巻きつけた毛皮のはしをぎゅっと握った。


「まもの?」


 妙な間があった。


「僕らはそれ、集めてないよ」

「え、でも……。あなたたちは、魔物じゃないの?」

「僕らが? それ、生き物みたいな意味? 友だちってこと?」

「と……友だちじゃないかも。生き物、夜の生き物ってことよ」

「ふーん……。えっと、なんだっけ、そうだ。みんなで集まって、一緒に暮らしてる」

 話が戻ってしまった。ミルファは根気強く聞いた。

「なんのために?」

「うーん、そうだな。みんな安全に暮らせるように、かな。ひとりより、集まってた方がいいでしょ? 楽しいし。そうじゃない? 昼では違うの?」

「……違わないわ」


 なんだか怪しい。きっとなにかを隠されている。いや、もちろん、なんでもぺらぺら話してくれると思っていたわけではないが。

 もっと気軽な感じに、警戒されないように、話の流れを持っていかなければ。


「じゃあ、ねえ、どうしてあなたがここに来たの?」

 気を許してもらうには、当人のことを話させるのが一番だ。自尊心をくすぐっていい気分にさせてやれば、口も軽くなる。……少なくとも、昼界の男なら。

「どうしてって、ええと、君の様子をみるためだよ」

「なんのために様子をみるの」

「ナルジフに言われたから」

 どこかずれた答えだった。


「ナルジフ? それは誰」

 さっきも聞いた名前のような気がする。親玉だろうか。

「ナルジフはいいやつだよ」


 ――やっぱりこいつはバカなのかもしれない。


 三百弱もいる魔物の中から、なぜよりにもよってこの話し下手が選ばれたのやら。

「あ、わからないよね。ナルジフはね、カエルなんだよ。すごく長く生きていて、物知りなんだ。なんでも知ってるんだよ。ウーシアンを助けるのも、ナルジフが」


 カエル! カエルに命令されて言うことを聞くなんて。魔物にはなりたくないものだ。


 カエルの話が止まらなくなったので、ミルファはもっとも大事なことを確かめるべく口を開いた。

「で、恩人なのに巻き添えでこの氷の塔まで来てしまったあたしを、どうしてくれるの?」

「君はどうしたい? 帰りたいよね?」

「当たり前でしょ! ……できれば、そうしたいわ」

 いらいらして思わずきつくなってしまった言葉を和らげるように付け足す。そういえば、おなかがすいた。パーティの会場で食べたケーキ、あれ以来なにも口にしていない。


「だよね。でも少し待っていてほしいんだ。夜が満ちるまで、時間がかかるから」

 詳しく聞こうとした時、野犬の遠吠えのような声がした。

「あ、エンディアが呼んでる」


 男が動いた。まだらの目が遠ざかる。

「そろそろみんなおなかがすいたかな……。僕は戻らなくちゃ」

 え、ここからが大事なのに。そう思ったが、呼び止められる雰囲気ではなかった。

「終わったらすぐ戻ってくるよ。その時は灯りを持ってくるからね。待ってて」


 風が起こり、静寂が訪れた。

 ミルファはまた真っ暗の中で座り込んで、膝を抱えるはめになった。


 先に灯りを持ってきてもらえばよかった。それとも食べ物を。あいつ、食事係なのかしら。下っ端だわ……


 いったいいつまで、ここでこうしていればいいんだろう。

 考えているうちに、ミルファは眠り込んでしまった。





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