序
はじめまして。このページを開いてくれてありがとう。
こうしてきみとぼくが繋がりを持てたことを、まずは喜びたい。本当に嬉しいんだ。だってぼくたちは、普通なら絶対に知り合うことのない存在なんだから。
ゆっくりしていく時間はある?
もしそうなら、このままぼくの話を聞いてほしい。伝えたいことがたくさんあるんだ。べつにきみの世界の運命とか、そんなことには全然関係のない、つまりきみにとっては価値のない話だろうとは思うんだけどさ。
でも、面白いかもしれないだろう?
だからよかったら続きを読んでいってよ。
ええと、何から話そうかな。そうだ、「夜と令嬢」なんてどうかな?
これは、ぼくの世界でずっと前に起こった事件をもとにした物語なんだ。
筋書きは簡単。ある日小さな国で貴族のお嬢さんが行方不明になり、国を挙げての捜索がはじまる。イトコのお姫様と魔術師も救出に向かって、どうにか彼女は戻ってくるんだけど――
その後、彼女はまたどこかへ消えてしまいました、っていう話さ。
これはぼくの世界ではけっこう有名な出来事なんだけど、その国の歴史書を見ても一ページより少ない量で簡潔に記されているだけだ。大規模な捜索があり、一度は発見された彼女がまた姿を消した――怪奇事件の一種のように、未解決のままで結ばれている。
でも謎のまま終わっているからこそ、民衆の興味をひいたんだろうね。
戻らなかった彼女は魔族に殺されてしまったんだとか、頭がおかしくなって家の者が姿を隠してしまったんだとか、はたまた悪い男にたぶらかされて駆け落ちしたんだとか、諸説ある。色んな形の物語として残っているんだ。
だけどぼくの手元には、もうちょっと詳しい手がかりが残されているんだよ。中にはぼくの推測も混じるけど、たぶん事実に近い話になっているんじゃないかな。
それじゃ、はじめよう。
あ、ちょっと待って。その前に、ぼくの世界がどういうところなのかについて、説明しておきたいな。できるだけわかりやすく……そうだ、ちょうどいい本があった。
まずはこっちから、引用させてもらうね。
タイトルは「闇と光の空」だ。
……え? 関係ない長い話を読むのはいやだって?
いやでも、少しは関係あるし、子ども向けの童話みたいなものだから、すぐに終わるよ。
……童話なんか興味ない? そうか、じゃあ二ページほど飛ばして読んでくれたらいいよ。そこからが本題だからね。