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第75話 似たようなもの

 秀治は子供達と作戦会議をしている様子を俺は少し遠くから眺める。

 あいつは子供と話すのは得意だからああいうのは似合っているなと頷きながらも、俺は後ろを向き始める。


「かくれんぼか……」


 授業の一環でもかくれんぼは流石にやったことはねえし、俺は小学生のとき友達と遊ぶなんてことは全くしてねえからこういうことを大人になって初めてやるというのは案外変な感覚だ。亜実から五十数えてから見つけに来てねと言われたことを思い出しながらも作戦会議が終わったようで散って行くような足の音が聞こえてくる。


 俺は目を瞑りながらも五十を数え終える。


「……秀治の奴、結局なんでこんなところにいたんだろうな」


 子供と秀治を探し始めながらも俺は独り言を言う。

 俺が言えたようなもんじゃねえが秀治がなんで此処にいたのかが気になって仕方ない。

 確かこの辺に住んでいるという話を聞いたことはあったが何故公園のベンチに座って空を見上げているような状態になっていたのかが気になる。一つの考えとしては食べ過ぎでベンチに座って休憩していたとかそんなところだろうが……。にしてもあいつとは久々に会ったな。


 秀治が此処最近何をしていたのかはあんまり知らねえから何をしていたのかを後で聞いて見ることにするか……。あいつとは色々話してえことがあるしな……。


「そういやあいつも俺のことは竜弥と呼んでいたな……」


 高校時代の俺の素を知っているとはいえ、俺のことを竜弥と最初から呼べた奴なんて千里や恭平だけだからな……。そこも気になるな……。





「案外いないもんなんだな……」


 子供だから単純な場所に隠れているかもしれないと見ていたが、案外子供というものは侮れなもんだな。何処に隠れているのか見当もつかない。予想や想像で考えて此処にいるだろうというのしか思いつかない。こういうのゲームの一環だからセオリーを考えれば何処に隠れているのか分かるもんなのかもしれねえが……。


「そうだな、滑り台の方でも探してみるか」


 ああいう場所に隠れている可能性だって全然あり得るだろうしな……。

 こんな茂みの中とか隠れているのは狙撃手ぐらいだろ……。





「秀治か……」


 滑り台の裏に行くと、靴の先のようなものが見えていた。誰か隠れてるのかもしれねえと思って俺は見に行くとそこには秀治が居た。


「あれ?もしかして見つかっちゃったかい?」


「ああ……お前が一番最初だぞ」


 まるで自分がこんなにも早く見つかるなんて……と言いたそうにしている秀治だが見つかってしまったという事実が変わることはねえ。


「お前なんで公園にいたんだ?」


「ああ、それはね……ちょうど食べ過ぎて公園があったから休んでいたところだったんだよ」


「そんなところだろうとは思っていたがな……」


 秀治のことだ……。

 食べ過ぎ以外でああいうふうに休憩していることはないだろうからな。高校生の頃秀治と一緒に牛丼を食べに行ったとき、あいつは牛丼屋の裏メニューを俺の前で堂々と頼んで俺は心配になったが「大丈夫」と言ってあいつは平らげたり、大盛りの食堂に連れてかれて一緒に食べに行くことが多かったのを知っている。こいつの胃袋はバケモンだ。


「それにしたって空を見上げていたってのはちょっと間抜けだな」


「言わないでくれよ竜弥、俺も少し恥ずかしかったんだから」


 大の大人が公園のベンチに座って黄昏れているような状態になっていた。

 本当のところは食べ過ぎっていう点も面白いもんだ。


「だろうな、俺は木々の方を探すから秀治の方はタイヤが埋もれてる方探しに行ってくれねえか?」


「お安い御用だよ」


 分けた方が残りの奴らを探しやすいと判断した俺は秀治と分かれることにした。

 作戦会議をしていたから残りの奴らが何処にいるのか、知っているかを聞こうともしようと考えたがそれをしたらゲームとしてはつまらねえし言わなかったということは秀治は詳細な場所までは知らねえんだろうな。





「さて……此処は……どうだろうな」


 案外子供というのはこういう足の踏み場が悪いところに隠れて此処なら誰も来ないという絶対なる自信をもって隠れていたりすることが多いから、果たしてどうだろうかと見ていると、俺は大きな木の裏で石ころが一瞬動いたのをすぐに気づいた。


「誰かいるのか?」


 これでかくれんぼの相手じゃなかったら恥ずかしい思いをするのは俺の方だなという意識がありながらも俺は木の後ろに隠れている何かに話しかけていると、一人の少女が木の後ろから現れていたが俺はその少女のことを見てああ、あの子かとなっていた。


「み、見つかっちゃった……」


 大きな木の裏から見つけたのは先ほど俺のことを見ていた女の子だった。

 これ以上彼女に余計な気持ちを持たせたないためにも俺は淡々とした口調で指示をする。


「見つかったな、それじゃあ俺は引き続き木々の方を見てるからえっと……」


「みかさ……」


「みかさ……悪いな。それじゃあ、みかさはあっちの遊具の方を見に来てくれないか?」


 こういうときいつもは目線を合わせて話すことが多いんだが俺はこの子に関しては少し突き放すようにしていた。今の俺だったらきっとこういう子でもちゃんと真摯に話していたのかもしれねえが子供とはいえあんまり幻想を抱かせるのもな……というのが俺の思っているところだ。


「竜弥さんと……一緒に探したい」


 みさかはモジモジとしながらも俺に訴えかけようとしてくる。

 ……参ったな、こりゃあ。普通の女ならこういうとっとと断ることが出来るんだが女の子となるどう断ればいいのか全く分からねえな。泣かれたりしたらどうすればいいのかも分かんねえし……。


「俺の手伝いをしてくれるのは有難いんだが……一緒に探してたら時間が掛かって俺達の負けになっちまうからな……。だから此処は分かれて探したいんだ、分かってくれるか?」


「竜弥お兄さんは分けて探した方が助かる?」


 なるほど、そういう手があったか。

 俺の手伝いをすれば俺に喜んでもらえるという意識が芽生えてもっと頑張ろうという気持ちになれる。このかくれんぼというゲームを円滑に進めるためには悪くないのかもしれねえ。


「ん?ああ」


「じゃあ私探しに行ってくるね!!」


「ああ、頼む」


 嬉しそうに去って行くみかさの後ろ姿を見ながらも俺は少し困っていた。

 子供に好かれるというのは悪い気はしねえんだが、あの好かれようはちょっと別の意味でしかねえ気がするんだよな。幼稚園児が幼稚園の先生を見て将来は先生と結婚する!と言うのとは違ってな……。俺は非情に頭の裏を掻きたくなる事態にどうするかと悩みながらも俺は他の奴らを探し出そうとしたときだった、茂みの中から誰かが現れて俺の背中をボカボカと音を立てながらも拳で殴っていた。


「みさかから離れろ!!」


 少年のような声が聞こえきて俺は後ろを振り返ると、そこには先ほど俺のことを睨んでいた少年の姿があった。隠れていたはずなのに出て来ちまったからこれじゃあかくれんぼの意味がねえな、まあいい。とりあえず三人目だ。それにもうみかさはいねえし……。


 って今はそんなことよりも……。


「……好きなのか?」


「なっ!?」


 好きなのか、と言われて顔に「はい、図星です」と言わんばかりに顔を真っ赤にしている少年。

 ああ、これは間違いなくみかさのことが好きなんだろうなというのがモロに伝わって来る。


「ち、違う!!!あ、あいつとはそんなじゃねえし……!!全然ちげーから!!」


「じゃあなんでそんなムキになってるんだ?」


「な、なってねえし……!」


 この感じ、俺にも正直懐かしいものを感じていた。

 香織に俺と千里の関係を茶化されていた時期もあったから俺はいつも「なっ!?」と言いながらも、「そ、そんなんじゃない……」と言っていたのを覚えていたからだ。


「好きなら好きでいいだろ、素直になれよ」


「うっ……」


 図星なのか何も言えなくなってしまう少年。


 素直になれよ、か……。

 俺も大概人のことを言えたもんじゃねえが俺の場合は千里に甘えたくないから出来れば関わりたくないって言うだけだと自分を納得させていた。


「と、とにかくうるさい……!か、関係ないだろ……!」


「俺に取られてもいいのか?」


「は!?」


 少しばかりこの少年の反応を見ているのが面白くなってきた俺は少年が何処までみさかに対して本気なのかを見てみたくなっていた。


「い、いいわけないだろ!!」


「じゃあどうしたいんだ?このまま指咥えていつか誰かに取られちまってもいいって言うのか?」


「それは……それは……絶対にやだ……。だからみさかは俺が……俺が……守るんだ」


「……そうか、なら頑張れよ」


 俺が守る……。




『俺はどんなことがあっても俺が千里の傍にいる。絶対に守るから……!』


 あのときと似たようなもんだな。

 まさかこんなところでも自分の写し鏡とやらを見せられるとは思わなかったが、今回ばかりは悪い気はしねえな……。



「え?え?う、うん……!」


 俺の言葉を素直に聞いてみかさの方へと走り始めて、彼女の方へ行くと何か話を始めていた。




「みかさ……!おれも一緒に探すから!ブランコの方見て来る!」


「え?うん!じゃあ私はジャングルジムの方を見て来るね!!正俊!!」


「あの兄ちゃんよりいっぱい見つけるから任せて!!」


 俺は知らなかった、二人の関係がお互いに呼び捨てで名前を呼び合うほどの関係であったということを……。その会話は俺に聞こえることはなかったが、なんとなくどんな会話をしているのかは理解していた。





「俺も千里の前ではあんな感じだったのかもしれねえな……」





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