第74話 かくれんぼ
「この後はどうする恭平?もう少しゲーセンで遊んでいくか?」
「すいません、ちょっと僕疲れてしまったので何処か休憩できるような場所で休ませてもらうことって出来ますか?」
何処か休めるような場所か……。
この辺なら確かすぐ近くに公園があったはずだ。ベンチに座って休むぐらいは出来るかもしれねえ。近くに喫茶店もないことだし公園にでも行くか、俺は恭平に「公園でいいか?」と言うと小さく頷いたのを見て恭平の様子を見ながらも俺は歩き始めていた。
朝集合してずっとゲーセン三昧だったんだ。
目が疲れていたりしていてもおかしくはねえはずだ。俺は恭平に気を遣って話しかけることはせず、公園へと辿り着くのだった。
「すいません竜弥さん、此処最近ちょっと大会の練習で寝不足でして……」
「そうだったのか、大会に出ることは全然構わねえが自分の体調をちゃんと管理できねえといつか倒れるぞ?」
恭平の言う通り、此処最近の恭平は連日大会に出場したり大会のMCやナレーションをしたりする日々がずっと続いていた。恭平……奏多の視聴者からも心配の声が上がっていたこともあったが「大丈夫」と言い続けていたからな。
そりゃあそんなに無理し過ぎの連続で睡眠なんか取れる訳がねえだろうな。
「分かっています……少し眠ってもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
恭平は公園のベンチにもたれ掛かるようにして座り、目をゆっくりと閉じるとすぐにぐっすりと眠り始めていた。眠っている恭平の顔を見ているうちに俺まで眠くなりそうだった為、ベンチから立ち上がりながらも周りの様子を見る。
冬休みの時期ということもあってだろう、子供が遊具を使って遊んだり、追いかけっこをして遊んだりしていた。今じゃこういう光景っていうのも中々見れるもんじゃねえだろうな。外で遊ぶなとか色々面倒なルールを後から付け足されるせいで子供も外で遊ぶことが出来なくなっているみてえだしな。それなのに大人と来たら最近の子は外で遊ばないとかてめえらが積み上げて来たもんをぶっ壊してきただけだろうと言いたくなるような矛盾が多いが今はこんなことはどうでもいいな。
それにしても案外悪くねえな、こういう子供が外で遊んでいる光景ってのも……。
「あっお兄ちゃん、お久しぶり!」
周りを見ていると、目の前には俺に手を振っている少女の姿。
俺はその少女に何処か見覚えがあった。厳密に言えば俺ではないが……。
「もしかして……亜実か?」
恭平や亜都沙とスカイツリーに行ったとき、迷子になっている子供である亜実を今の俺が探していたこともあったな。亜実は勇敢で強い子だというのを俺は知っているからこそ俺達はあの子が平手打ちされたとき初めて共鳴したんだろうな……。
にしてもこんなことって本当にあり得るんだな。
正直この子とはもう会うことなんてないだろうと見ていたがまさかこんな偶然があるとは本当に驚いたぜ。
「ん!お兄ちゃん、お久しぶり!!隣に座っている人はお兄ちゃんと一緒にいた人だよね?どうして寝てるの?」
隣でベンチにもたれ掛かっている恭平の姿に指を差す。
「ああ……まあ恭平は少し疲れてるみたいで今はぐっすり眠っているところだ」
亜実は俺の話を聞いて「ふーん?」と納得しているようだった。
恭平の方を見ると何か寝言のようなことを言っているが話的にゲームのことに違いないだろう。夢にまでゲームとは本当に好きなんだな。
「そういや今日は一人で此処に来たのか?」
「うん、お父さんお仕事行ってるからその間に公園で遊んでいるの」
元気なことだな、家でゲームをやるってのも別に悪いことでもねえがちゃんと外に出て遊ぶという思考が出来るというのは本当にいいことだ。俺が小学生の頃は人目を気にして外で遊ばないでいつも家でゴロゴロしていた記憶があるし、当時はまだゲームなんて買って貰えなかったからな。
「一人で遊んでんのか?」
「ううん、友達と遊びに来ているの。ほらあそこで今鬼ごっこをしているでしょ?」
亜実が見た方向を見ると四人ぐらいで鬼ごっこをしている。
四人で鬼ごっこはすぐに終わっちまう気もするがそういうことを言うのは野暮ってもんだろうし、亜実も入れて五人もいるんだ。なら悪くねえのかもしれねえ。
「あっ、そうだ!お兄ちゃん!次はかくれんぼをやるんだけどどう?」
「やらないって……俺大人だぞ?俺いる方が有利じゃねえのか?」
「じゃあそしたら鬼がお兄さん!!50数えたらスタート!!子供が相手だから少しぐらい手加減してくれるよね?」
「……ふっ、そう来たか。子供相手に手加減するのはどうかと思うが俺だけでも流石に有利だからな、いいぞ」
「じゃあお兄ちゃんのことみんなに紹介してくるから待っててね!!」
亜実は子供に俺のことを話している。
はっきり言って亜実以外俺のことを知らないし、二十一歳の知らん奴と一緒にかくれんぼをしようと言われても警戒心というものがあるに決まっているかもしれねえ。よく考えてみれば、亜実に本当の妹でもないのに「お兄ちゃん」と言わせてる時点でどうかっていう話もある。
「お兄ちゃんか……」
亜実の懐きっぷりは結衣のことを思い出させる。
結衣は俺に大しては生意気な妹って感じで懐いていてくれていた。俺が夕飯ラーメンに誘うとうどんがいい!と抗議の声を上げていたことがあった気がする。俺はラーメンに関しては絶対に曲げたくない人間だったから、ラーメンにすると決めたら絶対にラーメンを食べに行っていたし毎食のようにラーメンを食べていたから結衣としても本当に嫌だったんだろう……。
「お兄ちゃん!!いいってさ!」
「よくオッケーもらえたな……」
俺は亜実に手を引っ張られながらも子供が多くいる方へと案内される。
子供は自分たちより体格の大きい俺のことを見上げるようにして見ていた。見上げられる気分ってのも案外悪くねえな、雲高い人物を見られているようで……。
「あー……急に悪いな、お前ら……。みんなとかくれんぼをすることになった竜弥だ、よろしくな」
なんて挨拶をすればいいのか分からなかった俺は適当に挨拶を済ませると、俺の方を見ていた全員の視線の中で一人だけ一瞬逸らしていたような気がしてその子の方を見るとおさげの女の子がモジモジとしている。
「……ああ、そういうことか」
女の子が何故モジモジとしているのか、俺にはすぐ分かった。
一瞬目が合ったが再び逸らされたのを見てすぐに分かった。これは自慢じゃねえが今の俺が働いていたときよく高身長でイケメンの店員さんがいると言われていたことがあった。俺目当てに来る客とかも普通にいたし逆ナンしてくる奴とかも居たからな……。まあ要はあの子は一目惚れしたんだろうがもう一つ気になっていたのがそれに気づいたっぽい少年の一人が俺のことを凄い睨んでいる。
「思ったより修羅場なかくれんぼになりそうだな、こりゃあ……」
子供のくせに昼ドラみてえな展開だけになることは御免願いたいところだが、果たしてどうなるかは……これから分かることだろうな。
「あの……もう一人参加いいですか?」
「ん?ああ……全然俺は構わねえが友達か……?」
俺に話しかけて来た子供の一人が俺に挙手をしながらも俺に言って来た。
「友達って訳じゃないんですけど……そこのベンチで一人でずっと空を見上げてた人なんですけど……」
「空を見上げてた……?」
状況がよく分からないため、俺は困り果てていると地面と靴が密着して音が立てているのが聞こえていた。俺は近づいて来る音の方向を見ると、そこには満腹だったのかお腹を擦っている青年の姿があったが俺は彼のことを知っている。
「秀治……!?」
「久しぶりだね竜弥……」
「かくれんぼ、俺も参加いいかな?」




