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第72話 心の変化

 竜弥さんが俺の家に来ると聞いたとき、俺は慌てていた。

 あの手紙を読んで此処まで来てくれたのかもしれないけど、まさか家にまで来てくれるなんて夢にも見ていなかったから本当のことか?と何度も頬を抓っていた。


 机の上に置かれている宅配で頼んだ弁当をゴミ袋に入れて片付けを始める。

 別に部屋は汚くしている訳じゃない。あの人に見せられないほど部屋を汚くなくしている訳じゃないけど、それでも竜弥さんを家の中に入れるならちゃんとしておかなければならないという意識があった。秘蔵なものは何処か安心できるような場所に隠して僕は準備万端の状態になり、後は竜弥さんを迎えるだけ……折角竜弥さんが来るんだこのサインも見せてみよう。


 額縁に入れてある竜弥さんのサイン。

 ちゃんといつも埃が被らないように綺麗にしてあるこのサインを見せて大事にしているということを教えたい。なんて反応をしてくれるかと期待しながらもドアに触れるような音が聞こえて来て、僕は玄関で竜弥さんのことを今か今かと待っていた。


 竜弥さんに最初言うことは勿論決まっている。

 このサインの話をどうしてもしたい。今でも大事にしていると……。





「本当にありがとう恭平……」


 竜弥が僕の家の中に入ってきた途端、僕のことを抱きながら泣いていた。







 ◆


「悪い……情けないところを見せて……」


「気にしないでください……」


 恭平の部屋の中に入って来て俺がすぐに目に入ったのは俺というより神無月ロウガのアクスタを筆頭にしたグッズ関連のものだった。初回グッズみてえなもん、夏やハロウィンといったグッズが置かれているのが見えていた。


「あ、あんまり見ないでください……」


「別に何も言わねえから安心しろ……大事にしてくれてんだな」


 棚に置いてあり、埃もちゃんと払っており手入れしているのがなんとなく伝わって来る。


「は、はい!!その……手紙って読んでくれましたか?」


「ああ、読んだよ」


「読んでくれたんですか!?」


 手紙を読んだという言葉を聞いて恭平は顔を明るくしていた。こういう特別扱いというのは本当は良くねえのかもしれない。わざわざ家に出向いて手紙に関することを言うなんて……。また香織に怒られちまうな……。でもいいだろう香織、恭平は此処まで滅茶苦茶頑張って来たんだから……。これぐらいしてやっても全然構わないだろ。


 恭平はプロゲーマーになるために色んな努力をしてきたことは俺も知っている。

 大会に参加するだけじゃない、自分を売り込むために色んなデバイスの案件を貰ったりして自分のことを認知してもらおうとしていた。その一生懸命さが伝わったのか、恭平の視聴者は切り抜きを作ったり彼の配信ツイートやツイートをRTしたり、共有したりしている。偶に本人の変なツイートまでされていて本人が困惑しているが……。


「手紙読んだぞ、俺はお前の救いの人か……」


 結局俺は恭平に対してなにもしてないという言葉は言ったが、その言葉の節々には投げ捨てるような言葉の数々はなかった。


「口に出さないでくださいよ……結構クサい言葉を書いたって言う自覚あるんだから恥ずかしいんですよ」


「別に気にすんなよ、俺のこと……坦々のこと……神無月ロウガのことをそんだけ好きでいてくれてたんだろ?」


「はい……!!」


 良い返事だ。

 これだけで恭平が俺のことを本気で好きで居てくれたということが分かる。にしてもこんなにも俺と楽しそうに話してくれているのを見ると本当に俺のことを好きなんだなという気持ちが嫌でも伝わって来る。


「俺のことを救いの人と呼んでくれるのは嬉しいんだが最終的には恭平が決めて行動して此処まで来れたことだろ?俺はあんまり何かをしてやれていた訳じゃないだろ?」


「そんなことないですよ竜弥さん!!僕は竜弥さんの活動を見て竜弥さんのように上手いゲームプレイや視聴者の上手い捌き方を見て俺もこんなふうな配信者になって、何れはプロゲーマーになりたいって気持ちが強まったんですから!!それにあのサインを貰って僕はもっともっと!!頑張らなくちゃいけないという気持ちになれて竜弥さんと一緒に大会に出場出来て本当に嬉しかったですしあんなふうに指示が出来て場を和ませたりできたらいいなって思えたんですよ!!」


 本当に本条恭平という人間からには俺に対する熱量というものを感じさせてくる。

 聞いていて嫌にならないし、こっちももっと頑張らなくちゃいけないなという気持ちになる。恭平は俺のことを人を和ませる力があると言っていたが俺がそういうのを持っているのだとすれば、恭平は人を温かな気持ちにさせるなにかを持っている……。


「それに竜弥さんともっとちゃんとお会いしたいなって思ってるんです!!ほら僕達ゲームが好きじゃないですか!!だから一緒にゲーセンに行ったりして音ゲーしてスコアを競い合ったり、格ゲーで対戦して、シューティングで一緒に敵を蹴散らしたりしてみたいんです!!絶対楽しいからいつかはやってみたいなって言う気持ちがあって!!」


「明日行くか?今からだと恭平が時間帯的に無理だろ?」


 一旦時間を見る。

 既に18時は過ぎている為、今日ゲーセンに行くというのは少し難しそうな感じであり、俺は明日行くのを提案すると恭平は顔をパーッと光らせていた。


「え!?い、いいんですか!!?」


「俺は全然構わねえぞ」


「な、なら明日行きましょう……!!」


「ああ、それじゃあ明日な!!」


「はい!!」


 恭平とゲーセンに行く約束をして俺は一旦家へと帰ることにした。

 家に帰った後、恭平の家の前で集合という話になり俺は少し心が緩やかな気持ちになりながらも明日という日を待つことにした。






「俺最近つけられてばっかだな……」


 次の日、恭平の待ち合わせの為に家の前にやって来ていたが、俺が駅のホームを下りた辺りで誰かが俺のことをつけて来ているような気がしていた。





「竜弥さんお待たせしました!」


「ああ、それじゃあ行くかゲーセン!!」


「はい!!」


 とりあえず今は放置しておいても構わないだろう。

 ただ俺のことを監視しているってだけだろうしな……。






 

「そういえば、最近のゲーセンってどうなんだ?クレーンゲームが多いイメージしかねえぞ?」


 家でのゲームの方が圧倒的に多くて外でゲームをやるなんてことは最近はあまりしていなかった。


「確かに最近のゲーセンはクレーンゲームが多い印象ですね……アーケードゲームや音ゲーも限られたものしか置いてないことなんて結構ありますから」


 それだけゲーセンという場所に人が寄り付かなくなったのもあるんだろう。

 今じゃクレーンゲームだってオンラインで取ることも出来たりして話題になったりしてVとか配信者とかも宣伝していた時代もあったな。


「恭平はやりに行くことあんのか?ゲーセンのゲームは?」


「僕ですか……?そうですね、偶に格ゲーをやりに行くときにやったりはしていますね」


「へぇ、そうなのか……。格ゲーって言うとロボットの奴とかか?」

 

「ロボットのは最近やりに行ってないですね、最近はもっぱらウルトラファイツとかやってます」


 ロボットの奴は治安悪い治安悪いと言われて何度かやったことがあるが、一度やりに行って俺が負けたときに「お前弱いな」とか言われた。ムカついたから必死に猛練習してそいつのことを打ち負かしてやったけど。


「ウルトラファイツか……あのゲームは数年前に結構ブームが来て熱かったんだよなぁ。大会とかも盛り上がって俺も白熱してモニターの前でかじりついてたっけ」


「ですよねですよね!!分かります、僕もスマホから大会の様子見てたんですけど本当に熱くて!!達人しかいない最強対最強の戦いって感じでもうほんとに凄くて!!」


 恭平は熱くなっている。

 手に汗握りながらも配信を見ていたんだろうというのが伝わって来てこれだけでも恭平という人間がゲームというものが好きだと言うことがよく分かる。俺なんかよりほんとゲームが好きだよな恭平は……。


「大会といえば恭平最近絶好調で色んな大会で優勝してるらしいな、普通大会で何度も優勝なんて難しくて出来ねえもんだぞ」


「そうですね、おかげでチートと外部ツール使ってるとかあらぬ疑いまで掛けられて色々と大変でしたけど今はもうそういうことを言われることはなくなりましたね」


「大変だな大会優勝者っていうのも……」


 恭平と一緒にゲーセンを目指していると恭平が教えてくれたゲーセンに着いた。

 一階はどうやらクレーンゲームがメインとなっているようだが、二階はアーケードメインのゲームが多いようだ。確かに此処なら恭平が好きそうなゲームは多いかもしれない。恭平が先に入って行く姿を見ながらも俺も一緒に進みだそうとしたとき声が聞こえて来た。



『ねぇ……?』


『なんで昨日からずっと楽しそうに喋ってるの?復讐はどうしたの?まさかやめるなんて言わないよね?彼が好きなのはゲーム実況者だった頃の俺や神無月ロウガであって僕じゃないでしょ?』


 うるせえな、人が今楽しそうに喋っているときに……。


『恭平はちゃんと俺のことも見てくれてるだろ』


 最初の人格の竜弥にとって宮下風夏という自分に初めて優しさを与えてくれた人物以外どうでもいいんだろう。だから恭平のことを平然と馬鹿にすることが出来る。


『何処が……?』


『お前は分からないのかもしれないが、恭平はちゃんと樫川竜弥としての俺のことを見てくれている。じゃなきゃこんなにも俺に対して笑顔で接してくれる訳ねえだろ』


 高校時代の竜弥の俺としても恭平は俺のことを見てくれてるというのは分かっている。

 ただ単に神無月ロウガやゲーム実況者だった頃の俺が好きなら俺がゲーム実況者をやめた時点で俺が渡したサインなんて捨ててるかオークションサイトに投げ捨ててるに決まっている。残念ながら人というのは残酷なもんで一度消えた存在のことなんてすぐに忘れようとするが、恭平の場合は別だったんだろう。


 SNSで俺に頑張れと簡単に言われた言葉が恭平にとって忘れたくない言葉だったからこそ、捨てることなんて出来なかったんだろう。自分の中でゲーム実況者だった頃の引退というものが何処か思うところがあっても、Vになったことも含めて……。


 だって恭平はあのとき言ってたじゃねえか。

 ──僕は貴方に失望なんかしてませんよ、って。


『今は黙ってろ……』


 俺はあいつのことを睨むようにして恭平の方を再び見てある決意をする。



 


「竜弥さんどうしたんですか!あまり時間ないんで早く行きましょうよ!!」


「ああ、悪い今行く……!!」


 あんなにも真っ直ぐな目で俺のことを見てくれる恭平のことを放っておけるなんて訳がない。確かに復讐は大事だが今の俺は恭平の期待に応えたい。それにあいつはちゃんと俺のことも見てくれている。


「竜弥さんってこういうゲームやったことありますか?」


 恭平がやろうとしていたゲームはダンスのゲームだった。

 ダンスのゲームか、こういうゲームはあんまりやったことがないがやってみるのもありだな、俺は百円を入れて早速ゲームを始めて見ると、曲選択から始まろうとしていた為恭平に適当に選ばせると曲が始まろうとしていたとき……俺は少しこれ恥ずかしいなという気持ちが多少湧いていた。



 と言うのもこのゲーム人の目がどうしても気になってしまうのだ。

 もう時間帯も時間帯の為、人はそんなに寄って来てはいなかったが俺達の様子を見に来ているのだ。他人の視線もあって俺は少し恥ずかしくなってしまい、ミスが連続で続いてしまっていた。恭はどうなのだろうと隣を見てみると、完璧な様子で踊れているようで見ている人達の視線は恭平に行っていたが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいものだった。ミスをし続けているからだ。





「恭平……こういうゲームも得意だったんだな」


 終わった頃には俺はヘトヘトになっており、春だと言うのに少し汗を掻いていたのだ。

 勝者はもちろん恭平だった。


「そうですね、もしかしたらダンスを練習しておいた方がいいかもしれないんで最近はそういうのも家で練習してるんですよ」


「真面目だな……次はどうする?」


「それじゃあそろそろウルファイやりましょうよ!そういや竜弥さんってウルファイの実力ってどんなもんなんですか?あんまり格ゲーとかやってないですよね?」


「そりゃあ見れば分かるんじゃねえのか?」


 二階にやってきた俺たちはさっそく筐体の前にある椅子に座り込み、百円を入れてゲームを始める。俺が選んだキャラは世界を放浪としている格闘家のキャラクター。対して恭平が選んだのは投げキャラのようだ。見た目に反してそういうキャラを選んでくるか……。


 こういう格闘ゲームでもっとも重要なことは間合い。

 恭平が選んだキャラは投げキャラの為、近づかれればこっちが体力を削られてしまう可能性が高いからな。とにかく近づかなければいいんだ。何度も何度も同じ技の波動を放ちながらも俺は恭平のキャラを寄せ付けないようにしていたがこれだけど正直面白味がない。勝てる戦いに持ち込めてはいるが、これだけだとつまんねえ。


 しゃあない、此処は近づいて攻撃に移行してみるか。

 良い具合のタイミングで俺はカウンターを発動しつつ、俺は恭平のキャラに対してダメージを与えていくが此処で少し油断をしてしまう。このまま行けば勝てるというところで恭平の攻撃が弾かれてしまい、そのまま超必殺技を直撃してしまう。大幅に体力を削られた俺のキャラはそのまま投げ飛ばされて一試合目が終わる。



 恭平の奴……。

 このゲームかなりやり込んでいるかもしれない。そういえば息抜きで格ゲーを配信でやっているところを最近は見たような気がする。


 二試合目……。

 俺は間合いをとりながらも最初の戦法と同様、波動を放ち続けるが恭平は省みることなくなんと攻撃を当てて来たのだ。俺は攻撃を見て分かったことがある。恭平は攻撃の間の取り方がかなり上手い。俺なんかより全然上手いんだ。チョップからの攻撃の連撃、必殺技による攻撃。その全ての間の取り方が上手いんだ。領域だけならベテランやプロと言っても過言ではない。それに恭平の真剣な眼差しは液晶を離れることなく見つめていた。僅かな隙でも逃すことなく、攻撃を入れるところはまさしく歴戦錬磨の達人と言っても過言ではなかった。


 結局、この試合は……。


「よっしゃああああ!竜弥さんに二連続で勝ったああああ!!」


 喜びを隠しきれずガッツポーズをする恭平。この勝負を制したのは恭平だった。

 恭平、思っていたよりこの勝負ガチで来ていたな。俺も本気で恭平の相手をしていたつもりだったが、まさか此処まで強いなんてな……。


「恭平……お前本当にゲーム上手いんだな……」


「そ、そうですか!!竜弥さんだってゲーム上手いですよ!!」


「自画自賛するつもりはねえけど、ある程度強い俺が言うんだ。間違いねえよ」


 確かにこの腕前ならプロゲーマーも夢じゃねえかもしれないな。

 それにしても恭平が俺と同様万能型のゲーマーとはな……。そんなところまで俺に似やがって……。


「じゃあ次はどうすんだ恭平、この勝負まだ負けた訳じゃねえぜ?」


「言うじゃないですか、竜弥さん……そうですね、次はホッケーとかはどうですか?」


「いいぜ、その案乗った……!!」


 ホッケー台の前に立った双方のせいもあってか、ホッケー台が熱くなっているような気がしており戦いの火蓋が開け恭平が出て来た円盤のようなもの、パックと呼ばれるものをマレットというものでホッケー台を滑らせながらもマレットでパックを軽く弾くと俺の方へとやって来たのを見て、俺は強めに弾くと恭平の方へと真っ直ぐへと行き、いきなりゴールが決まったのを見て恭平は少し焦ると何かを思いついたようにして声を出す。


「りゅ、竜弥さんって……千里さんのことをどう思ってるんですか!?」


「は、はぁ!?な、なんだよいきなり……!!」


 いきなり千里のことをどう思っているのか、なんて聞かれた俺は恭平が弾いてきたパックに気づくことが出来ず一点を入れられてしまう。俺は焦りながらも出てきたパックを自分のマレットで抑えながらも動揺を落ち着かせようとしながらも言葉の反撃に出ようとしていた。


「じゃあ、俺からも聞くけどお前誰か好きな奴でもいんのかよ」


「な、なにを言ってるんですか竜弥さん!?ぼ、ぼくは……ゲームが彼女ですよ!!」


 この間に恭平から二点奪うことに成功する。

 別に恭平と誰かとの関係を本気で怪しんでいる訳じゃない。あいつと仲がいいなら別にいいんじゃねえとは思うし、悪いなら悪いで多分俺のせいだろうと言う気持ちはあったけどあそこまで仲が良いなら別にいいだろという気持ちがあった。


「まだ見てんな……」


 駅を降りた辺りからあいつが俺のことを見ていることに気づいていると、恭平にゴールを一点を決められてしまいそうになるが、俺はしっかりと抑え込みことに成功し、そのままパックを軽めに弾くと恭平が再度ゴールを狙ってくるが、それも止めて俺が恭平のゴールへと助走をつけてパックを弾くと、恭平のゴールの方へと入って行く……。



 暫く攻防一体が続くなか、恭平と俺の点数は互角となっていた。

 後残り一点で全てが決まるという状況、白熱する展開が待ち受けているだろうと思っていたが、最後の一点というものは案外あっけなく情けなく終わることになった。


「竜弥さんは……千里さんに告白とかしたんですか!?」


「なっ!?」


 一瞬の隙をついての恭平の発言に俺は思わず弾こうとしていたパレットの威力を弱めてしまう。弱くなったのパレットはそのまま恭平の方へと向かい、恭平はこのまま畳み掛けると言わんばかりにパックを弾くと俺は恭平の言葉に何も言うことが出来ず、手を止めてしまい、ゴールに入ってしまうのだった。


「よっしゃああ!!竜弥さんに三連続で勝った!!」


「お、おい!!今のはないだろ!!?」


「なんですか……?負けたのにノーカウントにして欲しいとか言うんですか?」


「……くっ、分かったよ」


 結局負けたという事実は何も変わりねえ。

 自分にとって都合の悪いことを言われていたとしてもな……。


「それじゃあ、次は音ゲーで勝負しませんか!?スコアが高い方が勝利ということで」


「ああ、構わねえけど……少し待ってくれねえか?」


「え?はい……!!」


 恭平が音ゲーの方に向かっている間に俺は先ほどから俺のことをつけている人物のこと探し出そうとする。さっきはそこのアーケードゲームから顔を出していたから多分まだ同じところにいるはずなんだが……。






 ◆


 駅のホームで偶々見かけてついて来て此処まで来てしまったけど、良かったんだろうか……。恭平の部屋でなにが起きていたのかは分からない、でも恭平の今の表情を見る限り何か悪いことをしていたわけじゃないのはなんとなく分かる。


 それでも私が帰ろうとしないのはなんとなく不安な気持ちがあったから。


「なにしてんだよ恵梨」


「!!?」


 竜弥っぽい人の気配に全く気付かないでいた私は筐体の角に足をぶつけて逃げるどころの話ではなくなり、変なところを見せてしまう事態になってしまった。


「何処から見てた?」


「駅のホームで見つけてずっと追いかけてた……昨日もそう」


「じゃあほぼ全部ってことか……」


 怒られるよね。

 きっといつもの竜弥でも私がこの先に用があるとすればと考えて恭平のことが心配で彼の後をつけて来たなんて言ったら怒るに決まっている。私は何を言われる覚悟も出来ていた。


「……別にずっと監視していたことは怒ってねえよ、お前も恭平のことが心配で俺のことを監視しに来たんだろうからな」


「あいつのことなら俺は危害を加えてないから安心しろ、あいつは俺のことを純粋に尊敬してくれているっていうのは俺にも伝わってるからな」


 私がずっと監視していたことを怒ることはなく、恭平の想いはちゃんと通じているということを話してくれている彼。


「手紙は……恭平が書いた手紙は読んだ?」


 私にとって一番重要なことは此処だった。

 恭平の手紙が書いたあの手紙をあの彼が読んでくれたのか気になっていたのだ。


「恭平からの手紙なら読んだぞ、恭平にとて俺がどれだけ勇気を与えていた存在かっていうのは充分に伝わった。まさか救いの人とまで言われるとはな……でも分かったことがあるんだよ恵梨」


「俺はお前や香織に暴行を加えて……その上千里のことまで悲しませちまった……けどな、そんな馬鹿な俺でも分かったことがあるんだよ」







「自分のことを本気で尊敬して救ってくれたって言ってくれている奴に俺の残影を追いかけるのをやめろって言うほど俺もクソ野郎じゃねえ……」




「良かった……恭平のこと頼むね……」









()()


 竜弥の話を聞いて私は今の彼なら恭平のことを託せると確信できた。

 今までの彼ならばきっと私は恭平のことを託すことが出来ず、彼に対する警戒心を剥き出しにしていたけど今は違う。彼はちゃんと恭平が伝えたかったことを読み取ってそれを理解して恭平と一緒に居てくれる。


 私は無粋なことをしてしまったのかもしれない。

 これ以上此処にいるのは二人にとって邪魔になってしまうだろうと判断した。





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