第71話 縺九s縺励c
『神無月ロウガ様へ。初めまして、こういうお手紙を書くのは初めてなので少し緊張しながら書いていますがどうしてもロウガさんに伝えたいことがあってこの手紙を送らせていただきました。もう半年以上前に初配信の感想は太陽のように眩しくて明るい人がやってきたなという印象でした』
『初配信で言っていた、視聴者に言っていた俺はその架け橋になりたいという言葉、自分には凄く刺さったような気がしました。と言うのも自分はある目標のために向かって頑張っています。それはプロゲーマーになるという夢です。勿論、半端な気持ちでなれるものではないというのは分かっています。プロゲーマーになったからと言って食っていける人がごく僅かで大半な人がストリーマーという道を取るのを知っています』
『それでも大会での配信を見たとき、自分もあんなふうに分かりやすい指示だったり連携を取れるような人になりたいという気持ちが強くなったのです。神無月ロウガ率いるクセ二ナールの積み上げてきたというものに僕は魅了されていました』
本条恭平は本当はプロゲーマーになりたいという夢の話をするつもりはなかった。
自我を出さずにあくまで視聴者としての恭平になり手紙を送ろうとしていたのだ。クセニナールのドラマ部分というより、ロウガが少し動きが鈍くなっていた理由は全て配信外のためそこには触れず、彼らの仲の良さだけで話を書こうとしていたのだ。自分がメアに引っ張られながらも弄られつつロウガがそれを咎めていたあの頃のことを……。
『チャイナパラダイスではロウガさんの意外な一面を見れて凄く面白かったし、ちょっと色気を出されて何も言えなくなっているところは本当に面白くて面白くてお腹を抱えて笑っていました』
竜弥はあのゲームに関しては少しだけ思うところが今でもある。
それはかつての母親のように自分も結局ギャンブルというものにハマってしまうのかというのに少し苛立ちを覚えながらプレイしていたことだった。ゲームの攻略法とはいえ、こんなものに頼り切らなければいけないのかと少し嫌な気分になっていたのだ。
この後もロウガへの配信の感想を述べていた。特段、竜弥の中で印象に残っていたのは久龍アンナとの関係のことについてだった。この手紙を送って来ていた恭平は「二人の関係を応援したい気持ちがありますが、一視聴者としてゆっくりと眺めていたいです」と書かれていたのだ。普段の彼ならばもう少し興奮気味で書いていたかもしれないがそれを抑えてこの手紙を書いていたのだ。
『ロウガさん、僕は貴方のことを尊敬しています。貴方の活動を通して自分もこれから頑張ろうという気持ちになれることが出来ました。僕にとって貴方は救いの人でした。だからどうしても伝えたいことがあります。ありがとうございました……。きっと貴方には何のことなのか分からないかもしれません、それでも僕に勇気をくれたのは貴方という人だからもう一度この言葉で締めさせていただきます』
『本当にありがとうございました』
この手紙を読んだ竜弥は……自分の中で込み上げてきたものを抑えることが出来なくなっていたからこそ竜弥は走り出すことをやめられなかった。
◆
「何もしてねえんだよ俺は……お前に……!」
ずっと走り続けていた。
目指す場所は決まっていた恭平の家。一度だけ前に通話したときに恭平の家の住所を聞いたことがあった。もしかしたら今後来ることがあるかもしれないという話をしながら恭平は俺に家を教えたことに対して興奮をしていた。
恭平の家に行こうとしながらもチャージしてあった電子マネーを使って改札の中へと入って電車に乗る。駅のホームに行って、来た電車の中に入った俺は電車に既にいた多めの人の中に入りながらも恭平の家を目指しながら恭平の家に行って恭平に会って何を言いたいのかを全く決めずに此処まで来た竜弥はどうしようかとなっていた。
なにもしてない、と言ってしまえば楽になれるのかもしれない。
いや本当になれるのだろうか、竜弥は吊り革にぶら下がりながらも何をちゃんと伝えるべきなのかと悩んでいると、目的の駅に着いたのを見て人の雪崩に巻き込まれないうちに駅のホームから降りると、すぐに人の雪崩は起きどんどん改札の方へと人々は向かって行く様子を眺めながらも竜弥は再び恭平に何を言うべきか悩みながらも俺もまた駅の改札の方へと向かって行く……。
「はぁ……はぁ……此処まで来ちまったな」
恭平が住んでいるマンションの前までやってきてしまった俺は呼吸を整えようとしていた。
自分が此処まで来たのは恭平に対して俺は何もしていないということを伝える為、その為に此処まで来たのだと何度も唱えて俺は迷いを断ち切ろうとしていた。
「来た以上言うしかねえんだ……恭平に……」
部屋の番号を押して俺は繋がるのを待とうとしていると、すぐに「はい」という声が聞こえて来て「俺だ、竜弥だ」という言葉を返すと恭平は「す、少し待ってください!!」と言う声が聞こえた後にオートロックが解除されて扉が開く……。
「言うんだ絶対に……お前は……を追いかけ続けてるだけだって……!!」
「此処か……」
部屋の前まで来て自分の心音を確かめるようにしてゆっくりと深呼吸をする。此処から先に待っているのは恭平だ。あのはしゃぎよう的に恭平が手紙を読んで此処まで来たと踏んでいるはずだ。言いたいことは決まっている。俺はちゃんと言おう、お前に何もしてないと……。
「恭平、お前はいい加減俺の残影を……」
開いていると思われる扉のドアに触れて俺は少しずつ扉を開けながらも言葉を発しているとき、室内から入って来る部屋の明かりと共に俺はあることを思い出そうとしていた。
『坦々さんは本当に凄いんです。ゲームが上手くて優しくて僕と同じ学生なのに本当にしっかりしていて……!!ホラゲーが苦手で美少女ゲーに対する免疫全くない人ですけどそれも見ていて面白いんです!!』
なんだ……なんだこの記憶は……。
なんで今恭平と初めて出会ったときの記憶が今になって溢れて来る。
『じゃあ此処では何が必要になってくると思う?ボスは装甲が硬いんだから、こういうときは何が必要?』
ゲームでの攻略ヒントを聞かれた俺は……自分でこういうのは解く方が楽しいかもしれないという気持ちがあって謎解き方式で恭平にヒントを与えようとしていた。徐々にこういう方にしたらどうだ?というみたいな話を交えながらじゃあこうしたら倒せるかもしれないという話をしていると恭平は本当に楽しそうな表情で俺の話を聞いていたのを覚えている。
『本当だ!!このパーツを付け足したらボスを倒せた!?』
恭平が答えたのは火力という答えだった。
装甲が硬いボスキャラに対してはもっとも重要なのは火力。「火力勝負がものを言うから!」と笑みを浮かべながらも手に持っていたゲーム機を掲げながら恭平は俺に笑顔を向けていた。恭平の笑顔は本当に夏の日差しより明るくて本当にゲームというものに熱中しているというのが俺には伝わっていたし、本当に坦々のことが好きだということが伝わっていた。
だからこそ俺はあの日……あんなにも真剣に坦々のことを見てくれている恭平に対して紙切れで書いたサインを渡してその場を去ったのだ。あの後、香織にはこっぴどく怒られはしたけど俺は後悔なんてしていなかった。
だって後悔なんてする訳ねえだろ。
恭平の目は話しているときずっと純粋そのもので本当に楽しそうに坦々のことを……ゲームのことを話してくれるものだから俺はあいつの為に何かしてあげなくちゃという気持ちが強くなっていたんだ。だから誰に何を言われようとも俺はあの日自分でしたことを後悔なんてしていない。
『……!!?ありがとうございます!!絶対大事にします!!』
バッグの中に何かを忍ばされたということに気づいて恭平はこれまでに感じた事もない喜びというものを感じながらも声に出していた。
ああ、そうか……。
俺が千里以外にも恭平に対しても若干心を開いていたのはきっと純粋な目で俺のことを見てくれていたからだ。純粋な目で坦々という空想の俺を見ていてくれたから俺は……俺は恭平ならちゃんと俺のことを分かってくれるかもしれないという気持ちがあったのかもしれない。
そんな気持ちがあったから俺は……今……恭平のことを……。
「ありがとう……俺のことを……俺のことを……ずっと応援してくれて本当にありがとう……!!」
本条恭平のことを泣きながら抱きしめていたのだ。
恭平に手には俺に見せようと持って来てくれていたのは綺麗に保存されている俺が書いたサインが入っていた額縁。光よりも太陽よりも明るい表情で持って来て見せようとしてくれていた恭平に対して俺は罪悪感を感じていた。
何故なら俺は恭平に対して……。
「坦々の残影を追うのはもうやめろ」
と言おうとしていたのだから……。
でもそんな気持ちは恭平の部屋の扉を開けている間に跡形もなく消えていた。だって言える訳がねえだろ。俺のことをずっと真っ正直に応援してくれていたあいつに傷つけるようなことを言えるわけがねえんだ。
「本当にありがとう恭平……」




