表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

「ああ、こんな人生って……」


 俺は絶望していた。

 下校途中、車にガッツリ轢かれてしまったのだ。

 もう痛さは感じない。

 自分の余命が僅かなことを、既に悟っていた――







「うむ、目覚めたかの」


 気付けば俺は雲の上にいた。

 いや、天にいると表現したほうが良いだろうか。

 なんとも雄大な青空、モクモクと立ち込める大雲。大自然のパノラマをこれでもかと感じさせる風景が広がっていた。


 そしてそんな中こちらを見下ろすように立っているご老人が一人。


「え、えーっと、あなたは一体……というかここは」


「まぁ色々疑問を持つことはあるじゃろう。じゃが安心せい。儂はお主を殺したりはせん。儂は全く野蛮な人間ではないからな」


「それは当たり前でしょう。殺したりなんてしてはいけません」


「儂は神じゃ。そしてここは天界。まぁ神の住まいとでも思ってくれれば構わん」


「ええ、そんな場所にどうして僕なぞ人間ごときが」


「謙遜の極みじゃの。まぁお主がここにおる理由は大きく分けて二つある。一つはお主が死んだから、二つは儂がお主を呼び出したからじゃ」


「……あ」


 俺は反論しようとした。

 俺が死ぬわけないと。

 しかし思い出してしまった。 

 あの血塗られた風景を。

 道路に横たわり、視界に映る左腕が体から離れた場所に落ちている情景を。


「儂がお主を呼び出したのはな、お主を異世界に転生させようと考えておるからなのじゃ」


「異世界に? な、なんでそんなことが。僕は生き返られるというのですか?」


「そうじゃ。お主には物凄い魔力適性が宿っておる。それは異世界でなければ解放できない潜在能力じゃ。お主にはその力を駆使し魔王討伐を頼みたいと思っておる」


「魔王討伐だって? いきなり話が飛躍しすぎですよ。僕なんて何の力もないただの一般市民ですよ。全裸で夜の街を駆けることくらいしかしたことがありません」


「どんな駆け方をしておるんじゃ、気色悪い。もうこの邂逅が終われば金輪際会話したくないわ。まぁ信じられんかもしれんが、お主には凄い力が宿っているということじゃ。それは転生すればわかることじゃろう」


「地球に転生したいです」


「駄目じゃ。異世界でなければ転生させる意味がないじゃろう。これはギブアンドテイクなのじゃ」


 そう言われ俺は考える。

 確かに異世界と言われ不安は募る。寧ろ不安しかないだろう。

 しかしこのままでは俺は何も成し遂げず死んだままになってしまう。

 せっかくこんなチャンスを与えられたのだ。

 どうなるかは分からないが、やれるだけやってみようと、何故かそう思えた。こ、これが生存本能によるものか……!


「わかりました。そこまでおっしゃるなら引き受けて差し上げます。私が魔王を討伐する。そして英雄となる」


「凄い切り替わり方じゃ。こりゃ大物じゃな。よし、これで取引成立じゃ。お主のポテンシャルであれば必ずや魔王を討伐することができるじゃろう、頼んだぞ」


 そして俺の体が光に包まれ始めた。

 ああ、転生するんだ俺。それも異世界に。実感は湧かないけど、自分なり頑張って生きてみよう。


「あ、それと言い忘れておったが」


「ん?」


「転生する場所をこちらで指定できんのでの。異世界のどこかの地点にランダムで降り立つこととなる。もしかすると海の真上などに現れボチャあああんといくかもしれんからの、気をつけなはれよ」


 え、えええ、そんなの聞いてないってえええええええええええ!!


 俺は心で絶叫しながら消えていった。










 しゅいいいいいいん。



 周囲を覆っていた光が晴れる。

 俺は気付けば草原のど真ん中に立っていた。



「おお、本当に転生した……のか? 少なくとも地球ではなさそうだが」


 晴れ渡る空を見上げてみる。

 そこには太陽が二つあった。

 大きないつもの太陽と、それに寄り添うような小さめの少し暗い太陽。

 こんな光景地球ではありえないだろう。


「ほおほお、どこに転生するかと思えば草原ですか。なんだよ、海の上かもしれないとかビビらせやがって。草原なんて普通じゃねぇか」


 異世界転生の最初の地点の相場は、草原か森か街の中に直かの三択くらいのものだ。


「まぁでもそれが異世界転生って感じで燃えるよな。よーし、となればまずはテンプレ通りに街を目指そう。こういう場合は近くに道なんかが都合よくあって、そこを辿っていくと街に着いたりするわけだが……」


 俺は辺りをキョロキョロ見回してみた。

 道らしき道は発見できなかった。


「となればこういう場合は他人が現れるんだ。馬車が通りかかったり、冒険者が現れたり、謎の美少女が出現したりして、その人に着いていって苦労なく街に入れる。そこでなんやかんやで生活基盤を築いて凄い事件を解決したりするんだ。これはもう規定路線なんだよ。さぁ、早くどこかの誰か、俺を迎えに来ておくれ」


 そう思い、俺は誰かが現れる瞬間を待つことにした。

 草原を適当に歩きながら、なんとなく時間がすぎるのを待つ。


 早二時間が経過した。


「おいいいいいいいいいいい! ぜんっぜんこねぇじゃねぇか! どうなってんだよ!」


 少しお腹が空いてきて焦ってきた。

 あれ……もしかして……草原にガチ置き去りですか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ