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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第八章 竜人族

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玖:皇太子と竜人族の次期族長

 再び闘技場に移動して、クロヴィスとエルガが対峙する。


「ルールは?」


 尋ねたクロヴィスに、エルガは肩を回しながら笑う。


「特にねぇよ。相手が死ぬか戦闘不能になるか、負けを認めるまでやる」

「わかった。魔術は使って良いのか?」

「ああ、良いぜ。俺も魔力を使わせてもらう」


 つまり、お互いに全力の勝負ということだ。


 いくら何でも、竜人族の膨大な魔力には、魔術を使えるにしても人間側が不利過ぎる。


 勝てるだろうか。

 心配になってクロヴィスを見ると、彼は私を見て自信満々な様子で笑みを浮かべた。

 何か策でもあるのだろうか。


 城では、エルガの不意打ちのような魔力の鞭による攻撃で手も足も出なかったのに。


「では始め!」


 族長が合図を出し、エルガはすぐに動いた。


「っ!」


 一瞬で姿が消える程高速で、クロヴィスとの間合いを詰める。


 クロヴィスはすぐに飛び退き、右手を振り払った。


攻撃魔術インペタム!」


 魔力の刃が、クロヴィスを中心に四方八方に飛んでいく。


 それらを回避しながらも、エルガは更に距離を詰める。


「クロヴィス!」


 思わず声を上げてしまう。


 が、直後、エルガの腕がクロヴィスの腹を貫いた。


「っ!」


 声にならない悲鳴が私の口から零れる。


 しかし、その直後、クロヴィスの姿が揺らぎ、さっと霧散した。


 一瞬で理解する。今まで見ていたクロヴィスは幻だったのだと。


 でも、いつから?

 本体は何処に?


 そう思って気配を探る。エルガも同様だ。


「っ! 何処だ!」


 辺りを見渡したエルガの背後に、一瞬影が浮かび、エルガのうなじがその影によって殴られたように見えた。


 刹那、エルガがその場にどさりと倒れ込む。


「……クロヴィス……!」


 ほっと息を吐く。

 影の正体はクロヴィスだ。


 おそらく遮蔽魔術で姿を消すと同時に幻影魔術で自分の幻を形成、エルガと戦わせて隙を作り出し、背後に回り込んで強化した手刀で彼の項を叩いたのだろう。


 流石は帝国の皇太子。鮮やかだ。


「……俺の勝ちだな」


 クロヴィスが族長を振り返る。


「そうね……文句のつけようがないわ」


 やれやれと、彼女は溜め息を吐く。


「馬鹿息子は私が説得しておくから、もう帰りなさい。色々と、申し訳なかったわね」

「……竜人族の族長よ、提案がある」


 クロヴィスが切り出すと、彼女は目を瞬いた。


「この北の僻地を、竜人族の国とするつもりはないか?」

「竜人族の、国……?」

「ああ。魔王城の跡地であり、魔物が多く発生するこの大陸の北端は、どの国にも属していないだろう?」


 だから竜も竜人族も、この地でひっそりと生き永らえてきたのだ。


 北の僻地と呼ばれる大陸北端の半島は、ほとんどが山岳地帯であり、強い魔物ばかり生息している。

 この地を支配するためにはそれらを討伐する必要があるが、その難易度に対して、常時雪と氷に覆われた土地の利用価値が吊り合わず、どの国も手出ししてこなかったという事情がある。

 

「もしこの地を一つの国とし、我がファブリカティオ帝国の配下に下るというのならば、帝国としてこの国を全力で庇護する。生活の設備も整えると約束しよう」

「……本当に、私達が国を作って良いの?」

「当然だ。竜人族にはその権利がある。国の統治でわからないことがあれば、いつでも帝国を頼ると良い」


 竜人族は間違いなく強い。

 だが、所詮は少数部族。人間の大国と戦争にでもなれば、数の差で押し負ける可能性が高い。

 

「……そんな事を言って、私達を兵器のように扱ったりするつもりじゃ……」

「兵器にするつもりなら、今頃力尽くで捩じ伏せて主従契約を結んでいる。まぁ、帝国の配下に下ってもらう以上、万が一帝国全土に関わるような規模の戦争が起きた時は力を借りることもあるだろうが、お前達の力を当てにしてこちらから他国へ戦争を仕掛けるような真似はしない。それは約束しよう」


 クロヴィスの言葉に、族長が視線を落として思案する。


「それに、帝国の配下になるのならば、この地に魔術師を常駐させられるようになる。病気や怪我で困ったら、すぐに治癒魔術を掛けられるようになるぞ」


 竜人族は、強い魔力を持つがそれを魔術として使用できない。つまり治癒魔術も回復魔術も使えないということだ。


 加えて、魔物である竜の血を引く竜人族であっても、その他の魔物からの攻撃を喰らえば穢れに侵されてしまうのだと、昼間に目の当たりにしている。

 これは、おそらく竜人族に流れる人間の血が穢れに弱いせいだろうと推測している。


 だからこれまで、竜人族がうっかり魔物の攻撃を喰らってしまっていたら、穢れに侵されて死を待つのみだったはずだ。

 しかしそれも、魔術師が常駐すれば、神殿へ連絡を取れるようになり、それによって私が来れば一発で解決する。


 その点だけでも、彼等にとっては利となる条件ではある。


「……少し、考えさせて」

「ああ。決めたら、遣いを送ってくれ。できれば、話の通じる奴で頼む」


 言外に、エルガ以外でと言っているのが伝わり、族長は苦笑した。

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