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捌:邪悪なもの

 突如噴き出した黒い靄は、大聖堂を埋め尽くす勢いで広がっていく。


「小娘! 貴様に何がわかる! わかったような口を利くな!」


 怒号に呼応するように、靄は一際大きく広がった。

 クロヴィス皇太子殿下は腰の剣を引き抜いて構える。


「ジャン! 結界を張れ!」

「っ! 結界魔術オービチェ!」


 すぐさま応えたジャンが、結界を生成する。


 見えない壁に弾かれた黒い靄が、狼のような形となってあぎとを開く。

 それは、城に行く前に神殿に現れたのと同じ魔獣だ。


 あれも、ゴーチエの差金だったのか。


「アリスの浄化魔術を一度喰らっていて、尚これだけの穢れを放出するとは……」


 殿下が舌打ちした直後、ジャンの織り成した結界にヒビが入った。


「っ! マズい! 破られる!」


 ジャンが狼狽する。

 私は右手を天へ掲げた。


防御魔術ディフェンシオ!」


 防御魔術は結界魔術よりも範囲は狭まるが、より強固な障壁を織り成す事ができる。

 直後、黒い靄の狼を弾いたのを確認して、私はすぐに次の行動に移った。

 

 と、殿下が手にしていた剣が目に留まり、さっとそれを奪い取る。


「あっ! 何を……!」

「お借りします」


 一言言い捨て、跳躍する。

 防御魔術の範囲を飛び出した私に、黒い魔獣がすぐさま飛び掛かってきた。


「遅い」


 呟きながら、空中で身を捻って回避すると同時に、剣で狼の頭を両断する。


 剣には魔力を纏わせたので、斬った狼が復活する事はなく、靄は霧散して消えていく。


「この剣、良いわね」


 前世で数々の武器を手にして来た私だからわかる。


 手に馴染むこの剣は、名のある鍛治職人によって創られたものだろう。

 皇太子が所持していた皇帝の紋章入りなのだから、最高級である事は当然と言えば当然なのだが。


斬裂魔術ビセクション!」


 今度は、魔力だけではなく、攻撃魔術を剣に纏わせてみる。

 振るう剣の切れ味が、数十倍は良くなった気がした。


 鬼に金棒。

 私は唇を吊り上げ、襲い来る黒い狼をバッタバッタと斬り倒していった。


「……おい、ジャン、俺の目がおかしいのか? アイツ、魔物の攻撃を空中で躱して斬ったように見えたが……」

「奇遇ですね、殿下。私にもそう見えました」


 私が掛けた防御魔術の内側でそんな会話をしているのが、暗殺者の耳の良さ故か薄っすら聞こえてくる。


「……あれは一体どういう事だ? 剣に攻撃魔術を掛けたのか? そんなことが可能なのか?」

「聞いた事がありません。それに、アリスは神官見習いの中では確かに魔術に秀でていましたが、まだ未熟で神官にさえ及ばないはず」


 ジャンが、俄かには信じられないという様子で答えている。


「それに、神殿内で教える魔術は基本的に浄化、結界、回復、治癒のみで、教えていないはずの防御魔術や攻撃魔術をあんなにスムーズに使えるなんてありえません」


 そう、ジャンの言う通り、神官見習いは防御魔術や攻撃魔術を教えてはもらえない。

 神殿内に保管されている魔術書には載っているので、それで目にすることはあるが、使えるかどうかは別の話で、神官見習いの中に使える者はいなかった。


 だが、私の前世での『武器であれば初めて触るものでも思いのままに扱える』という特殊能力のおかげか、以前に魔術書で少し読んだだけの攻撃魔術がすんなり発動できてしまった。


「……貴様、何者だ? アリス・ロードスターは、そんな攻撃魔術が使えるような娘ではなかったはずだ……」


 流石のゴーチエも驚いた様子で瞠目している。

 最後の一体を斬り捨て、剣を払う。黒い靄でできた魔物を斬ったので血は付いていないが、前世での、人間を斬った後の血を払う癖が出てしまった。


「私はアリス・ロードスター。それ以外の何者でもないわ。ただ、()()()()()()()()だけ」


 にっこりと笑って答えてやると、ゴーチエはひっと喉を鳴らした。

 曲がりなりにも聖女である私の笑顔を見て怯えるとは、失礼極まりないな。


 ムッとしながらも、ゴーチエの魔力の状況を観察する。


「……うーん、アンタの中の穢れを祓って済むなら、そうしようと思ったんだけど……穢れに侵されていた期間が長すぎて、もうどうにもできそうにないわね」


 どす黒い穢れが、彼の魂と同化しているのが、はっきりと視えた。

 完全に溶け合ってしまっている以上、穢れを浄化すると魂ごと消失してしまうだろう。


「……ひと思いに首を刎ねるか、終身刑か……まぁ、こんな穢れに満ちた人間を、税金で生かすのもどうかと思うけど」


 それを決めるのは私ではない。

 私は殿下を振り返った。


「殿下、どうしますか? ご命令とあらば今此処で斬り捨てますが」

「……いや、余罪の追及もすべきだろう。生かして城へ連行する」

「では、とりあえず抵抗できないように半殺しにしますね」

「ああ、そうして……ん? 半殺し?」


 聖女の口から漏れた言葉とは思えぬであろう不穏な単語に、殿下が一瞬頷きかけてから目を瞬く。


 そんな殿下を尻目に、私は再び剣を構えた。

 しかし、何を思ったのか、ゴーチエは下卑た笑みを浮かべて私を見た。


「……これならどうだ?」


 意味深に言い、パチンと指を鳴らす。

 すると、大聖堂の出入り口から、ぞろぞろと男の神官見習いと神官四人が入って来た。

 皆剣を手にしているが、全員目の焦点が合っていない。操られているのは明白。


「こいつらは特別な方法で傀儡にした。浄化魔術ではこいつらを解放できん。いくら聖女であっても、同胞達に手出しはできんだろう?」


 勝ち誇った顔で嗤うゴーチエだが、私は肩を竦めて溜め息を吐いた。


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