零:予期せぬ来訪
暗黒竜三体を古代の極大魔術で倒してから、数日後のことだった。
神官たちが代わる代わる回復魔術をかけてくれたので、体力はすっかり回復したのだけど、クロヴィスの強い勧めで城で静養することになった。
曰く、神殿にいたのでは何だかんだ聖女としての仕事をしてしまって休まらないだろうから、だそうだ。
移動の直前に、私の受けた穢れを吸った浄化玉も完全浄化したし、神殿には神官長ジャンを筆頭に大神官二人、神官五人、それから警備担当をする事になった私の幼馴染、シェイドもいる。
何かあればジャンから通信の魔具で知らせてもらう事になっているし、大丈夫だろうと言い聞かせて、私はガリューと共に、迎えにきたクロヴィスの転移魔術で城へと移動した。
静養という名目なだけあって、私には普段の倍の侍女がつけられて、至れり尽くせりの環境が整えられていた。
「……快適すぎて申し訳ないわ……」
窓辺のテーブルでお茶を飲みながら、私は額を押さえた。
いくら静養とはいえ、体調は既に回復している。
魔力も九割戻っているので、あと一晩も寝たらそれこそ完全復活と言える。
それなのにこんな贅沢な時間を過ごしていて良いのだろうか。
世界平和のためには、やるべきことは山積みなのに。
「君は本当に真面目だな。あれだけ大怪我して死にかけたんだから、もっと堂々と休めば良いのに」
小狐の姿で、短い前足を器用に組みながら、ガリューが嘆息する。
「もう充分休んだわよ」
「魔力は完全回復していないんだろう? 回復するまで、ゆっくりしたら良いじゃないか。そうでなくても君は働き過ぎだ」
「あら、心配してくれるの?」
ガリューはグレース様の前の本物の聖女様にフルボッコにされた事を恨み、少し前まで、反聖女思想の教団の黒幕をしていたのだけど、色々あって私の眷属になった。
オロチと比べるとかなり反抗的ではあるが、それでも私を主と認めてくれており、命令には従ってくれる。
「君は僕の主だろう? 主を心配するのは眷属として当たり前だ」
ふん、と鼻を鳴らす仔狐は素直ではないが、それさえも可愛く見えてしまうこの見てくれはズルい。
よしよし、とその頭を撫で繰り回していると、廊下から慌てた様子の足音が響いてきた。
「聖女様! 失礼いたします!」
足音と裏腹にノックは控えめだが、声は上ずっている。この声はクロヴィスの側近であるイーサンの声だ。
「どうぞ。どうかしたの?」
「そ、それが、珍客と申しますか、不穏な来訪者が……」
言い淀む彼の様子は尋常ではない。
ただ事ではないと悟って、私は彼についていくことにした。
案内されたのは、玉座の間だ。
扉を開ける前から、ぞわぞわと肌を刺す、強い魔力を感じて息を呑んだ。
何が来ているというのだろう。こんな魔力、人間相手に感じたことはない。
イーサンが私に目配せをしてきたので、頷くと、彼はゆっくりと扉を開けた。
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