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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第七章 聖女との確執

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玖:穢れの痣

 穢れの痣は、浄化魔術で祓う事ができる。


 だが、今の私は魔力が完全に枯渇している。浄化魔術どころか治癒魔術さえ使えない。


「聖女様!」


 駆け付けてくれていたジャンがすぐさま状況を理解し、合図を出す。

 それに応えたアネット、リュカ、トリスタン、ジルベルトが、私に向けて右手を向けた。


浄化魔術プルガティオ!」


 全員が声を揃えて唱える。

 彼らは少なからず浄化魔術が使える。完璧に祓う事はではないが、それなりに穢れを取り去ることはできるのだ。


 彼らの魔術によって、手の甲まで伸びた痣は少しずつ減退していった。

 だが、治癒したはずなのに、噛まれた腹部が疼き、まだそこから穢れが生み出されているのがわかった。


 彼らが浄化魔術を止めた瞬間に、また穢れは広がってくるだろう。


「っ!」


 数秒後、リュカとジルベルトが魔力切れを起こして膝を衝く。

 そもそも神官全員、先程高出力の防御魔術を使っていて、疲弊しているはずだ。そこに来て浄化魔術を使っても、普段通りの効果は出せないだろう。


 彼らに次いで、アネット、ジャン、トリスタンが苦渋の表情で魔術を止める。


 同時に、一度は抑え込まれた穢れが、再びじわじわと溢れ出すのがわかった。


「……あー、ダメみたい。折角戻って来られたんだけどなぁ」


 グレース様、ごめんなさい。またそちらに行くことになりそうです。


 そんな事を考えた時、神官見習いの向こうからクラリスとシェイドが駆けて来た。


「聖女様!」

「アリス! おいおい、どうしたんだよ!」


 狼狽えるシェイドの横で、状況を察したクラリスが浄化魔術を唱えてくれる。

 しかし、穢れの進行を止める程度で、祓う事はできない。


「駄目だわ。このままじゃ、穢れがまた広がる……!」

「穢れ……?」


 クラリスの呟きを聞き取ったシェイドが、何か思い出したように懐を探った。


「これっ! 使えるんじゃないかっ?」


 震える手で差し出したのは、小さな水晶玉のようなものだった。

 透き通ったそれを見て、今まで黙って成り行きを見ていたエルヴィラが声を上げる。


「それは! もしや浄化玉!」

「浄化玉?」


 その単語にクロヴィスが顔を上げる。


「穢れを吸収する魔具ですわ。ただし、吸い取った後の穢れが消える訳ではありませんので、穢れを吸収した瞬間から、魔物を誘き寄せる効果を出してしまう、という浄化の魔具としては欠陥品ですが……」

「使い方はっ?」

「穢れに触れさせれば自然に吸収するはずです」


 エルヴィラの言葉を受けて、クロヴィスはすぐさまシェイドの手から浄化玉を受け取り、私の腹部に乗せた。


 刹那、一瞬にして穢れを吸い上げ、透明だった玉は黒く濁ってしまった。

 だが、私の身体の中に蠢いていた穢れが、全て消え去ったのがわかった。


 穢れを吸った浄化玉は、ジャンが受け取って布に包んでいた。あれは穢れを通さない特殊な布だ。鉱山の町の町長が穢れを含んだ魔鉱石に乗せていたのと同種のものである。


「……アリス? 大丈夫か?」


 私の顔を覗き込むクロヴィスに、私は何とか微笑む。

 

「うん、ありがとう」


 ただ、疲労感が凄い。魔力が枯渇している以上に、体力も限界だ。


 私はオロチに命じて疲労を食べてもらって、ようやく自力で座る事ができた。


「……はぁ、何とか死なずに済んだわね」

「本当に! お前、いい加減心配させるなよ!」


 クロヴィスが泣きそうな顔で怒鳴る。


「ごめんって……まさか極大魔術で魔力を使い果たすなんて思わなかったのよ」


 それは本音だ。

 確かに空から星を降らせるという魔術なんて、とんでもない魔力消費だろうとは思っていたが、まさかごっそりほとんどの魔力を持っていかれるとは予想以上だった。


「あんなとんでもない魔術、初めて見たぞ」

「……なぁ町に入る手前に、どでかい竜が三体も死んでたんだが、まさかあれはアリスがやったのか?」


 シェイドが口を挟み、私が頷く。彼はぎょっとした顔になった。


「何をどうしたらあんな竜を倒せるんだよ」

「頑張ったとしか言いようが……おかげで魔力が枯渇して、穢れを喰らって自分で浄化できなくて死にかけたのよ……でも、シェイドのおかげで助かったわ。ありがとう」

「お、おう。俺がアリスを助けられたなら良かったぜ」


 にかっと笑うシェイド。その笑顔は、かつての少年の時のままだ。


 懐かしい気持ちになって微笑むと、クロヴィスが不機嫌そうに私の肩を抱き寄せた。

 こういうところはクロヴィスの方が子供っぽいな、と思うが口には出さないでおく。


「……それより、シェイド、クラリス、神殿に戻るのが随分早かったのね」


 何しろシェイドは魔術を使えないので、てっきり馬でも使って数日掛けて戻って来るかと思ったが、時間からしてどうやらクラリスの飛翔魔術で戻ったらしい。


「はい、最初はイクシオン伯爵を警戒して徒歩で移動していたのですが、少しでも早く神殿に伝えるため、町を出た所から飛翔魔術で戻ってきました」

「じゃあクラリスも疲れたでしょう。それなのに私に浄化魔術を使わせちゃってごめんなさい」

「良いんです! それより、私こそ肝心な時に神殿にいなくて……」


 クラリスが申し訳なさげに眉を下げる。


「それを言うなら、俺まで連れて飛んでくれたからだろう? 一人だったらもっと早く戻って来られたはずだ」

「だって、私が一人で先に神殿に戻るって言っても手を放してくれなかったじゃない」

「俺はアリスにアンタを神殿まで無事に送り届けろって頼まれたんだよ」

「アンタって呼ばないでって何度言えば……!」


 珍しく、クラリスが強い口調で言い合っているのを見て、私は思わずクロヴィスに耳打ちした。


「ねぇ、提案なんだけど、シェイドを神殿で雇えないかしら?」

「はぁ?」


 露骨に不愉快そうな顔をするクロヴィスに、私は視線をクラリスとシェイドに戻す。


「だって、何かあの二人、いい感じに思えて……神殿の用心棒って事で、警備担当をしてもらいましょうよ。今までの罪については、今回私の命を救ったって事で、特赦を与えてさ」


 私の命を救った、という言葉に、クロヴィスは苦虫を嚙み潰したような顔をしつつ、渋々頷いた。


「ねぇ、シェイド」


 早速シェイドに、神殿で用心棒をしてほしいと話すと、案の定、彼はとても嫌そうな顔で断ってきた。

 そこを説得しようとした矢先、クラリスばっと手を挙げた。


「聖女様! 私にこの者の更生をお任せください!」

「え、は……?」


 咄嗟の事に、シェイドが唖然とする。


「そうね、クラリス。任せたわ」

「ちょっ! アリス! どういう事だよ!」

「どうもこうもないわ。アンタはダイサージャー王国のイクシオン伯爵の屋敷に忍び込んだ現行犯ですもの。今までの盗賊行為も調べてあるから、それら全てで断罪されれば、本来極刑だってありうる。でも、その罪は私の命を救った事でチャラにしてあげるって事よ。クラリスを連れて神殿に戻ったら、仮にアンタが捕まっても減刑を訴えてあげるって言ったでしょう? 減刑どころか罪がチャラになったんだから、感謝してほしいわね」


 つらつらと答えると、シェイドは状況を理解したらしく、さっと青褪めた。


 本当のことを言うとイクシオン伯爵の屋敷に忍び込んだ罪については、彼が反聖女思想の教団(アンチサンクトス)の宗主だった事を考慮すれば大した罪にはならないのだけど、今はそれをあえて口にはしないでおく。


「だから、これまでの盗賊行為を赦す代わりに、神殿で働きなさいって事よ。その更生についてはクラリスに一任します」


 私がそう告げると、クラリスがキラキラした目で頷いた。

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