伍:仕掛けられた魔具
神殿に戻って、私は即座に眷属達を呼び出した。
「オロチ、ガリュー」
名を呼ばれ、応じたオロチとガリューが姿を見せる。
「アリス様! 此度はアリス様の危機に駆けつける事ができず申し訳ございません! 不甲斐ない私をどうかお許しください!」
開口一番土下座するオロチに、私はそれどころじゃないと一喝する。
「神殿に五つの魔具が仕掛けられたの! 怪しい物を徹底的に探し出して! ああ、その前に、この首環を外して!」
その命令に、オロチは即座に私の首に着いていた首環の宝石を摘んで破壊した。
首環が外れた事を確認すると、彼は私の命令を遂行するためにガリューと共にさっと消える。
次いで、クロヴィスはジャンや他の神官を呼び、同様に不審物を探すように伝えた。
残った私とクロヴィスも、それぞれ探知魔術を使って神殿の内外を調べていく。
太陽は傾き、空はオレンジ色に染まっている。陽が完全に沈むまで、およそ三十分といったところか。
「アリス様、見つけました」
すぐに一つの箱を持って戻ってきたオロチ。
それは爆発の魔術が込められているようだ。
オロチが効果を消す魔術を唱えた上でそれを燃やす。
まずは一つ目。
と、その後三つは立て続けに見つけられた。
一つはクロヴィスが、同様の爆発の魔術が込められた箱を、もう一つは私が祭壇の下にあった魔物を召喚する魔術が込められた箱を、後の一つはガリューが見つけて来た。
残る魔具は一つ。
だがもう、時間がない。
私は大聖堂に一度全員を集めるようにジャンに指示を出した。
その間に、クロヴィスとオロチとガリューには、魔具の捜索を続けておいてもらう。
ガリューが見つけ出した場所は、神殿の奥、神官達の私室がある棟の廊下の柱の陰だったそうだ。
そこは、一般人が立ち入ることはできない場所。
それはつまり、神官か神官見習いの中に、反聖女思想の教団の教団員が紛れ込んでいる可能性が高いという事だ。
「この中に反聖女思想の教団の教団員がいる」
大聖堂の祭壇の上から、集まった者にそう声を掛ける。
どよめきが広がる一瞬、私は見逃さなかった。
デボラとエルヴィラが驚いた顔で私を見る。
ケイドとリーゼルは顔を見合わせて「まさか」と呟き合う。
リュカとトリスタンは神官見習い達の一挙手一投足を見逃すまいと目を眇めている。
そんな中で、一人だけあからさまに私から視線を逸らした者がいた。
「……ミリ、貴方だったのね」
私が名を呼ぶと、神官見習いの少女はびくりと肩を震わせた。
彼女はミリ・リエッセ。私とメルの同期で、神官見習いの頃は共に相部屋で過ごした人物だ。
彼女が反聖女思想の教団の教団員だったのか。
いつからそうだったのだろう。
脳裏に、メルとミリと過ごした神官見習いの頃の思い出が過る。
神官見習いの修行は、辛く苦しいものもあった。
相部屋という事もあって、私達は互いに励まし合って、共に研鑽を積んできたと思っていたのに。
もしかしたら、今回だけ買収でもされて協力しただけという可能性もなくはない。
せめてそうであってほしい。
「魔具をどこに仕掛けたのか、教えて」
強い口調で尋ねるが、彼女は俯いたまま口を閉ざして答えようとしない。
「ミリ!」
神官見習いという、楽しいだけではない修行の時間を、文字通り苦楽を共に過ごした相手に、拷問などしたくない。
でも、今この場にいる他の神官や神官見習い達の命には代えられない。
私は祭壇から跳躍して彼女の目の前に降り立つと、その細い肩を両手で掴んだ。
「ミリ、お願い答えて。私に、貴方を拷問させないで」
拷問、その言葉にミリがぎょっとした顔で私を見る。
「ご、拷問……?」
「ここに居る全員の命が懸かっているの。皆を救うためなら、私は貴方を拷問して魔具の場所を聞き出すわ。まずは両腕を折る。次は足……」
そこまで言っただけで、ミリはガタガタと震え出した。
彼女が教団員かどうかはまだ定かではないが、少なくとも拷問に耐える訓練を受けていない事だけは確かだ。
「貴方の腕を折りたくはない。でも、やるならなるべく綺麗に折るようにするわ。答えるなら今よ」
ぐっと、肩を掴む手に力を込めると、ミリはぼろぼろと涙を流し始めた。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……魔具は、中庭の彫刻の足元に埋めました……!」
ミリの自白を聞いて、ジャンが即座に走る。
私はトリスタンに彼女の監視を任せて、ジャンの後を追った。
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