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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第六章 教団との戦い

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玖:鉱山の町再訪

 転移魔術で神殿に戻ると、皇帝陛下から連絡がいったのか、ジャンが血相変えて駆けて来た。


「アリス様! 婚約破棄とは本当でございますか! クロヴィス殿下が記憶喪失と伺いましたが、一体何が……」


 おろおろとする彼に、私は曖昧に微笑んだだけで答えはせず、自室に引き上げた。


 ガリューが初めて入る神殿にそわそわしていいるのを尻目に、荷物を置く。

 と、その時、私の頭に直接声が響いてきた。


『アリス様、お忙しいところ恐れ入ります。今よろしいでしょうか?』


 オロチの声だ。離れていても通信の魔具無しで会話ができるのだ。眷属とは便利だな。


「大丈夫よ。どうしたの?」

『鉱山から、穢れを含んだ魔鉱石が採掘されたようです。今は穢れを抑え込む魔具を使って保管しているようですが、私の見立てでは数日で魔具の限界がくるかと』

「そう。すぐそっちへ行くわ」


 魔鉱石の中にはごく稀に穢れを含んだ物が存在する。

 それを放置すると穢れが放出されて周りの人間や動物に影響が出てしまったり、魔物を呼び寄せてしまう事もある。


 これは緊急案件だな。


 私はメルに事情を説明し、すぐさま転移魔術を発動させた。

 瞬き一つの間に、ガリューと共にアビエテアグロ公国アテンザ伯爵領の鉱山の町へ移動する。


「アリス様! ようこそおいでくださいました!」


 町医者の姿をしたオロチが道の向こうから駆けてくる。


「オロチ、すぐに魔鉱石を浄化するから案内して」


 彼はすぐに応じて私を町長の屋敷へ案内した。

 今日は休診日ではないらしいので、オロチには診療所へ戻るよう命じ、私一人で町長の屋敷の戸を叩いた。


 町長はこの町に私の眷属であるオロチがいる事を知らないので、突然現れた私に度肝を抜かれた顔をした。


「せせせ、聖女様! どうしてこちらに!」

「近くまで来たので、立ち寄ったのです。少々穢れの気配を感じたので」


 笑顔でそう答えると、町長は感動した様子で私を広間に通してくれた。

 広間の中央のテーブルの上に、人の頭ほどの大きな魔鉱石が置かれていた。

 紫と黒が入り混じった、禍々しい色をしたその魔鉱石には、ハンカチ程度の小さな布が掛けられている。


 そのハンカチが、穢れを広げないための魔具なのだろう。

 おそらく、刺繍に魔力が込められていて、多少の穢れなら抑え込めるようになっているようだ。


「これが昨日採掘されまして、扱いに困っていたのです。丁度、神殿に浄化依頼の手紙を書いていたところでした」

「わかりました。早速浄化します」


 頷いて、ハンカチを外し、魔鉱石に手を翳した。


浄化魔術プルガティオ!」


 刹那、魔鉱石から黒い色が抜け、見る見るうちに淡い紫色になった。


「おお! これが浄化魔術! この目で見られるとは感激でございます!」

「これで穢れは消えました。この魔鉱石は他の物と同等に扱って大丈夫ですよ」

「ありがとうございます! 立ち寄ってくださった聖女様に心より感謝いたします!」


 咽び泣く町長に今度こそお礼がしたいとせがまれて、私はこの屋敷に一泊する事になってしまった。

 本来なら神殿に戻って、浄化なり祈りなり聖女の仕事はあるのだが、色々あった事だし、一泊くらい良いだろう。


 そう思ってそれに応じ、折角だから町を見て来ると伝えて一度屋敷を出た。


 町の様子は、以前来た時とは比べものにならないくらい活気づいている。


「あれっ! 聖女様じゃないですか!」


 声を掛けられて振り向くと、そこにはハルフェンとフィアンナがいた。


「久しぶりね。元気だった?」


 普通に見えるように心掛けながら尋ねると、二人は笑顔で頷いた。


「はい! 聖女様のおかげで町はすっかり元通りになりました!」

「そう。それは良かった。ところで、貴方達は結婚したの?」


 問うと、二人がぴしっと固まって真っ赤になった。


「けけ、結婚だなんて、私達は、ただの幼馴染で、そんな……」

「そ、そうですよ! 変な事言わないでください!」


 この否定の仕方、まるで付き合い始めた直後のロジェとジルベルトを見ているようだ。


「……好きなら、ちゃんと気持ちを伝えた方が良いわよ。伝えなかったら、後悔するから」


 涙が出そうになるのを堪えながらそう言葉を紡ぎ、私は挨拶もそこそこに踵を返した。


 二人が結ばれる事は純粋に喜ばしい。

 だけど今、想い合う二人を目の当たりにするのは正直辛い。


 そういえば、モルドレッド事件の際、ハルフェンが魔晶をくれた事で勝利する事ができた褒美として、二人が住めるような家でも建ててやろうとクロヴィスが言っていたが、それはどうなったのだろう。

 何か別の褒美を贈ったのだろうか。


 まぁ、今のクロヴィスにはあの時の記憶もないだろうから、確認する術もないのだけど。


 また虚しい気持ちが溢れてきて、私はふらふらと町中を歩いた。


「……大丈夫か?」


 ずっと無言で肩に乗っていたガリューが、珍しく気遣わし気に私の顔を覗き込んでくる。


「あら、心配してくれるの?」


 少しおかしくなってそう尋ねると、ガリューはふんと鼻を鳴らした。


「僕をぶちのめした君がしょげていると、僕までしょぼくれた気持ちになるんだよ」


 まぁ、眷属になった訳だし、私の精神状態が彼にも影響するのは頷ける話だ。


「ごめんね。情けない主で」

「人間とは難儀なものだな。悲しみや憎しみの感情は喰っても喰っても減らないから僕が食ったところで君の心が軽くなる訳でもないし、時間が解決するのを待つしかないな」


 短い前足を器用に組んで、ガリューがうんうんと頷く。

 何だコイツ、妙に偉そうだけど可愛いな。


 でもそうか、負の感情が大好物と言っていたが、負の感情は喰われても消えないのか。

 オロチの場合は、好物である疲労を喰うと、喰われた人間からは疲労が消える。共生するにあたって非常に好ましい特性だ。


 でもそれは、きっと魔物の特性というよりも好物側の特性だろう。

 疲労は活動し続ければ体に蓄積していくが、動かなければ増える事は無い。

 それに対して、感情は放っておいてもずっと心から溢れ続ける。喰っても消えないというのは、喰ったところでまた根源である心から生み出され続けるから、という事なのだろう。


 と、納得したその時、強い魔力が急接近してくるのを感じた。


「っ!」


 ぞわぞわと肌が粟立つ。

 とても強い魔力の波動。上級の魔物であるサラマンダーと対峙した時よりも、更に強い。


「……まさか、竜……?」


 翼を持った竜は、サラマンダーよりも更に上とされている。

 数が少なく、人里には滅多に降りてこないとされているが、もしかしたらあの穢れを含んだ魔鉱石の魔力に引き寄せられたのかもしれない。


 穢れに吸い寄せられるようにこちらに向かっていた矢先、穢れが消失したので、どういうことかと急加速したか。


「オロチ!」

「此処に」


 名を呼ぶと、オロチは即座に姿を見せた。


「町の人を守りなさい。誰一人傷付けさせないように!」

「承知いたしました。アリス様は?」

「あれを倒してくるわ」


 空を振り仰いだ視線の先に、ばさばさと翼をはためかせてこちらに飛んで来る大きな何かが見えた。


「……お気を付けて。万一の時は私も加勢いたします」


 オロチが一礼してその場に掻き消える。

 私は飛翔魔術を唱えて空に舞い上がろうとした、その時だった。


 突然目の前に魔法陣が顕現した。

 見覚えのあるそれは、クロヴィスが使う転移魔術のもの。


「っ! 何で……」


 身構えた私の目の前に、銀髪青眼の青年が姿を見せる。


 何故ここに来たのか。

 もしかして、記憶が戻って私を探しにきたのだろうか。


 そう期待したが、彼の眼差しを見て、それは粉々に打ち砕かれた。

 彼は私を見て、不愉快そうに目を細めたのだ。


「聖女? 何故お前がここにいる?」

「……穢れを含んだ魔鉱石が採掘されたと報告を受けたので、浄化するために」

「そうか……それよりも、竜が出現した。王立騎士団が対処するから避難を……」

「それなら私がやるから騎士団は不要よ」


 竜程の魔物が人里に降りて来たとなれば、即座に王立騎士団が派遣されるのは当然だ。

 そのために、帝国の至る所に、魔物の襲来を察知する魔術が施されたり、魔具が設置されていたりするのだから。


「何? 竜を? お前一人でか?」


 クロヴィスは心底信じられないと言う顔で私を見る。


「ええ。だからご心配なく。もう引き上げてもらって結構よ。貴方達じゃあ、足手纏いだから」


 私はこれ以上記憶を失ったクロヴィスと話したくなくて、背を向ける。

 そのまま飛翔魔術を唱えようとしたが、クロヴィスが私の手首を掴もうとするのを気配で察知して、咄嗟にそれを避けてしまう。


「何?」

「あ、いや……すまない。体が、勝手に……」


 クロヴィスは自分でも今の行動に驚いているようだった。


 私は怪訝に思いつつ、気を取り直して飛翔魔術を唱え、空へ舞い上がったのだった。

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