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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第六章 教団との戦い

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伍:危機

 腹を貫かれたクロヴィスは、口から血を吐いてその場に頽れた。


「クロヴィス!」

「兄上!」


 私とフェリクスが同時に声を上げる。

 それに対して、マルムは勝ち誇った顔で口を開いた。


「さぁ、降参しなよ。そっちの翠眼は奪われたけど、青眼はしっかり刺した。死ぬのは時間の問題だ。でも僕なら助けられるよ。勿論、聖女の命と引き換えだ」


 とんでもない要求だ。

 マルムの言葉に、フェリクスが凍り付いた眼で私とクロヴィスを見比べている。


 油断した。

 先程の黒い光の刃はマルムが放ったものだ。なのに、クロヴィスの腹が貫かれるその瞬間まで、そんな気配も、魔力の揺らぎも感じなかった。


 私が殺気や悪意を見逃すはずはないと、相手が攻撃する瞬間を見落とすことなどないと、驕っていた。

 この世界に、それらを隠して動けるほどの魔物が存在していたなんて。


「オロチ! しばらくアイツの相手をしていて。できれば、周りの人間は傷付けないように」

「承知いたしました」


 オロチが私に一礼して、マルムの前に出る。

 マルムはオロチを見て、怪訝そうに首を傾げた。


「……へぇ、人間じゃないとは思っていたけど、やっぱり魔物か。何故聖女なんか庇うんだ?」

「貴方に語るには勿体ない話です」


 オロチは軽く右手を振り払った。

 魔力が一閃して、マルムに斬りかかる。


 激しく魔力同士がぶつかるのを背中で感じながら、私はクロヴィスに駆け寄った。


「クロヴィス!」

「兄上! 兄上! しっかり、しっかりしてください!」


 彼の肩を、取り乱したフェリクスが激しく揺すっている。おいおい、重傷者にそんな衝撃与えたら駄目でしょうが。


 私は、クロヴィスの腹部に視線を移した。

 傷口から鮮血と共に黒い痣がじわじわ広がっているのが、破れた服の隙間から見える。


 魔物によって負わされた傷にできる、特有の現象だ。穢れによるダメージである。

 傷を塞いで治癒させたとしても、この穢れを何とかしなければ、このままでは、いずれクロヴィスは死んでしまう。

 既に、その穢れのせいかクロヴィスの意識は混濁していて呼びかけにほとんど応えられていない。


 最悪の光景が脳裏を過り、心臓が早鐘を打つ。


 大丈夫、穢れならば、浄化魔術で祓う事ができる。

 そう思っても、不穏な思考が頭を過って止まらない。


 もしも助けられなかったら。

 嫌だ。クロヴィス、死なないで。


 クロヴィスの柔らかい笑みが瞼の裏に映る。

 もう会えないなんて、絶対に嫌だ。


 いつの間にか、私の心をこんなにも占めていたなんて、気付かなかった。


 彼の死を間近に感じた瞬間、猛烈に後悔した。

 もっと、素直になっておけば良かった。

 クロヴィスが私に向けてくれる気持ちと同等かどうかなんて気にせずに、私の気持ちを、ちゃんと伝えておけば良かった。

  

 いや、とかぶりを振る。

 しっかりしろ、私。


 私なら、助けられるのだから。


「クロヴィス! しっかりして! 大丈夫、絶対に、死なせないから!」


 この傷は一刻を争う。早く治癒と浄化の両方を施さないと。

 完全に取り乱しているフェリクスに、私は強めの口調で声を掛ける。


「フェリクス殿下、治癒魔術は使えますか?」


 私の声で我に返ったフェリクスがはっとして頷く。


「え、ああ、使える!」

「では、できる限り掛け続けてください。その間に、私は浄化魔術を掛けます」


 私の指示に、彼は反発することなく頷き、すぐに治癒魔術を発動させた。

 血が止まり、傷口が少しずつ消えていく。

 治癒魔術が効果を見せ始めたのを確認して、私も呪文を唱えた。


浄化魔術プルガティオ!」


 淡い光がクロヴィスを包み、腹部から広がっていた黒い痣が消失していく。

 完全に痣が消えたのを確認して、私はもう一度フェリクスを見た。


「殿下、後はお願いします。私はアイツを倒してきますので」

「で、でも、大丈夫なのか……? あ、アイツは、魔物で……」


 治癒魔術を継続しつつ、彼は戸惑った様子でマルムと私を見比べる。


「大丈夫ですよ。私は聖女ですから」


 不安を拭い去るように、にっこりと笑って見せる。


 それから立ち上がって、私はその場で足を踏み鳴らした。

 同時に、私を中心に清浄な魔力が渦を巻いて噴き上がる。


浄化魔術プルガティオ!」


 足を踏み鳴らして浄化魔術を発動させるのは、ゴーチエの時以来だ。

 最大出力で、この部屋の穢れを全て取り払ってやる。


 私の発した浄化魔術を目の当たりにして、本来魔物であるはずのオロチは恍惚の表情を浮かべ、マルムは心底嫌悪した顔でそれを受けた。

 ダメージを受けていない状態の魔物が浄化魔術を喰らっても、力の一部が削がれる程度で大した効果はない。


 しかし、部屋にいた老人たちは憑き物が落ちたような顔で、互いに顔を見合わせている。

 身体に溜まった穢れが取り払われた事で、正気に戻ったらしい。

 

「浄化魔術だけでは僕を倒すことなど……」

「誰がこれで終わりだなんて言ったの?」


 皆まで言わせず、私はマルムの背後に回り込んだ。

 魔力を込めた拳で、振り向きざまの彼の横っ面を思い切りぶん殴ってやる。


「へぶっ!」


 マルムが吹っ飛び、壁に激突する。


「これで終わりよ!」


 もう一撃、とどめを刺そうと構えた直後、マルムは私に向けて何かを掲げた。

 初めて見るそれは、手鏡のような形をしたものだった。


封印魔術シグナトスっ!」


 その呪文は、受けた者を特殊な魔具に封じ込める呪文だった。

 

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