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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第六章 教団との戦い

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肆:第二皇子フェリクス

 そこにいたフェリクスが、クロヴィスの顔を見て血相を変えた。


「あ、兄上……! どうしてここに……!」

「お前こそ……どうしてオリヴァーに填められた首環の魔力を追ってきた俺達より先に、お前がここにいるんだ」


 クロヴィスが凄む。


 部屋に入ると同時に遮蔽魔術は解除し、オロチの威圧が発動している。

 それの効果で、テーブルに着いている老人たちは、身動き一つ取れず唖然としていた。


「こ、これは一体……!」

「あれはクロヴィス皇太子!」

「ではあの娘が忌まわしき聖女……!」


 老人が吐き捨てると、右奥にいた老人がぎろりと私を睨んだ。


「聖女……! 今こそこの手でその魂を破壊し、二度と聖女などと言う存在が生まれぬようにしてくれようぞ……!」


 老人は、身動きは取れないままギロリと私を睨んだ。


 気配と魔力で再認識する。彼と斜向かいに座る中年男性が熟練の魔術師で、中年男性の隣に座っている老人はただの人間だ。

 そこそこの魔術師の正体は、フェリクスだったらしい。


 すると、奥の老人の横に控えている緋眼の青年が、そのどれでもない者か。


「……色々聞き出さなきゃならない事が山積みね……とりあえず、“マルム”っていうのは誰の事かしら?」


 私が尋ねると、緋眼の青年がすっと手を挙げた。

 オロチの威圧の中で、何事もなかったかのように。


「……アリス様、あの者、人間ではありません」

「そうみたいね」

「……おそらく、私と同種かと」

「やっぱり魔物か……」


 オロチの耳打ちに頷く。

 威圧の効果で身動きの取れない老人の一人が、その青年に驚きの目を向けた。


「魔物だとっ! 確かに創設当時から歳を取らぬと思うたが……」


 それで人間ではないと誰も気が付かなかったのかよ。気付け。


 内心でつっこむ。

 この世界において不老不死の魔術は存在しない。

 見た目だけ変える変装魔術は存在するが、それとて永続的に使用できるものでもない。


「マルムとは僕の事だ。僕に何か用かい?」


 穏やかな笑みで、青年が首を傾げる。

 その瞳の奥には、あの昏い光が炯々としている。


 ぴりぴりと、嫌な気配が肌を刺す。この男、強い。


「……貴方は何者なの?」


 警戒しながら尋ねる。

 青年は緋色の瞳をうっそりと細めた。


「僕はただのマルムだよ。まぁ、本来は名など無いのだけど……ああ、動かない方が良いよ。老人たちを人質にしたつもりだろうけど、こっちにも人質はいるから」


 言うや、彼は瞬き一つの間に、フェリクスの背後に立ってその首に己の爪を宛がった。

 その爪が、まるで獣のそれのように鋭く伸びている。


「フェリクス!」


 クロヴィスが飛び出しそうになるのを制して、私は静かに問う。


「貴方の目的は?」

「聖女の抹消だ」

「聖女に何か恨みでもあるの?」

「ああ。しがない小物だった時期に殺されかけてね」


 魔物ならば、聖女に殺されかけてもおかしな話ではない。私だって何体もの魔物を抹殺している。


「それで、反聖女思想の教団(アンチサンクトス)に加担していたと?」


 私が尋ねると、老人の一人が怯えた様子で口を挟んだ。


「ち、違う! この男が、宗主様を唆して教団を設立させたのだ……!」


 唆して教団を設立させた。この老人の口ぶりから、このマルムと言う男が普段から宗主とやらに何かと進言しており、幹部連中からも不審がられていたのだろうと察せられる。

 

「邪魔な聖女をどうやって抹消しようと思案していたところに、聖女と神殿に恨みを募らせた人間が現れたのでね」


 マルムの言葉に、老人たちが動揺した様子で視線を交わし始める。

 彼らも、まさか自分達の組織に魔物が入り込んでいるとは思ってもいなかったのだろう。


「……で、彼を人質にして、私達への要求は?」

「聖女の命だ」


 その言葉に、クロヴィスがピクリと反応する。


「私の命と引き換えで、彼を助けてくれる、と?」

「ああ。ただし、ただ死ぬだけじゃ駄目だ。魂までずたずたに引き裂いて、二度と聖女がこの世界に生まれないようにしないと」

「……魂をずたずたにする方法は、わかっているの?」


 そんな話は聞いた事がない。

 そもそも、聖女の魂が生まれ変わるというような事をさっきの老人も言っていたが、私は血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)の生まれ変わりであり、聖女の生まれ変わりではない。

 詳しい事は不明だが、聖女の力は、聖女が死んだ瞬間に生まれた別の人間に継承されているらしいし、魂は関係ないと思うのだけど。


 私の問いに、マルムは言葉を詰まらせた。どうやら、魂をずたずたにする方法とやらは不明らしい。


「じゃあ、何度聖女を殺しても、何度でも聖女は生まれて来るわね。意味ないわよ」

「う、煩い! それでも、少しでも早く殺せば、その力が強まる前にまた赤子に戻る……! 魂を破壊する方法がわかるまで、それを繰り返すのみだ……!」

「馬鹿馬鹿しい。時間の無駄じゃない」


 私が吐き捨てると、マルムはぎりぎりと歯噛みした。


 おっと、煽り過ぎたかしら。


「それより、私に喧嘩を売った以上、無事で済むと思わないでね?」


 言い放つや否や、私は地を蹴った。

 一瞬で間合いを詰めて、マルムとフェリクスの間に割り込んだ私は、フェリクスの胸倉を掴んでクロヴィスの方へ投げ飛ばした。


「うわっ!」


 体勢を崩したフェリクスはクロヴィスの足元に転がる。


「っ!」


 背中を強か打った様子のフェリクスに、クロヴィスが手を貸してやるのが見えた。

 まだ彼がどうしてここにいたのか聞き出せていない以上油断すべきではないのだろうが、人質にされた時の様子を鑑みても、彼が教団に与していたようには思えない。

 そもそもあの兄上大好きな第二皇子がクロヴィスを裏切るとも思えない。


 そう結論付けた私は、素早く足を振り上げ、後ろ回し蹴りをマルムに見舞った。

 彼の腹部を捉えたと思ったが、防御魔術が発動したらしく、彼は微動だにしない。


「……お前、本当に聖女か? 随分と野蛮だな」


 私の攻撃を受けて、マルムは眉を顰めた。

 まぁ、こんな肉弾戦を得意とする聖女なんて聞いたことないよな。


「失礼ね。これでも神殿が認めた、れっきとした聖女よ」


 言いながら、今度は拳に魔力を込めてマルムに叩き込む。


 ばり、と音がして防御魔術にヒビが入った。


「なっ……!」


 マルムが愕然として、咄嗟に右腕を掲げる。


「させないっ! 攻撃魔術インペタム!」


 詠唱と同時に、私の魔力が刃となってマルムに向かう。


 このマルムという魔物は、そう簡単には倒せない。

 こちらも最初から本気でかからないと、命に係わる。


 そう判断した私は手加減無しで魔力の刃を放ったのだが、マルムはそれを腕を振るっただけで弾き落とした。


 強い。


 身構える私に、マルムは凄絶に嗤った。


「やるね。でも、僕は聖女とあんまり長く遊ぶつもりはないんだ」


 マルムは右手を素早く振り払った。同時に、黒い魔力の刃が飛び出す。

 それは私ではなく、後ろにいたクロヴィスとフェリクスに向かっていく。


「っ!」


 しまったと思った直後、クロヴィスが右手を掲げた。


防御魔術ディフェンシオ!」


 間一髪、魔力の防壁が織りなされ、刃を弾く。

 その様を、フェリクスが羨望の眼差しで見つめている。何なんだあの弟は。


「アリス! 俺達は大丈夫だ! そいつに集中し……!」


 言い終える直前、黒い光が一閃してクロヴィスの腹部を後ろから貫いた。

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