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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第六章 教団との戦い

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参:朽ちた教会

 光の射さない薄暗い室内。どんよりとした重い空気の中に、漂う違和感があった。


「……魔力だわ」


 ほんの僅かに、どこかから魔力が漏れ出ているのを感じる。

 私の呟きを聞き取ったオロチが、大仰に頷いた。


「流石はアリス様。この微細な魔力を感知なさるとは」


 その言い方から、彼もまたこの僅かな魔力を察知していると悟る。


「どこから発せられているかわかる?」

「ええ、こちらですね」


 オロチはつかつかと祭壇の方へ歩みを進めた。


 そして祭壇の裏に回り、壁に備え付けの朽ちかけた本棚にそっと手を当てたかと思えば、無造作にそれを掴んで引き倒した。


 がたんと音を立てて本棚が崩れたその向こうに、下へ続く階段が顔を出した。

 同時に、塞いでいた物が無くなったせいで、そこから魔力が流れ出てきたのを感じる。


「……隠し通路発見、ね」


 見たところ、石造りの階段も壁も天井も相当に古そうだ。この教会が使われていた当初からあるのだろう。


「行こう」


 入り口を隠していた本棚を破壊してしまったので、おそらくすぐ教団員がやって来るだろう。

 遮蔽魔術を掛けているのですぐには見つからないと思うが、幹部とやらに優秀な魔術師がいた場合はその限りではない。


 階段は二人が並んで歩くのがやっとの幅で、何回か折り返すようにしてかなり地下深くまで続いている。

 明かりは無いので本来は真っ暗だが、オロチが暗視魔術を掛けてくれたので、太陽の下と同じように見えている。便利な魔術だ。

 手元に明かりを灯す魔術は使えるが、そうすると遮蔽魔術を使っていても相手にこちらの居場所を知らせる事になってしまうので、非常に助かった。


 やっと一番下まで降り切ると、廊下が左右に伸びていた。

 どちらに進もうかと気配を探ろうとした矢先、カチャカチャという音が響いてきた。


「……何の音かしら?」

「金属同士が軽くぶつかるような音だな」

 

 私とクロヴィスは顔を見合わせ、その音がする方に進むことにする。


「アリス様、音がする方に魔鉱石の本体の存在を感じます」


 オロチが囁く。

 もしかして、と思った直後、廊下の奥に鉄の扉が見えた。音はその向こうから聞こえる。


 よくよく見れば、鉄扉の上の方には鉄格子が填められていた。僅かな明かりが零れている事から、向こうに誰かがいる事は明らかだ。


「閉じ込められている……?」


 どう見ても、その鉄扉は誰かを閉じ込めておくためのものだ。


「ダイス教の教会の地下に、こんなところが……?」


 違和感が拭えない。

 ダイス教の教えでは、太陽が神そのもの、聖女の力は神の力の具現であり、太陽の光が届くように聖女の力が不幸を拭い去ると説いている。

 そんなダイス教の教会に、このような地下牢があるなんて。


 当然だが、神殿には地下牢などというものは存在しない。

 他者を閉じ込める事はおろか、傷付けることも、ダイス教では禁じられている。

 勿論、国が定めた法律を犯した者は例外となるが、少なくとも教会が独自に誰かを断罪する事はないはずだ。


 もしかして、ここはそもそもダイス教の教会ではなく、別の用途で建てられたものだったのではないか。

 それを、あたかも古くなって使われなくなった教会であるように偽装していたのではないか。

 ダイス教の教会だったと思われる建物ならば、帝国側も捜査の目が届きにくくなる、その心理を利用されたのでは。


 そんな事を考えていると、鉄格子の隙間から中を覗いたクロヴィスがすっと目を細めた。


「……赤褐色の髪……もしかして、あれがマグナスか?」


 私も中を見ると、彼の言った通り、赤褐色の髪の青年が中で何か作業しているようだった。

 その足には、重たそうな鉄球の足枷が填められており、部屋の隅には大きな魔鉱石が無造作にいくつも置かれていた。


「間違いないと思うわ。ここで首環を創らされているようね」

「やはり拉致されて搾取されていたか……助けるか?」

「そうね……でも、この先に連れて行くのも危険が伴うし、外へ逃がすにしても事が終わるまで護衛もいなかったら危険よ」

「だが、このままにしておけば、後で人質として使われかねないぞ」


 それはそうだ。どうする事が最も彼にとって安全だろうかと思案する。

 彼と話すべきだろうが、遮蔽魔術を解除するのもリスクが伴う。


「僭越ながら、アリス様、私の分身体を残して見張らせておきましょう。人質に使われそうになった場合は、その青年を守るようにいたします」

「分身って、そういえばそんな事もできるんだったわね……」


 リベラグロ王国でも、エルヴィラ王女を見張れと言ったのに玉座に現れた事があった。あれは分身だったのだろう。


「それで解決だな。もし何かあれば知らせてもらおう」


 クロヴィスが頷いたので、私達はオロチに分身を出してもらって先へ進む事にした。


 そして少し進んだ先に、また別の鉄扉を見つけて足を止める。

 その奥に、人間の気配がする。


「……五人」


 私が呟き、オロチが頷く。クロヴィスだけが驚いた顔で私とオロチを振り返った。


「すごいな。この状態で何人いるか正確にわかるのか」


 私は気配と魔力を探知する事で人数を割出した。オロチも似たようなものだろうが、元々蛇の魔物である彼はもっと感覚的に察知しているかもしれない。


「熟練の魔術師と思われる人間が二人、そこそこの魔術師が一人、ただの人間が一人、そのどれでもない者が一人……」

「どれでもない者?」


 クロヴィスが私の呟きに眉を寄せる。私は頷いた。


「ええ。変な気配……もしかしたら魔物かもしれない」

「突撃しますか?」


 オロチが私に確認する。

 私はクロヴィスの顔を見て、頷いた。


「行きましょう。オロチ、入った瞬間、抵抗されないように全員を威圧して」

「承知いたしました」


 オロチに命じた後、私は鉄扉に手を掛けた。


 魔力を込めた手で扉を開け放つ。

 中にいた人物が、一斉にこちらを振り返った。


 ダイニングのような大きな四角のテーブルがあり、二人の老人と一人の中年男性が着席している。

 その奥に金髪に緋色の瞳の青年、それから出入り口側に銀髪の青年が立っている。


 オロチの威圧が発動する直前に振り返ったその青年が驚愕の表情を浮かべると同時に、クロヴィスが声を上げた。


「フェリクス!」


 そこにいたのは、クロヴィスの弟にして第二皇子のフェリクスだった。

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