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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第五章 婚約式とティアラ

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終:婚約式

 婚約式の当日、準備を終えた私は大広間の扉の前に立っていた。

 隣には大神官のアネットと神官のジルベルトとクラリスが立っている。


 皇族の婚約式では、婚約者は両親のどちらかと共に入場するのが慣例らしいが、婚約者が聖女である場合はその限りではない。

 聖女が皇族と結婚する場合は、同性の神官を伴って入場するのだ。


 神官長のジャンは、婚約式の立会人として既に会場の祭壇で待機している。


「……いよいよですね」


 ジルベルトが声を掛けて来る。

 そう言う彼女も、先日ロジェから求婚を受け、それを承諾したと報告してきた。

 まだ先になるが私とクロヴィスの結婚式が済んで神殿が落ち着いたら、二人でささやかな結婚式を挙げる予定らしい。


「ジルベルトも、あと少しでしょう?」

「う、えと、それは、そうなんですけど……」


 途端に真っ赤になってしまったジルベルトに、クラリスが苦笑する。


「ジルベルトったら、いい加減慣れなよ」

「う、煩いわね」

「良いわねぇ、アンタ達は若くて未来があって」


 アネットが溜め息を吐く。

 四十歳にしてその美貌なのだから、彼女もその気になれば結婚くらいすぐできそうなものだが。

 少なからず、一部の貴族男性からは熱い支持がある。


「アネット様こそ、その気になれば引く手数多でしょう? ご結婚されないのですか?」


 クラリスが笑顔で切り込む。無邪気故に怖い。

 アネットは一瞬固まったが、苦々しく微笑んだ。


「そうね……結婚は一生しないつもりよ。男なんて、もう懲り懲り」


 そういえば、アネットは十七歳で神殿に入ったと聞いた。神官見習いとしてはかなり遅い。


 神官見習いになる者の多くは、十から十五歳の子供だ。

 神殿側が年齢で制限している訳ではないが、家庭の事情で入ってくる場合、十五歳以上になれば神殿に入らずとも生きていく術は身に付けられるようになるし、女性ならば結婚する事も少なくない。純粋に神官を目指して入る者も勿論いるが、それでも十五歳を超えてから神官を志す者はほとんどいないのが実情だ。


 それに、彼女の生家であるシエンタは子爵家だ。貴族令嬢であれば尚更、十七歳の時には結婚相手が決まっていてもおかしくはない。


 もしかしたら、彼女は神殿に入る前に婚約や結婚でトラブルがあったのかもしれない。


 それで政略結婚といった貴族のしがらみに嫌気がさして、十七歳で神殿に入った。そうだとしたら、彼女は神殿に入った時点で生涯独身でいる事を決めたのではないだろうか。


 何となく、そう思った。


「だから、アリス様、私の分まで幸せを掴み取ってくださいね。私が見ることのできなかった幸せな結婚生活を、しっかり見てください」


 アネットの言葉には、妙に重みがある。


 本当は自分の幸せは二の次にして世界平和に尽力するつもりだが、この場でそんな事を言うのは野暮でしかないので、それは胸に秘めておくことにする。


「わかったわ。でもアネット、私は貴方が幸せになる事も諦めないわ。結婚だけが幸せじゃないけど、貴方が結婚したいと思ったらすれば良いし、縛られる必要はないの。他に幸せになれる方法があるなら教えて。聖女として、全力で力を貸すから」


 私がそう答えると、彼女は一瞬驚いたように目を瞠り、それから僅かに涙ぐんで頷いた。


「……さぁ、行きますよ」


 クラリスの声を合図に、扉が開け放たれる。

 大勢の招待客の歓声を受けながら、私はアネット達を率いて、赤い絨毯の上を一歩ずつ歩んでいく。


 その先にはこのために設置された祭壇にジャンが立ち、その前にクロヴィスが、皇室の正装である煌びやかな軍服に身を包んでいる。


 む、初めて見たが、格好いいじゃないか。軍服。


 そんな事を思いながらクロヴィスを見ると、彼は妙に感動した様子で私を見ている。

 そういえば、このドレスをクロヴィスの前で着たのは初めてだった。


 婚約式は結婚式とは異なるので、ウェディングドレスではなく、その家柄に合ったドレスを纏うのが一般的だ。

 聖女の場合は、聖女の正装である淡い水色の生地に金色の刺繍が施されたシンプルな造りのドレスを着用する事になっている。


 式典用の正装として用意されるドレスなので、私がこれを公の場で着たのは初めてだ。


 クロヴィスの隣に立つ。アネット達は一礼して、祭壇側に回って並ぶ。


「……綺麗だ」

「あ、ありがとう……」


 率直に言われると照れる。

 私は誤魔化すように祭壇に立つジャンを見た。


「今ここに、ファブリカティオ帝国皇太子クロヴィス・シーマ・ファブリカティオ殿下と、聖女アリス・ロードスターの婚約を宣言する!」


 ジャンの宣言に、招待客から一層の歓声が上がる。


「殿下、婚約者にティアラを」


 ジャンに促され、脇で待機していたイーサンがクロヴィスにティアラを差し出す。

 それを受け取ったクロヴィスが、少し屈んだ私の頭に、そっとティアラを乗せた。

 

 まるで戴冠式のようだが、これがこの国の婚約式という事だ。

 ちなみに、皇族が女性である場合は、相手に宝石の填め込まれた剣を差し出す事になるらしい。

 あくまでも身分の高い者から相手に、婚約の証を贈るという儀式のようだ。


「……やっとここまで来た」


 感慨深げに呟くクロヴィス。

 まだ正式に結婚した訳でもないのに、と少しおかしくなって笑いを堪えると、ジャンがこほんと咳払いをした。


「……慣例では、皇太子の結婚は婚約式の一年後とされる事が多いですが、今回はクロヴィス殿下の希望とお相手が聖女である事を鑑みて、婚約期間は半年とすると、先程皇帝陛下がお決めになりました。つきましては、半年後に結婚式を執り行うので、そのつもりで」

「は、半年後?」


 唖然とする私に、クロヴィスがにやりと笑う。


「そうだ。うかうかしているとまた逃げられそうだからな」

「逃げないって言ったのに」


 ムッとして言い返すと、彼は少し楽しそうに私の耳元に唇を寄せて囁いた。


「冗談だ。俺が早くお前を手に入れたかっただけだ。悪いな」


 彼の低い声は心臓に悪い。

 どきどきと早鐘を打ち始めた心臓を宥めながら、私は小さく溜め息を吐いたのだった。

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