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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第五章 婚約式とティアラ

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参:盗賊シェイド

 シェイドは言い辛そうに視線を落とし、小さく口を開いた。


「……聖女は、皇族と無理やり結婚させられるって聞いたんだ……だから、お前が皇太子との婚約が嫌だと言うなら、連れて逃げようと思った」


 その言葉に目を瞬く。


「何で貴方がそんな事を?」


 彼は私を嫌っていると思っていたのに。


 と、シェイドは顔を真っ赤にしながら、吠えるように言い放った。


「ずっとアリスが好きだったんだよ! だからお前が神殿に行っちまってから、ずっと後悔していたんだ! いつかお前を迎えに行けるような男になろうと思ってた!」

「……は?」


 理解が追いつかず、思考が停止する。

 と、隣でクロヴィスが不機嫌そうな顔をしている事に気付いた。


「……クロヴィス?」

「何だ」


 怒っているかのような口調に、思わず首を傾げる。


「何で怒っているの?」

「怒ってない」

「怒ってるじゃない」

「怒ってない」


 埒が明かない。

 私まで苛々してしまいそうになって、自分を落ち着かせるために溜め息を吐いた。


 そんな私の態度に、クロヴィスは不機嫌そうな顔のままシェイドを見る。


「……で、どうするんだ。この男。逃がすのか?」


 冷たい声で問われ、何故クロヴィスが怒っているのかわからないまま、とりあえず首を横に振る。


「いいえ。ティアラを盗んだ罪は償ってもらうわ」

「アリス! 本当にすまなかった!」


 シェイドが悲痛な面持ちで叫ぶ。身動きを封じられているので頭こそ下げていないが、束縛魔術を掛けられていなければ土下座していそうな勢いだ。


「謝罪されても、貴方が犯した罪は消えないわ。貴方はこれから罪を償って……」


 言いかけて、言葉を切った。

 嫌な魔力の気配が、こちらに迫っている。


 クロヴィスも気付いて、洞窟の外を睨んでいる。


「クロヴィス」

「ああ、魔物だ。それも、群れだ」


 一般的に、魔物は弱いもの程よく群れる。

 そのため、個別に見ると低級で大して強くないのだが、数が増えると途端に厄介になる事が多い。


 一方で、中級以上の強さを持つ魔物が群れを成している事も稀にある。


 気配を探って、今回はその稀に当たってしまった事を悟る。

 魔物の一体一体の強さが中級以上である事と、それが十体以上いる事を察知し、クロヴィスを振り返った。


「多分、魔狼の群れね。まっすぐこっちに向かっている……不自然なくらい」

「ああ、何者かが操作してけしかけてきている可能性が高そうだ」


 クロヴィスが言いながらシェイドを見る。彼は青褪めた顔でそれを否定した。


「お、俺じゃねぇぞ! 俺は魔術なんて使えねぇんだ! 魔物なんて操れる訳ねぇよ!」


 その様子からして、どうやら演技ではなさそうだ。

 実際、記憶の中にあるシェイドも、魔術の才能はない普通の少年だし、目の前の彼の魔力を読み取っても、魔術師になれる程の魔力量はない。


 魔術も使わず城からティアラを盗み出したのだとしたら、盗賊としては大した腕である。


「魔狼の群れくらいなら私が対処できるわ。任せて」

「お前はまた……」


 クロヴィスが止めようとするので、私はふっと笑って見せた。


「さっきは譲ったんだから、次は私の番よ」


 私はそう言い置いて、彼の反論を待たずに結界魔術を纏って洞穴を飛び出した。


 ゆっくりと呼吸を三回数えたところで、魔狼の群れが吹雪の中に現れる。

 文字通り、狼の形をした漆黒の毛並みの魔物だ。

 何対もの赤い眼が私を睨み、その喉からぐるぐるとした唸りが響いてくる。


 ゴーチエが創り出した黒い影の魔物とよく似ている。あれは瘴気によって創られたものだったが、おそらく魔狼を象ったものだったのだろう。


「大丈夫か?」


 私を案じて洞穴から出て来たクロヴィスが尋ねてくる。

 私は振り向かずに頷いた。


「勿論。一撃でケリを付けるわ」


 あまり魔術を乱用したくはないけど、魔狼の群れを相手に素手で戦う方が体力を消耗してしまう。

 一つの魔術で決着をつける方が効率が良いだろう。


攻撃魔術インペタム!」


 魔力を刃に変える基本的な攻撃魔術を、広範囲に出力する。

 見える範囲の魔狼全てに刃が届き、首を落としたところを確認して、続けて叫んだ。


浄化魔術プルガティオ!」


 魔狼を一体残さず消し去ったところで、違和感に気付く。


 魔力の気配が残っている。

 これは魔狼のものじゃない。紛れていたのだ。


「っ! しまった!」


 飛び退こうとした時には遅かった。


 足元に魔法陣が顕現し、私の身体は強引に別の場所へ引っ張られてしまった。

 これは相手に拒否権を与えない、高位の強制召喚魔術だ。


「アリスっ!」


 クロヴィスの声が耳に届いた直後、私の視界は黒く塗り潰されてしまった。

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