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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第四章 冷戦中の隣国

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玖:切り札

 クロヴィスは再度アルバートを振り返った。


「……アルバート王太子、私の誘拐がエルヴィラ王女の独断という事ならば、彼女を王籍から除する事で王国に対しての責は不問にしてやっても良い」

「エルヴィラを除籍……?」

「ああ。当然、他の王族に嫁ぐことも禁止する。婚姻の相手はこちらが決めさせてもらうが、その相手を拒否するのならば神殿に神官見習いとして入ってもらう」


 クロヴィスの冷たい声色に、エルヴィラが言葉を失う。


「もし、この条件を受け入れないと言うのならば、帝国は今を以て、リベラグロ王国への侵略を開始する。当然、私とアリス、このオロチも、その瞬間城への攻撃を始めるぞ。王族は捕虜として捕らえるが、当然これまでのような暮らしができるとは思わない方が良い」


 つらつらと述べるクロヴィスに、アルバートはぐっと拳を握り締めた。


「私は、エルヴィラを除籍する方向でお願いしたいと存じます……ただ、私には決定権がありません」

「そうだな。今すぐ国王を呼べ。それか……」


 クロヴィスが私を見る。

 国王を呼びつける時間が惜しい、とその目が言っている。

 転移魔術で全員玉座へ出向きたいのだろうが、クロヴィスはこの城の中を知らないから、それができない。

 だから私にできるか確認しているのだ。


 視線一つでそれを察した私が頷く。


「私が転移魔術で……」


 言いかけたところで、オロチが割って入った。


「アリス様のお手を煩わせるような事ではありません。私がやりましょう」


 言うや否や、オロチは呪文も唱えずに転移魔術を発動させ、その場の全員を伴って移動した。


 突然目の前に私達が現れた事で、国王は顎を外さんばかりの勢いで驚いていた。


「お、お前達、これは一体どういう……!」

「父上、見ての通り、クロヴィス皇太子殿下が解放されました」


 アルバートが短く説明をする。


 警告と牽制を兼ねて、クロヴィスは再び魔力を放出する。

 バチバチと音を立て始めたそれを見て、目に見えて怒っているのがわかるので弱い者に対して威圧の効果は抜群だな、とぼんやり考える。


「こ、これは誤解なのですよ!」


 国王は慌てふためきながら首を横に振る。


「誤解?」

「エルヴィラが、クロヴィス皇太子殿に想いを寄せるあまり、つい魔が差してしまっただけなのです! 悪気があったことではありません! 何卒、ご容赦を……!」

「ああ、それはさっきアルバート王太子からも聞いた。それが本当であるなら、エルヴィラ王女には今回の責任を取って、王籍から離脱してもらう」

「え、エルヴィラを除籍しろと?」

「ああ。結婚相手に他国の王族を選ぶことも禁止だ。結婚相手はこちらで決めさせてもらう。その上で、その婚姻を拒否するのならば我が国の神殿に神官見習いとして入ってもらう。この条件が呑めないのならば、帝国は宣戦布告を受け、リベラグロ王国への侵略を開始する。当然、俺と聖女アリス、このオロチも、即座に城への攻撃を始める事になる」


 先程アルバートに放したのと同じ内容をもう一度告げる。


 国王はクロヴィスとアルバート、エルヴィラを順番に見て、悔しそうに歯噛みした。


 その表情に、私の直感が警鐘を鳴らした。

 追い詰められた人間は、何をしでかすかわからない。


「……舐めるなよ、小僧が」


 小さく呟いたその言葉には、抵抗の意思が色濃く滲んでいた。


 私が身構えた直後、国王は懐に手を入れた。

 何かを取り出すのならば奪い取った方が良いと判断して床を蹴った直後、彼は叫んだ。 


魔力吸収マジカエポテンティエフージオ!」


 その呪文で、彼が何を取り出そうとしたのか悟る。

 同時に、膨大な魔力が彼の懐から噴き出して、彼の身体に入っていく。


 彼の懐にあったのは魔晶だ。それも、かなり高純度の。


「モルドレッドと同じ轍を踏むか……」


 クロヴィスが舌打ちする。


「……何とも愚かですね」


 オロチが目を細めて呟いた。

 その気になれば私より強いであろう彼が微塵も取り乱さない事を受けて、私も冷静でいられた。


「父上!」


 アルバートが叫ぶが、魔晶の魔力を吸収した国王には届かない。

 目の焦点が合わなくなった国王は、怒声を張り上げた。


攻撃魔術インペタム!」

 

 反射的に、私とクロヴィスが防御魔術を唱える。


 国王が放ったそれは魔力を放って攻撃するシンプルな魔術だが、魔晶の魔力を得た彼が放ったそれは、今まで私が見た事があるどんな魔術よりも強力だった。

 防御魔術を張った私達には届かなかったが、零れた一撃で玉座の間の大理石の柱が粉砕してしまった。


 たった一回の呪文詠唱だったにも関わらず、国王からは立て続けに攻撃魔術が放たれる。

 しかし、私とクロヴィスが張った防御魔術の上からオロチも結界魔術を発動させてくれたらしく、私達は全くの無傷で済んだ。


 本当にあの時オロチを眷属にしておいて良かったと、今更ながらに痛感する。


「アリス様、お許しいただければ私が始末して参りますが?」

「……その必要はなさそうよ」


 私が国王を見た時には、彼の顔色は紙のように白くなっていた。

 息が切れ、ぜえぜえと肩が上下している。


 過ぎたる力は身を滅ぼす。

 あれほど高純度の魔力を一度に吸収すれば、身体が耐えられるはずもない。


「……オロチ、国王を魔術で拘束して」

「承知いたしました」


 オロチが国王に束縛魔術を掛けた瞬間、彼の手にあった魔晶が砕けて落ちた。


 魔晶の魔力が尽きたという事だろうが、国王の身体にはまだ魔晶の魔力が残っているはずだ。

 放っておけば魔力に呑まれて国王は死ぬ。


「オロチ、国王が吸収した魔晶の魔力を吸い出す事はできる?」

「ええ勿論。私の好物は人間の疲労ですが、好んで食さないだけで人間の魔力も喰えます」


 言うが早いか、オロチは一瞬で国王の傍に立つと、その顔を鷲掴みにした。


「がっ……!」


 国王は既に意識朦朧としている。

 オロチは無表情のまま、呪文を唱えるでもなく国王から膨大な魔力を吸い取ってしまった。


「……不味いですね」


 顔を顰めて手を放すと、国王はそのままばたりと倒れてしまった。


 嫌な沈黙を破ったのは、クロヴィスだった。


「アルバート王太子」

「は、はい!」

「今のリベラグロ国王の行動は、帝国への宣戦布告に相違ないな?」

「……申し開きの余地もない」


 アルバートは項垂れる。彼は何とか国を守るために、妹を王籍から離脱させるために国王を説得するつもりでいたはずなのに。


 娘を溺愛する国王は、娘と国民の命を天秤にかけ、娘の方に傾けてしまった。


「では、今を以てファブリカティオ帝国はリベラグロ王国への侵略を開始する。だが、今ここで降伏し、帝国の支配下に与するのならば、無駄な殺しはしない」


 クロヴィスがそう告げると、アルバートはちらりとオロチを一瞥した後、苦渋の表情で頷いた。

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