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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第四章 冷戦中の隣国

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漆:傲慢王女

 アルバートの顔には、今はそれどころじゃないだろう、と露骨に書かれていた。

 しかしそれでも、国王の命令は絶対。


 やむを得ないと言った風情の彼は、足早にエルヴィラの私室へ向かっていく。


 私はその後についていき、彼が廊下の角を曲がった瞬間に、背後から彼を羽交い絞めにした。


「っ!」

「声を出せば殺す」


 首元に短剣を宛がいながら耳元で囁くと、アルバートはぴたりと抵抗を辞めた。


「クロヴィス皇太子の封印を解き、速やかに彼を解放しろ……さもなくばこの国は滅びる事になる。イエスなら一回、ノーなら二回頷け。解放に応じるか?」


 淡々と問うと、アルバートは小さく、一度だけ頷いた。


「三十分以内に皇太子を解放しろ。小細工はするな。三十分以内に解放されない場合は、遠慮なくこの城を破壊する」


 そう言って、私はぱっと手を離す。

 アルバートが背後を振り返った時には、私は既にその場を離れていた。


 布石は打った。

 これでアルバートがクロヴィス解放に動いてくれるはずだ。


 問題は、クロヴィスを封印した張本人であるエルヴィラだ。

 彼女がクロヴィスを簡単に手放すとは思えない。


 私は外壁からバルコニーに回り込んで、エルヴィラの部屋を覗き込んだ。

 アルバートはまだ来ておらず、ウィリアムも席を外しているようだ。


 エルヴィラは、部屋のソファに座って、あの紫の宝石があしらわれたブローチを愛おし気に握り締めている。


「ああ、愛しのクロヴィス様。もう暫くお待ちくださいませ」


 ブローチに頬擦りするその様子が、なんだか無性に癪に障る。


 クロヴィスは私の婚約者なのに。


 そう胸を締め付けるようなこの感情の正体は、薄っすらわかっている。でも、まだ名前を付けて明確にはしたくなかった。


 と、その時、エルヴィラがブローチに口づけようとしている様が目に飛び込んできた。


 あのブローチは、あくまでもクロヴィスを封印しているだけであって、クロヴィス本人ではない。

 そんな事はわかっているが、それでも嫌だと思う気持ちを、抑える事ができなかった。


 私は衝動的に、窓を蹴破ってエルヴィラの部屋に乗り込んだ。


「っ!」


 ぎょっとする彼女の前に、遮蔽魔術を解いて姿を見せ、私は無表情で言い放つ。


「クロヴィスを返して」


 その言葉にはっとしたエルヴィラが、ブローチを握り締めて胸に庇う。


「無礼な! ここをどこだと思っているのです!」


 言うや、彼女が右手を振り払う。


 刹那、部屋に複数の魔法陣が顕現し、衛兵が姿を現した。どうやら侵入者対策で召喚の魔具が仕掛けられていたらしい。


「衛兵! この侵入者を捕らえなさい!」


 エルヴィラが私を指差し、衛兵が私に向けて剣を抜く。


 ゴーチエに操られた神官や、モルドレッドに操られた鉱山夫と違って、彼らは鍛え抜かれた兵士だ。

 無傷で倒すのは、流石の私でも骨が折れる。


 だが、彼らは今、操られている訳ではない。


「エルヴィラ王女、あまり私を怒らせない方が良いわ」


 一応警告するが、エルヴィラは鼻を鳴らすだけだった。


 私は嘆息して、隠し持っていた短剣を引き抜いた。

 魔術で一気に片を付ける事もできるが、相手がどんな魔具の武器を持っているかわからないので、まだ魔力は温存しておいた方が良い。

 まずは肉弾戦に持ち込むことにする。


「そんな小さな剣で何ができると……」


 勝ち誇ったエルヴィラが嘲笑を浮かべるのをよそに、私は床を蹴った。

 飛び掛かって来る兵士の剣に小さな魔法陣が刻まれているのが見えた。おそらく魔剣の一種だろう。

 そのまま攻撃を受けるのは危険と判断した私は、兵士が剣を振るうより早く胴を蹴り飛ばし、短剣で剣を弾き飛ばした。最終的には顔面を拳で殴って失神させる。


 王女の私室は広いが、戦うには狭い。やたら豪華な家具がゴロゴロしているのも幸いだった。

 家具を傷付けたらいけないと、兵士がやたら気遣って動くおかげでかなり楽に隙を衝けた。


 最後の一人を倒したところで、アルバートが慌てた様子で部屋に入って来た。


「何事だ……!」


 この部屋の状況を見て、愕然とした彼が説明を求めてエルヴィラを見る。


「この女が急に入って来たんですのよ! いくら帝国聖女でも無礼にも程があります! お兄様、今すぐ死刑にしてくださいませ!」

「帝国聖女? まさか、貴方は本物の……?」


 私と面と向かって会うのは初めてのアルバートが目を瞠る。

 私は無表情のまま頷いた。


「ファブリカティオ帝国の今代の聖女、アリス・ロードスターと申します。ご無礼を承知で、私の婚約者であるクロヴィス皇太子を取り戻しに参りました。少々手荒な手段も厭いませんので、どうぞご容赦くださいませ」


 あえて慇懃な口調で一礼して見せる。


「……我が国の衛兵を、たった一人で……? 全員、魔剣を所持していたはずだが……?」

「魔具なんて、使えなければただのガラクタ同然。魔剣が効力を発揮するのは大抵剣を振るう時。振るう前に弾いてしまえば恐れる必要はないわ」


 口調を戻して、ちらりとエルヴィラを一瞥する。彼女が左の袖口から何かを取り出そうとしたので、一瞬で間合いを詰めてそれを奪い取った。


「っ!」

「だから、私の前で魔具を使えると思わないでくれる?」


 奪ったそれに触れて、すぐにわかった。これは武器の魔具だ。


 前世の私の特殊能力の一つ、たとえ初めて見るもの、触るものでも、武器であればたちまち思い通りに操る事ができる。

 それが発揮され、触れた瞬間に使い方まで感覚で理解する。


 しかもその使い方は、前世の私が最も扱いを得意としていた、銃と呼ばれるこの世界にはない武器とそっくりだった。


「……へぇ、こうやって使うのね」


 形状は貴族男性が好んで使う煙管のようだ。上の穴から鉛玉をセットして、予め込められた魔力でそれを噴出する仕組みらしい。


 私がその銃口である部分をエルヴィラに向けると、彼女はあからさまに取り乱した。


「何故それの使い方を……! それは我が国の魔術師が開発した最新の魔具武器ですのに!」

「残念だったわね。私はあらゆる武器を使いこなす事ができるの。前世からの贈り物よ」


 これで観念してあのブローチを渡してくれるなら良いのだけど。


 銃口を据えながら彼女の様子を観察すると、彼女は小さく震えながらかっと目を見開いた。


「何なんですの! クロヴィス様には、貴方のような化け物は相応しくありませんわ! 絶対にクロヴィス様は渡しません!」


 化け物と呼ばれて苛立ったが、同時に「あ」と気付く。

 その時には遅かった。


 オロチが再び、怒りを露にしたのだ。

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[一言] 「残念だったわね。私はあらゆる武器を使いこなす事ができるの。前世からの贈り物よ」 ばらす必要は無かったのでは?
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