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伍:リベラグロ王国

 転移魔術は、一度行った事がある場所か、地図などで具体的に場所を思い描けないと発動できない。

 後者は前者よりも更に魔力の消費が大きくなる。


 リベラグロ王国に行ったことはないが、程近いアビエテアグロ公国のアテンザ伯爵領には先日行ったばかりだ。

 あそこまで転移してしまえば、あとは飛翔魔術で数時間もあればリベラグロ王国の王都まで移動できる。


転移魔術メタスタージス!」


 瞬き一つの間に、活気あふれる鉱山の町に移動した。

 町のど真ん中に転移すると騒ぎになってしまうので、転移先は人通りの少なそうな路地裏にした。


「……こないだは本当に様子がおかしかったのね」


 先日来たときは静まり返っていた町のメインストリートも、今は多くの人で賑わっている。

 それが覗けただけ、中継地点としてでも立ち寄った価値はあったな、と思いつつ飛翔魔術を唱えて飛び立つと、背後から猛スピードで何かが接近して来た。


「アリス様ぁぁぁっ!」


 げ、と内心で呟く。

 この町で医者をしているはずの魔物にして私の眷属でもある魔物オロチが、文字通り飛んできていた。


「アリス様の気配を感じて馳せ参じました! 何かこの町に御用が?」

「違うの。ちょっと事情があって、リベラグロ王国に行くのに、転移魔術の中継点にしただけ。この町には特に用はないから、戻って良いわよ。診察もあるでしょう?」


 速度を緩めることなくそう告げると、本性である黒髪緋眼の美青年の姿をしたオロチは空を並走しながら首を傾げた。


「本日は元々休診日でして……ところで、リベラグロ王国へ行くだなんて、一体何があったのです? 不肖オロチ、アリス様の一大事であれば命を賭してお助けする所存です!」


 きりっとした表情で言ってのけた彼に、邪魔だから帰れと言いかけて、彼がとんでもなく強い事を思い出した。


「オロチ、遮蔽魔術は使える?」

「ええ勿論。元々蛇の魔物ですから、気配を絶って獲物に忍び寄るのは得意中の得意でございますよ」

「そう。なら、その禍々しい魔力の一片も零すことなく隠した上で、私について来られるのなら同行を許すわ」

「ああ! ありがたき幸せにございます!」


 恍惚の表情で頷いたかと思うと、オロチは本当に一瞬でその魔力諸とも姿を隠した。


『いかがでございましょう』

「完璧よ。そのままついてきて。何かあったら呼ぶから、それまで姿を見せては駄目よ」

『承知いたしました』


 気配さえ感じないのに、声が頭に直接響いてくる、不思議な感じだ。


 私は移動しながら、オロチに事の経緯を話した。

 クロヴィスを救うという名目はオロチにとって面白くないものだったようだが、それでも私が望んでいる事なので、オロチも快く協力すると言った。


 そうこうしているうちに、リベラグロ王国の王都へ辿り着いた。

 私も遮蔽魔術を掛けた上で町に入り、そのまま王城に忍び込む。


 城の敷地内には、魔具による侵入者対策がなされていたが、それを避けるのは前世が暗殺者だった私にとって朝飯前だった。


 とにかく、エルヴィラを探し、あのブローチからクロヴィスを解放しなければ。


 エルヴィラの私室とみられる部屋を探していると、聞き覚えのある声がした。


「お前、何を考えているんだ!」


 ウィリアムの声だ。

 私は声がした部屋の扉に耳を付けた。


「だってお兄様、わたくし、どうしてもクロヴィス様と結婚したいんですもの。婚約者がいるのならば、奪うしかありませんでしょう?」


 悪びれた様子もなく言ってのけたのはエルヴィラの声。


「おいおい、モルドレッドを捕らえて、無条件にこちらに引き渡してくれた帝国の皇太子を誘拐してきたなんて……どうするんだ。早く父上に知らせて、帝国に謝罪を……」


 動揺した様子の声は、先程の使者の中にはいなかった人物のものだ。


「謝罪だなんて! クロヴィス様もわたくしときちんとお話すれば、あんな聖女よりもわたくしが良いと仰ってくださるに決まっています! そうすれば万事解決でしょう?」


 傲慢この上ない発言に、ウィリアムが唸った。


「兄上、今すぐクロヴィス皇太子を解放すべきでは?」


 ウィリアムが兄上と呼んだということは、もう一人は王太子のアルバート・レジェンド・リベラグロか。


「待て、クロヴィス皇太子は、一流の魔術師だ。封印された事で怒り狂い、解放された瞬間破滅魔術でも唱えられたら城が消し飛ぶぞ!」


 クロヴィスの魔力量を考えたらそのくらいできそうだが、流石に解放と同時にそんな事はしないだろう。

 まぁ、クロヴィスと付き合いのない敵国の王子達からすれば、クロヴィスの人となりもわからないのだからそれを懸念するのも無理はないか。


「……とりあえず、封印はまだ解くな。私は父上にこの件を相談してくる」


 アルバートがそう言って部屋を出ようとした気配が伝わって来たので、私はすぐに身を引いて姿を隠した。遮蔽魔術で気配も姿も消してはいるが、強い魔力を持っている者が注視すれば私の姿は捉えられてしまうのだ。


 とにかく、早くクロヴィスを解放してやりたいが、あのブローチを奪ったとしても、封印を解除する方法は持ち主しか知らない。

 下手に私が手を出して封印が解けなくなるなどのトラブルが起きるのは避けたいので、エルヴィラが自分からクロヴィスを解放するまで待った方が賢明だ。


 ブローチの所在はわかったので、次は国王がこの事態をどう収束させようとするのかを確認しておいた方が良いだろう。


 もしも、クロヴィスをこのまま人質にでもしようとするのならば、相応の報いは受けてもらわなければならない。


「オロチ、エルヴィラが持っている、紫の宝石のブローチを見張って。あれにクロヴィスが封印されているの。もし彼女が何かしようとしたら知らせて」

『承知いたしました』


 遮蔽魔術を掛けた者同士だからか、ほんの僅かに感じていたオロチの気配がすっと離れる。

 

 私はアルバートを追いかけ、玉座の間に忍び込んだ。

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