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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第四章 冷戦中の隣国

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肆:罠

 翌日、モルドレッドの引き渡しのため、私はクロヴィスと共に城の中庭にやってきた。


 モルドレッドの処罰については、昨日中にクロヴィスとウィリアムが話し合い、帝国も納得する形で落ち着いた。

 当然のように私とエルヴィラも同席したが、彼女はずっと私を睨むばかりで、モルドレッドの処遇については一切口を出す事はなかった。


 その話し合いの前にウィリアム達をモルドレッドの牢まで案内したガレスの話では、牢でウィリアムがモルドレッドに罪状の確認と今後の説明をしただけで、怪しい動きはなかったとの事だ。

 ただ、モルドレッドを追及するためにわざわざやって来たというエルヴィラは、牢では興味無さそうな顔で一言も発する事はなかったそうだ。


 やはり、モルドレッドを追及するため、というのはただの口実だったらしい。


 その彼女は、今クロヴィスに熱い視線を送っている。


「では、ここに罪人モルドレッド・アコードをリベラグロ王国の騎士団に引き渡す」


 こちらの兵に連れられて、手枷を嵌められたモルドレッドが出て来る。

 虚ろな表情で、ただぼんやりと歩き、抵抗する様子もなく護送用の馬車に乗っていった。


「クロヴィス皇太子殿下。此度は誠にありがとうございました。この御恩は、いつか必ずリベラグロ王国としてお返しいたします」


 ウィリアムが一礼して下がろうとした時、エルヴィラがすっとクロヴィスにすり寄った。


「クロヴィス様、これはわたくしからの贈り物でございます。どうぞお持ちください」


 言いながら、何かを差し出す。

 クロヴィスは警戒する様子を見せたが、流石に城の敷地のど真ん中で自分を害するものを出しては来ないだろうと判断したのか、とりあえずそれを受け取った。


「では、ごきげんよう」


 にっこりと笑って、彼女は馬車に乗り込んでいく。

 彼らを見送って、私はクロヴィスの手元を覗き込んだ。


「……何だったの?」


 それは大きな紫色の宝石があしらわれたブローチのようだった。

 どう見ても、魔力が込められている。


 嫌な予感が、胸を焼いた。


「……クロヴィス、すぐにそれを処分した方が良いわ。嫌な感じがする」

「そうだな。おい、ガレス、これを……」


 クロヴィスがガレスに手渡そうとした、その時だった。


 ブローチの宝石から突如魔力が噴出し、クロヴィスに絡みついた。


「っ!」


 私もクロヴィスも、防御や攻撃反射系の魔術を発動させようとしたが、遅かった。


 一瞬にして、クロヴィスがブローチの宝石に吸い込まれてしまったのだ。


「クロヴィス!」


 ブローチは地に落ちる事もなく、ふよふよと浮き、一瞬後、ひゅんと流れ星のようにどこかへ飛んで行ってしまった。

 その方向は、今まさにリベラグロ王国の騎士団と馬車が出発していった方角だ。


「殿下!」


 ガレスとオリヴァーが色を失って叫ぶ。目の前で警護対象の皇太子が消えたとあっては、彼らの立場もない。


「アリス様、これは……!」

「……エルヴィラ王女が、クロヴィスを誘拐したという事ね」


 歯噛みする。


 私としたことが、完全に油断した。

 まさか、一国の王女が、冷戦中の敵国である帝国の皇太子相手に、これ程までに強引な手段を選ぶとは思わなかった。


 あのブローチは、対象を封じ込める魔具だったのだ。しかも、遠隔で操作が可能な代物。


「ガレス、オリヴァー、今起きた事を皇帝陛下に報告をして」

「承知しました」

「アリス様は?」


 一緒には来ないのかと、オリヴァーが尋ねてくる。

 私はにっこりと笑って見せた。


「クロヴィスを、取り戻してくるわ。だから、皇帝陛下がリベラグロ王国に攻め込むって言い出したら、私が戻るまで待つように伝えてね」

「えっ?」


 二人が戸惑いを見せた瞬間、私は転移魔術で与えられていた城内の部屋に戻った。

 何かあった時に備えて、動きやすい庶民の服を持って来ていて良かったと思いながら、それに着替える。

 ドレスでは身動きが取り辛いったらない。


 着替えたらすぐさまバルコニーから飛翔魔術で飛び出した。

 馬車ならば、すぐに追いつくはずだ。


 しかし、しばらく跳んでも騎士団と馬車は見えてこない。


「遅かったか」


 思わず呟く。


 彼らはおそらく、転移魔術で自国に戻ったのだ。


 ファブリカティオ帝国の帝都から見て、リベラグロ王国の王都は南西の方角にあり、早馬で十日、馬車ならば倍以上掛かる程の距離がある。


 モルドレッドが捕らえられてから十日も経っていないのにここまで来たのだから、当然、来る時も転移魔術を行使したはずだ。


 正当な手続きを踏んでの来訪だとクロヴィスが言っていた通り、おそらく帝都付近まで転移魔術でやって来る事は事前に通達が来ていたはずだ。


 しかしそれにしても、帝都を出た瞬間に転移魔術を行使するとは思わなかった。

 転移魔術による魔力の消費量は、距離と人数に比例する。騎士団のような団体や馬車を転移させるためには、膨大な魔力が必要になる。

 転移魔術を使用するにしても、極力自国に近付いてからだと踏んでいたが、読みが甘かったらしい。


 おそらく、リベラグロ王国は騎士団のような大軍を丸々転移することができる魔具を所有しているのだろう。

 なるほど、これまで帝国と互角に渡り合っていただけの事はある、厄介そうな国だ。


 皇太子の誘拐となれば、当然ファブリカティオ帝国としても一大事である。

 だがそれ以上に、私は怒りと焦りでいっぱいだった。


 強硬手段に出たエルヴィラ王女に対する怒りと、油断した自分自身への怒り。

 そして、クロヴィスに何かあったら、という焦り。


 エルヴィラはクロヴィスに懸想した結果彼を連れ去っているので、危害を加える事はないと思うが、もしもクロヴィスを操って魅了するような事になったら―――――。


 いや、と否定する。

 落ち着け私。操作魔術なら、浄化魔術か物理的な衝撃で解除できるのだ。


 問題は、あのクロヴィスに限ってないとは思うが、本当に心変わりをしてしまった場合だ。


 もしも、万が一クロヴィスがエルヴィラと結婚することを選んだら。

 あれだけ私に熱心に求婚しておいて、そんなあっさり心変わりするとは思えないが、彼が隣にいないだけで、こんなにも不安になってしまう。


 そもそも私は、クロヴィスとの結婚には至極後ろ向きだったはずなのに。

 それなのに今、彼が隣にいない事に、こんなにも不安を覚えている。


 いつの間にか、私の心の中で、クロヴィスの存在はかなり大きなものになっていたらしい。

 攫われて初めて気付くとは、皮肉なものだ。


 私は自分の両頬をぱちんと叩き、無理矢理気持ちを切り替えて、右手を掲げた。

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