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参:敵国からの使者

 翌日の夕方、リベラグロ王国からの使者が到着した。

 罪人の護送という事もあり、リベラグロ王国からは、第二王子であるウィリアム・ラファーガ・リベラグロが率いる王立騎士団がやってきた。


 そして、騎士団に囲まれた中心に、不自然なまでに豪華な馬車が一台。


 出迎えたクロヴィスとアリスは、すぐにそれが第一王女エルヴィラが乗る馬車だと察した。

 モルドレッドを運ぶための馬車は、それより後方に厳重な檻付きのものが見える。


「……来たな」


 クロヴィスが少々疲れた様子で呟く。

 彼の腕を取った状態で城の玄関までやってきた私は、相手の一挙手一投足を見逃すまいと気合を入れる。


 と、騎士団の先頭にいた人物が馬から降り、足早に歩み寄ってきた。


 明るいオレンジ色の髪に深い緑の瞳の青年だ。鎧の装飾からして、彼が第二王子のウィリアムだろう。


「ファブリカティオ帝国クロヴィス皇太子殿下に御挨拶申し上げます。私はリベラグロ王国第二王子のウィリアム・ラファーガ・リベラグロにございます。この度は我が国の罪人が御国でもご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません」


 高位貴族の礼儀に則って深々と一礼したウィリアムに、クロヴィスは頷いた。


「いや、遠路遥々よく来た。ウィリアム殿、こちらは私の婚約者で今代の聖女である、アリス・ロードスターだ」


 クロヴィスが私を紹介すると、ウィリアムは私を見て先程と同じく深く頭を下げた。


「聖女アリス様、今回のモルドレッド逮捕には貴方様のご尽力を賜ったと伺っております。リベラグロ国王に代わって心より御礼申し上げます」


 彼の所作、言動から、彼が至極真面目な男であることはわかった。

 まるで神官のリュカを見ているような気分になってきた。立場が違えば二人は気が合うだろうな、などと頭の片隅で考える。


「冷戦中とはいえ、正当な手続きを踏んでの来訪だ。使者として丁重にもてなす事を約束しよう。まずは騎士団を休息のための広間へ案内、それからモルドレッドを捕らえている牢に案内する」

「御心遣いに感謝いたいたします」


 ウィリアムが一礼して、騎士団に指示を出す。

 クロヴィスも使用人に彼らを案内するように伝えた。


 そして、ウィリアムと騎士団の副団長という青年をモルドレッドの牢に案内しようとした時、馬車のドアが開いて中から一人の少女が降りてきた。


「お兄様! いつになったら私を呼ぶのです!」

「エルヴィラ! 呼ぶまで待てと言っただろう!」


 エルヴィラと呼ばれた朱色の髪に翠の瞳の少女は、クロヴィスを見るや目を輝かせた。


「ああっ! クロヴィス様! お会いしとうございました!」


 頬を紅潮させ、今にも抱きつこうとしそうな彼女を、さっとウィリアムが制する。


「失礼。妹のエルヴィラです……少々思い込みの強いところがありまして」


 苦々しい面持ちで言葉を濁すウィリアム。

 どうやら相当苦労しているらしい。


 彼は妹の腕を掴み、こそこそと耳元で何かを囁いた。

 彼らの声は聞こえないが、唇の動きから、何を話しているのかを読み取る。


『エルヴィラ、お前がどうしても自分を殺そうとしたモルドレッドを一刻も早く自ら追及したいと言うから今回同行を許可したんだ。くれぐれもクロヴィス皇太子殿下に失礼な事をするなよ』

『あら、お兄様、このわたくしが失礼なんてするはずがありませんでしょう?』

 

 先程の登場からこのやりとりだけで、エルヴィラ王女がとんでもなくわがままで高飛車だということが理解できた。

 これは一筋縄ではいかないだろうな。


「エルヴィラ王女、こちらが私の婚約者であるアリス・ロードスターだ」


 クロヴィスが先手で牽制するために私を示すと、エルヴィラは私を見て忌々し気に目を細めた。


 おお、そんなに露骨に顔に出すのか。流石に外交問題になりかねないぞ。


 国を代表してここにいるというのに、どうやら彼女にはその自覚がないらしい。

 公務をしなくて良いと言われた聖女の私でも、流石に外交、社交の場で相手をそんな風に睨んだりしない。


 とはいえ、ここで私が不快感を露わにしても良い事はない。まずは笑顔で牽制しておくべきだろう。


「何か?」


 にっこりと微笑みかけると、彼女はふんと鼻を鳴らした。


「別に。帝国の聖女と聞いていたので、さぞやお美しい方なのだろうと思っていたのですが、まさかの金髪で碧い眼だったものですから、驚いただけですわ」


 その言い分に、私は流石にウィリアムを見た。


 リベラグロ王国の王族の多くは翠の眼をしている。淡ければ淡い程高貴としているらしい。同時に、朱色の髪を誇りに思っているらしい。


 帝国は多数の王国や公国を束ねている事もあり、地域によって多い少ないはあれど、髪や瞳の色は様々だ。そのため、外見の色についての偏見や差別は少ない。

 ちなみに歴代聖女も様々だが、一番多かったのは私と同じ金髪碧眼で、それもあってこの色は“いかにも聖女らしい色”だと言われている。


「それは帝国の聖女に対する侮辱か?」


 エルヴィラの言葉に、クロヴィスが露骨に不快感を露わにした。

 彼が何故そのような顔をするのか、彼女はさっぱり理解できない様子で目を瞬いている。

 その横で、ウィリアムが青褪めて身体をくの字に折り曲げた。


「大変失礼を! 愚妹はリベラグロ王国からほとんど出た事がなく、帝国の聖女様の髪色を存じ上げなかったのです! どうかご容赦を!」

「次はない。アリスへの暴言は私への侮辱とするぞ。それがたとえ、隣国の王族であってもな」


 土下座せんばかりの勢いのウィリアムが、無理矢理にエルヴィラの頭を掴んで下げさせる。

 最初は抵抗していたエルヴィラも、クロヴィスの眼を見て渋々「失礼いたしました」と呟いた。


「……モルドレッドの牢に案内しよう」


 クロヴィスは踵を返して彼らを城へ招き入れた。

 とはいえ、牢までの案内を皇太子自らやってやる義理はないので、その後は帝国の国立騎士団の団長ガレスと副団長オリヴァーに引き継いだ。

 ウィリアムに引き摺られるようにして去っていくエルヴィラは、最後まで私を睨んでいた。


「……嫌な予感しかしないな」

「同感ね。明日ここを出発するまでの間に、何かやらかす気がするわ」


 先程私を馬鹿にした時、彼女の瞳の奥にはあの昏い光が視えた。

 彼女が、他者を傷付ける事を厭わない性格であるという事だ。


 今の態度で、彼女がクロヴィスに今も尚ご執心なのはわかった。

 ああいう王族の人間は、権力で他人を支配できると思っている節があるが、まさか帝国皇太子にまでそれが叶うと思っているのだろうか。

 まさかとは思うが、先程の私に対する振る舞いを見ていても、自分の立場を理解できていないことは明白。


 そういう人間は、欲しいものを手に入れるために、強引な手段に出かねない。


 私はぎゅっと拳を握り締めたのだった。

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