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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
番外編1

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番外編 ロジェの受難

この話は神官ロジェ・ミラ目線の番外編です。

 やぁ麗しのレディ達、こんにちは。

 俺はロジェ・ミラ。五人の神官の一人だ。


 先日のマルセルの一件で、晴れて長年の片想いを実らせた俺は、同じく神官の一人であるジルベルト・ジムニーと交際している。


 神官同士の交際を解禁してくれた聖女アリス様には感謝しかない。


 さて、少し俺の話をしようか。


 俺は没落した男爵家の三男だった。

 幼い頃はまだ家も健在で、貴族令息として育てられていた。


 自分で言うのもなんだが、俺はかなりの美少年だった。

 男爵家の三男という立場的にも、縁談の話はかなり来ていたらしい。

 使用人やメイドからも、色目を使われる事が多く、幼少期の俺は正直辟易していた。


 十歳頃になると、少しずつ女性のあしらい方を覚え、言い寄られても上手く躱すことができるようになっていったが、その矢先、父が事業に失敗して財産と爵位を失った。

 長兄は家の立て直しのために奔走、次兄もそのために資産家子爵家の行き遅れの令嬢と結婚する事になった。


 兄二人は俺には家の負債を負わせまいと、俺を孤児院に送ろうとしたが、それを知った祖母が俺に神官になれと言ったので、俺は一人で神殿の門を叩いた。


 実は、祖母は魔術師だった。

 父や兄たちは魔術を使えないし、祖母自身も、事情は知らないが家族に魔術師であることを隠していた。

 幼い頃、俺が祖母と一緒にいた時に、彼女は俺にも魔術の才覚があると悟り、密かに簡単な魔術の使い方を教えてくれていたのだ。


 神官は必ずしも魔術師でなくてもなれるが、魔術が使えた方が有利である事は間違いない。

 そして、神官になれば少なくとも食い扶持に困ることはない。


 祖母の勧めで神官見習いになったが、そこでも俺はこの見た目で神官見習いの少女達から色目を使われる事になる。


 時にはあしらい、時には適当に応じて、すっかり軽薄神官見習いが板について来た頃、同じく神官見習いとして神殿に入ってきたジルベルトに出会った。俺が十五歳、彼女が十二歳だった。

 当時まだ神官だったジャン様に呼ばれ、新入りに神殿内を案内しろと言われたんだ。


 初めて顔を見た瞬間に、衝撃が走った。

 幼さが残りつつも凛として整った顔立ち、短く切り揃えられた絹糸のような金髪、意志の強さを象徴したような紫の瞳、その全てが美しかった。


 そして、彼女は軽薄な俺の態度に、あからさまに眉を顰めた。

 女性からそんな目で見られた事がなかった俺は、あっさり陥落した。


 ジルベルトは今まで出会った女性の誰とも違う、唯一無二の存在だった。


 彼女の気を引きたい一心で、目の前で他の女の子を口説いたりしたけど、完全に逆効果だった。

 それでもこの顔と染みついた性格のせいで、女の子達は次々に寄ってくる。


 ジルベルトと話すきっかけが欲しくて、彼女と同じアネット大神官の派閥にも入ったけど、彼女が俺に笑いかけてくれることはなかった。


 それでも、あのマルセルの事件の後、本心を打ち明けて交際を申し込んだら、なんと受けてもらえたんだ。


 頬を赤くして視線を逸らす彼女の愛らしさったらない。

 俺が彼女を褒める言葉を口にするたびに赤くなって「馬鹿」と呟く彼女を前に、俺の理性は崩壊寸前だ。


 アリス様が認めたのは結婚前提の交際のみ。

 神官たるもの順序は守らなければならないので、結婚する前に子どもができるようなことは避けなければならない。


 俺としては、年齢的にも今すぐ結婚したいくらいなんだけど、恋愛経験皆無のジルベルトは、もう少し俺に慣れないと無理だろう。

 何しろ、一度どさくさに紛れて頬にキスしたら、物凄い勢いで平手打ちされたくらいだ。

 その後で涙目になって謝られた。嫌だった訳じゃない、びっくりしただけだと。


 平手打ちされて痛む頬より、愛おしさがまさった俺は心底ジルベルトに惚れていて、我ながら情けなく救えないと思う。


 それでも。


「ロジェ!」


 神殿の中で俺を見つけた時に、笑顔を見せてくれる。

 それだけで、少し前の俺からしたら信じられないくらい幸せだ。


「どうしたの?」


 俺の顔を覗き込む綺麗な顔。


 俺はきょろきょろと辺りを見渡して人の目がないことを確認して、彼女の唇に軽くキスをした。

 その後で反射的に放たれる平手打ちを想定して、すぐに後ろに飛び退くと、彼女は真っ赤になって口をぱくぱくとさせていた。


 なんだこの可愛い生き物は。

 これで二十四歳とか、奇跡かよ。


 俺はなけなしの理性でだらしなくにやけそうになる顔を抑え、踵を返した。


「後でな」


 首だけで振り返りそう告げると、直後に硬い何かが顔面に直撃した。


「いだっ!」


 顔を押さえて蹲る。

 バサリと落ちたそれは、神殿で使われる経典だ。かなり分厚いやつ。


「っ! 馬鹿!」


 真っ赤な顔で怒鳴り、彼女は身を翻して走り去ってしまった。


 俺は分厚い経典を拾い上げて苦笑する。


 次からは、平手打ちだけじゃなく、飛び道具にも気を付けないとな。

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