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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第三章 鉱山の町

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漆:魔晶

 掌に乗った魔晶は、七色にキラキラと輝いていた。


「これは……!」

「少し前に採掘したんだ。売ったら金になると思って隠し持っておいた……でも、多分売るよりアンタに渡した方が有効に使ってくれそうな気がするからさ」

「……そうね。おかげで、フィアンナを監禁していた魔術師を、捕らえる事ができそうよ」


 私がそう言うと、ハルフェンは嬉しそうに笑って頷き、踵を返して駆けて行った。


 モルドレッドは、巨大な魔晶の魔力を吸収した。

 それによって私とクロヴィスの魔力量を大きく上回り、破滅魔術という強大な攻撃魔術を発動させる事に成功した。


 でも、私が魔晶の魔力を吸収すれば、その差は無くなる。


 しかも、だ。


「この魔晶、小さいけどかなり純度が高いみたい」

「純度?」


 クロヴィスが私の掌に乗っているそれを見て目を瞬く。


「うん。魔鉱石もそうだけど、ランクがあるでしょう? 純度が高ければ高いほど、魔力の含有量が多くなる……さっきモルドレッドが吸収した魔晶は、大きさこそ最大級だったけど、純度は並みだった。この魔晶と、輝きが全然違うでしょう?」


 モルドレッドが手にしていた魔晶は、紫色で、光ってはいたがかなり鈍かった。


 それに対して、これは七色に輝く、最上級の魔晶だ。それこそ、これと引き換えに町一つ買えるくらいの価値がある。


「……後で、ハルフェンには対価を用意してあげないとね。皇太子様?」


 少し冗談めかして言うと、クロヴィスは僅かに苦笑した。


「そうだな。さっきの彼女と一緒に住む新しい家くらいは用意してやるか……それより、そんな高純度の魔晶の魔力を吸収するのか?」


 急に心配そうな顔をするクロヴィスに、私は不敵に笑って見せる。


「過ぎたる力は身を滅ぼす……でもね、魔晶の魔力を直接吸収しなければ大丈夫よ」


 私は唇を吊り上げ、魔晶をぎゅっと握り締めた。


「って事で、ちょっと行ってくるわ! クロヴィスは危ないからここに居て!」

「は? おい!」


 引き留めようとするクロヴィスを振り切って、私は唱えた。


飛翔魔術ヴォランス!」


 軽々と宙へ舞い上がり、もう一度鉱山を目指す。


 鉱山の真上に滞空し、左手で魔晶を握り締めて右手を鉱山に向けた。

 大事な鉱山に縦穴を空ける事になってしまうが、致し方ない。緊急事態だ。


穿孔魔術ペルフォラティオ!」


 魔力をドリルのようにして、対象に穴を空ける魔術だ。

 当然だが、その対象が硬く厚い程、術者の魔力を消費する。硬い岩山である鉱山に縦穴を空けるには、かなりの魔力が必要になる。


 しかし、今の私には魔晶がある。


 魔晶の魔力をそのまま魔術に転換する。自分の魔力ではないものを魔術に流用しているので、かなり集中しないと魔力が乱れて術が霧散してしまいそうになるが、そこは気合だ。


 その甲斐あって、魔力のドリルは目的の場所、モルドレッドが潜んでいるところまでぶち抜いた。

 空いた縦穴から、あの膨大な魔力と共に、黒い靄が噴水のように噴き出してくる。


 憶測だが、おそらくモルドレッドはこれまでも魔晶や魔鉱石から少しずつ魔力を取り込んできたのだろう。

 過ぎたる力は身を滅ぼすが、小さい魔晶や魔鉱石から少しずつ取り込んで身体を慣らしていたのではないか。だから感覚が麻痺して、あれほど大きな魔晶の魔力を取り込む事に躊躇が無かったのだ。


 魔鉱石や魔晶の中には、少なからず穢れを含んだものもある。外から魔力を取り込むというのは、そういうリスクも伴うのだ。

 そうして魔力と共に穢れを取り込んでいった結果、自分の心の奥に眠っていた強欲が目を覚まし、善良だったはずの性格が変わってしまった。

 清廉な神官だったゴーチエが、穢れを取り込み続けて道を踏み外したのと同じように。


 もしかしたら、モルドレッドも最初は至極真面目な宰相かつ王室付き魔術師だったのかもしれない。

 真面目故に、魔術師として高みを目指すために魔晶の魔力を取り込む事を繰り返し、知らず知らずのうちに穢れに魂が染まってしまったのかもしれない。


 私は噴出している魔力を観察した。

 見る限り、破滅魔術の効果は既に切れているようだ。

 今はただ、身体に取り込んだ魔晶の魔力が暴走している状態らしい。モルドレッドがどの程度正気を保っているかもわからない。


「……っ!」


 嫌な予感がして身を引いた直後、私がいた場所目掛けて、赤い光が一閃した。

 縦穴から伸びて来たそれは、間違いなくモルドレッドが放ったもの。


「……殺す」


 呻くような声と共に、モルドレッドが穴から飛び出してきた。

 目は血走り、額には青く血管が浮いている。


「殺す、コロス、殺す、ころす、殺す」


 それだけを繰り返し、ぎょろぎょろとした目をこちらに向ける。

 魔力に飲まれて完全に自我を失っているようだ。


 私は思わず溜め息を吐いた。


「やれるもんならやってみなさいよ」


 吐き捨てて、私は虚空を蹴る。

 一瞬でモルドレッドの懐に入り込み、思い切り魔力を込めた拳を彼の腹に叩き込んだ。


 同時に、彼が地平線まで吹っ飛んでしまわないように、彼の背後に風の壁を創り出す。それにより、拳の威力が逃げることなくその身体に叩きつけられた。


「かはっ!」


 モルドレッドの口から血が零れる。膨大な魔力で多少は身体も強化されていたようだが、そもそもは魔物でもなくただの人間なのだ。無理もない。


 私はそのまま、彼に右手を掲げる。


浄化魔術プルガティオ!」


 左手の中にある強い魔力を、そのまま体を通して右手から放出する。

 最大出力の浄化魔術をモルドレッドへ叩きつけると、彼は絶叫して完全に意識を失った。


 そのまま墜落しそうになったのを、もう一度風壁魔術を使って受け止め、坑道入口前の地面に下ろす。

 束縛魔術を施し、身動きと魔力を封じたところで、クロヴィスが駆け付けてきた。


「やったか!」

「ええ。問題ないわ。今魔力も封印して……っ!」


 言いかけて、息を呑む。

 クロヴィスも同様に、顔色を変えて背後を振り返った。


 そこには、あの黒い靄を纏った診療所の医者が立っていた。


「……何だ、この気配……」

「魔物よ……間違いないわ」


 診療所で彼に触れられた瞬間に確信している。

 それでも、彼が私に敵意も殺意も見せなかったからこそ、その場では何もせずに診療所を後にしたのだ。


 初老の男は、診察の時と同じ穏やかな笑みを浮かべて私達を見ている。


 しかし、その目の奥には、あの昏い光が炯々としている。


「……おやおや、どうしたんです? その男性は何故倒れているのですか?」


 男の言葉に、体温が下がるような、血の気が引くような心地がする。


「具合が悪いのならば、休ませないといけませんね」


 一歩ずつ、ゆっくりと男はこちらに近付いてくる。


「近づかないで!」


 咄嗟に強い口調で言い放つと、男は心外そうに眉を上げた。


「どうしてです? 私は医者ですよ?」

「気配と目を見ればわかるわ。貴方は魔物でしょう?」


 ズバリ言うと、男はくつくつと笑い出した。


「どうやら甘く見過ぎでいたようですね」


 男が片手で顔を覆い、そして次に顔を上げた瞬間、その様相は変わっていた。


 褐色だった髪は黒く、くすんだグレーの瞳は血を吸ったような緋色に、そして、初老の男に見えていた姿は二十歳前後の青年になっていた。

 目の下には真っ黒なクマができているが、それでもクロヴィスとはまた違った、見る者を圧倒する人外の美貌を有している。


「それが本性か」


 クロヴィスも警戒した様子で目を眇めている。


 男は、鋭い犬歯が覗く口元に、凄絶な笑みを浮かべた。

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