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陸:坑道

 坑道は当然真っ暗なので、手元に明かりを灯す魔術を発動させた。


 足元を照らしつつ、先へ進む。

 この鉱山での採掘は、開始からそれなりに年月が経っているため、入口からしばらくは、かなり広く掘られているようだ。トロッコの線路もあり、大人が五人並んで歩いても余裕があるくらいには道幅も広い。


「……ん?」


 妙な気配を感じて足を止める。クロヴィスもほぼ同時に気が付いたようだ。


「来るぞ」


 直後、ぞろぞろと坑道の奥から人影が現れた。

 汚れた服装の彼らは、全員手にツルハシを持っている。鉱山夫だ。

 一様に目の焦点が合っていない。


 操られているのは明白だ。


「なんか……既視感が……」


 あの事件でゴーチエが男性神官達を操った操作魔術を思い出す。

 先程この鉱山に浄化魔術を掛けたというのに、その上で操られている状態のままであるという事は、おそらく同種の魔術だろう。


「……戦闘経験が全く無い神官達よりは手強いんだろうけど……」


 何しろ相手は、日々の肉体労働で鍛えられた筋骨隆々の男共だ。

 鉱山夫には血気盛んな者も多いと聞く。喧嘩と言う戦闘慣れをしている者もいるだろう。


 私は溜め息を吐きつつも腰のベルトに忍ばせていた短剣を取り出した。

 あの事件の後、こっそり作っておいたのだ。


「……まぁ、私の敵じゃないわ」

「……ほどほどにしろよ」

「誰に言っているの?」


 私はふっと微笑んで、地を蹴った。


 ツルハシで襲い来る男共の単調な攻撃を、時には剣で受け止め、時には跳んで回避する。

 彼らの隙間を風のように擦り抜けるようにして進みながら、次々と剣の柄で男共のうなじを叩いていく。


 ものの数秒で、奥から出て来た男達は全員気を失って倒れた。


 彼らを坑道に放置する訳にはいかないので、浮遊魔術を使って軽く浮かせて坑道の外へ運び出す。

 浮遊魔術は飛翔魔術に比べて魔力消費が少なくて済み、その分あまり高く浮かせる事はできないが、大きく重たい荷物などを移動させるのに重宝する。


「……お見事」

「ありがとう。さ、進みましょう」


 若干呆れた様子のクロヴィスに、私は先へ進むよう促した。


 坑道はまるで迷路のように、いくつも枝分かれしている。クロヴィスが探知したモルドレッドの魔力を辿りながら進み、やがてあのローブ男の姿を捉えた。


「やっと追いついた。そろそろ観念しなさい!」


 私が声を掛けると、男は驚いた顔で振り返った。


「馬鹿な! あれだけの鉱山夫を……!」

「熟練の兵士や暗殺者達ならともかく、素人の男達を何人嗾けしかけたって私は倒せないわよ」


 ふんと鼻を鳴らすと、モルドレッドは忌々し気に舌打ちした。


 しかし、気を取り直したのか、にやりと嗤う。


「……まぁ良い。これさえあれば、私は無敵だ……!」


 男は手にしていた何かを頭上に掲げた。


「それは……!」


 男が手にしていたのは、人の頭くらいの大きさの紫色に鈍く光る石だった。


 魔鉱石の結晶、魔晶だ。


魔力吸収マジカエポテンティエフージオ!」


 モルドレッドが呪文を唱えた刹那、魔晶の持つ凝縮された強大な魔力が、全て彼に吸い込まれていった。


「……なんて事を……!」


 魔鉱石に含まれる魔力には個体差があるが、その結晶である魔晶は、総じて魔力の含有量が桁外れだ。

 有名な例え話で、卵くらいの大きさの魔晶で、並みの魔術師の三人分の魔力に匹敵すると言われている。


 それが、人間の頭ほどの大きさのある魔晶となれば、一体どれほどの魔力が含まれていたのか、想像を絶する。


 身の丈に合わない魔力を取り込めば、身体はそれに耐えられない。

 いくら一国の王室付き魔術師であったとしても、元々自分の身体に宿っていた魔力の十倍以上の魔力を外から一気に取り込んで、無事でいられる訳がない。


 過ぎた力は身を滅ぼす。


「あ、ああ、あああぁぁぁぁぁっ!」


 モルドレッドが、顔を両手で覆って絶叫する。


「一旦退こう! 爆散するかもしれないぞ!」


 クロヴィスが私の腕を掴む。

 応じて、来た道を戻ろうとした、その時だった。


破滅魔術ルイーナ!」


 唸るような声色の呪文が、坑道に響いた。


 それは、魔力が触れるもの全てを破壊する究極の攻撃魔術の呪文だ。

 一説によると、かつて最強と謳われた魔術師がその呪文で国一つを一瞬で滅ぼしたといわれている。


防御魔術ディフェンシオ!」


 ほぼ反射的に、私は唱えていた。私とクロヴィスを包み込むように魔力による防壁が織りなされたところへ、膨大な魔力の刃が、全てを斬り刻むように広がってぶつかってくる。


「……なんて魔力量と威力……!」


 魔力の出力を上げて防御魔術を維持しながら、私は歯噛みした。

 これだけの威力の破滅魔術を受け続けたら、私の魔力はすぐ枯渇してしまう。


 と、クロヴィスが私の腕を掴んだまま唱えた。


転移魔術メタスタージス!」


 一瞬で、鉱山の麓に移動した。


「……助かった……」


 思わず呟く。

 あれだけ高出力の防御魔術を展開し続けたまま転移魔術を発動させるのは不可能なので、クロヴィスがいなければ私はやられていただろう。


 そしてはっとする。ハルフェンは大丈夫だろうか。

 鉱山から魔物が出て来る事があれば知らせろと言っておいたので、鉱山の中にはいないはずだが、近くにいるのも危険だ。


 と、その時、私の耳に聞いた事のある声が響いた。


『アリス! 鉱山が……っ!』


 ハルフェンの声だ。指示通り鉱山を見張り、破滅魔術の影響が出始めたのを見て連絡をくれたらしい。

 

召喚魔術ヴォカーレ! ハルフェン・キャスト!」


 魔術で強制的に呼び戻すと、私の目の前に現れた彼は目をぱちくりとさせて辺りを見た。


「アリス! あれ? ここは……?」

「鉱山の近くは危険だから召喚魔術で呼び寄せたの」

「フィアンナはっ?」

「助けたわ。これ以上私と一緒にいたら危険だから家に帰らせた。貴方も、彼女の家を知っているなら一緒にいてあげて」

「ああ、わかった!」


 彼女の無事を聞いた彼はぱっと表情を明るくした。

 すぐに彼女の家があるらしい方へ駆け出そうとして、何か思い出したように私を振り返る。


「フィアンナを助けてくれてありがとう。これを受け取ってくれ」


 差し出された何かを受け取ると、それは七色にキラキラと光る魔鉱石の結晶、魔晶だった。

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