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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第三章 鉱山の町

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肆:謎の魔術師

 転移した先は、町長の屋敷とは反対の町外れだ。

 一瞬で景色が変わった事で、フィアンナは目を瞠った。 


「すごい……! 一瞬で外に……!」

「フィアンナ、あまり時間が無いの。何があったのか説明してくれる?」

「はい。ひと月くらい前から、鉱山で働く方々が、急に酒に酔ったような酩酊状態になるようになったんです。私が働く診療所の先生が調合した薬で回復したんですが、怪しいから原因がわかるまで採掘は中止すると、町長が言ったんです」


 うん、その辺はハルフェンから聞いたものと同じだ。

 私は頷いて先を促す。


「町長が手配した魔術師の方が、調査のために鉱山に入ったのですが、出て来なくて……それなのに、突然町長は採掘を再開すると言い出したんです。明らかにおかしなことなのに、誰もそれに反対しなくて……だから、聖女様に手紙を出したんです」

「なるほど。それで、どうして町長の屋敷に監禁されていたの?」

「見てしまったんです。鉱山に行ったきり戻って来ないと言われていた魔術師の方が、坑道の前に立って、何やら怪しげな呪文を唱えていたのを……慌てて戻ろうとしたんですけど、見つかってしまって……」

「怪しげな呪文ねぇ……鉱山に何か魔術を掛けたって事かしら」


 あの濃密な黒い靄は、その魔術師が発生させているものか。


 いずれにせよ、魔術師が何らかの悪意をもって町長を操ってるとみて良さそうだ。


「……ところで、診療所の医者は、昔からあんな感じ? 最近何か変わった様子とかはない?」

「え? ええ、先生はずっとお優しい方ですけど……最近、町の様子がおかしいからって、色々気に掛けている様子でしたし……」


 私の質問の意図が読めなかったらしいフィアンナは目を瞬く。


 医者の様子がずっと変わらないのだとすれば、魔物が本物の医者とすり替わっている可能性よりも、元々医者に化けて町に入り込んだ可能性の方が高い。


 魔術師と医者、グルだろうか。


 怪しい二人だが、私の直感は二人は無関係だと言っている。

 何の根拠もない、本当にただの勘だけど。


「……とにかく、鉱山をもう一度調べて……っ!」


 言いかけて、息を呑む。


 強い魔力の塊が、目の前に現れたからだ。


「……転移魔術が使えるくらいには、強いって事ね」


 警戒しつつ、フィアンナを背に庇う。

 突如現れたそれは、黒いローブを纏ったいかにも魔術師という風貌の男だった。


 年の頃は四十代半ば。褐色の髪に、枯れ枝のような細身の男だ。

 そのくすんだグレーの瞳には、案の定あの昏い光が宿っている。


 そして何より、まるで、ゴーチエの再来かと思ってしまう程、同種の黒い靄を漂わせている。


「……その娘を逃がしたのはお前だな……? 小癪な……」


 男が忌々し気に舌打ちする。


 と、その男の纏うローブの胸元の刺繍に、私は思わず眉を顰めた。

 黒い生地に金糸で施された刺繍は、双頭の馬を象った紋章。


「……その紋章はリベラグロ王国の……強いとは思ったけど、一国の王室付き魔術師とはね」


 私が呟くと、男はうっそりと嗤った。


「よくこの紋章に気が付いたな」

「最低限の地理情報は頭に入れてあるのよ」


 神殿に仕える神官見習いの時に、この世界の大まかな地形や、主だった王国の成り立ちなどを学ぶ。


 リベラグロ王国は、ファブリカティオ帝国の隣国だ。

 帝国には属しておらず、表立って戦争はしていないが、互いに牽制しあっている冷戦状態であり、敵国である事は間違いない。


 敵国の王族の紋章など、鉱山の町に住む者達が気が付かなくても無理はない。


「……敵国の魔術師が、鉱山の町で何を企んでいるの?」

「お前が知る必要はない」

「じゃあ質問を変えるわ。これは、リベラグロ王国王族の意思ということで良いのね? ファブリカティオ帝国に属するアビエテアグロ公国への侵略行為……れっきとした宣戦布告よ?」


 私がまっすぐに尋ねると、男は鼻を鳴らした。


「陛下は何もご存じない。全て私の独断だ! 私の力でこの鉱山を手に入れ、宰相の座を取り戻すのだ!」

「宰相? 貴方、リベラグロ王国の宰相だったの?」


 宰相とは、国王に次ぐ権力者だ。

 王室付き魔術師にして宰相とは、この男、かなり大物かもしれない。


「っ! 煩い! 小娘が、この私に楯突くとどうなるか、教えてくれるわ!」


 男が右手を突き出す。


「喰らえっ! 風刃魔術ヴェントスフェルム!」


 咄嗟に防御魔術を唱えるが、彼の放った魔術によって爆風が生じ、私の被っていたフードが外れてしまった。


「……お前、どこかで見た事が……?」


 私の顔を見た男が怪訝そうに首を傾げる。


 帝国外と言えど、王国の要人ともなれば、聖女が選定された時点で、魔術で聖女の顔を覗き見した可能性は高い。

 それだけ、聖女という存在は、帝国内外にとって大きなものなのだ。


「さぁね……」


 相手を捻じ伏せるのは簡単だが、油断すると背後にいるフィアンナが危ない。

 確実に相手を、殺さずに仕留めなければ。


 敵国の要人を、目撃者が極端に少ないこの状況で殺す訳にはいかない。

 相手に非があったとしても、それを証明する手立てを確保しておかなければ、戦争の火種になりかねないからだ。


 さて、どうしたものか。


 思案したのも束の間、男は再び右手を突き出した。


催眠魔術イプノージス!」


 眠らせる気か。

 まずい、魔術の無効化をしなければ。


 一瞬で思考が駆け巡る。

 次の瞬間だった。


 その場に魔法陣が顕現し、見覚えのある人物が目の前に現れたのだった。 

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