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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第三章 鉱山の町

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零:旅立ち

 私、聖女アリス・ロードスターは苦悩していた。


 ファブリカティオ帝国の皇太子であるクロヴィスとの婚約を検討してくれと、彼の父である皇帝陛下に頼まれてからまもなく一ヶ月が経とうとしている。


 つまり、結論を出さなくてはならない期日が目の前に迫っているということ。


 クロヴィスのことは嫌いではない。

 だからこそ、ひと月前にはっきり断らず、「もっと筋肉をつけてくれるか」と濁してしまった。


 だが、あの後冷静になって、やはり断るべきだと思い直した。


 前世が殺し屋だった私は、今回の人生を贖罪のための時間として、世界平和のために使うと決めている。

 折角聖女という、世界平和のために尽力しやすい立場にあるのに、皇太子妃になんてなれば、そのために動く事は少なからず難しくなる。


 それに、皇太子妃になるためには、皇妃教育を受ける必要がある。

 そもそも貴族でさえない私が皇太子妃になるためには、確実に教養が足りない。それを今から叩き込まれると思うと、正直ぞっとするし、そんな時間も惜しい。世界平和のためにできる事をするには、時間はどれだけあっても足りないのだ。


 マルセルが起こした事件の後、一度はクロヴィスと共に城に戻ったものの、数日後には神殿でマルセルの部屋から彼が隠していた魔具と呼ばれる魔力の籠った道具が複数見つかり、その解析と処分のために呼び戻された。

 その後何度かクロヴィスが訪ねてきたが、皇太子も多忙故に、あまりゆっくりと話す時間は取れていない。


 そして、そろそろ約束のひと月を迎える。

 期日を考えるとそろそろ神殿に向かって出発しなくてはならない。


 憂鬱な気持ちで、私は帝国から発行される新聞や国内で起きている事件の報告書を眺めていた。

 歴代の聖女は率先して事件に首を突っ込んだりはしなかったようだが、今の私の使命は世界平和だ。何か事件があれば解決に乗り出さなければならない。


 とはいえ、ちょっとした窃盗事件やら行方不明者の捜索などを一つ一つ対応していたら身体がいくつあっても足りはしない。目の前で事件が起きれば勿論解決に努めるが、自分から解決に乗り出すのならば、浄化魔術が必要というような私でしか解決できないような事件が優先だ。


「うーん? 北方の街道で魔物出現による通行止め、隣国の大臣が行方不明、王都で窃盗事件……」


 私が出向かなければ解決できないような事件はなさそうだ。

 魔物も、上級クラスならば私も出向くが、新聞によると中級クラスで、既に討伐隊が組織されたらしいので、私が出る幕もないだろう。


 と、神官見習いから私専属の侍女になったメルが困り顔で手紙を一通持ってきた。


「聖女様、こんなお手紙が届いたのですが……」


 まさか皇太子からか、と身構えたが、彼女が手にしている封筒の紙質が明らかに低級の物だったので、一目で違うとわかった。

 内心ちょっとほっとしてそれを受け取り、手紙を取り出す。


 丁寧な字で、こう綴られていた。


『聖女様

 突然手紙を書く無礼をお許しください。

 私はアビエテアグロ公国のアテンザ伯爵領に住むフィアンナ・タントと申します。

 少し前から村の様子がおかしくなってしまいました。どうか村をお救いください。

 フィアンナ・タント』


 村の様子がおかしくなった、とは。

 具体的な事は何も書かれていない。


 聖女は基本的に多忙だ。

 神殿にいるうちは毎日礼拝に参加して、神殿を訪れる民衆の浄化を行っている。

 何か変だから来てくれと言われて、ほいほい行く程暇ではない。


 しかし、何か嫌な予感がした。

 完全に直感だが、これを放置してはいけない気がする。


 手紙を読んで眉を寄せた私に、メルが不安そうに首を傾げる。


「聖女様?」


 私は手紙を封筒に戻すと、それを懐にしまった。

 戸棚から紙とペンを出して、そこにある事を書き込む。


「メル、ちょっと外出してくる。私がいない間に皇太子が訪ねてきたら、この手紙を渡してね」


 書いた手紙を封筒に入れ、メルに預けると、私は急いで支度を始めた。


「え、聖女様、どちらへ?」

「うーん、行き先伝えていくと、アイツが聞きつけてついて来かねないからあんまり言いたくないんだよね」

「えっ、しかし、行き先を聞かずに送り出す訳には……」


 戸惑うメルに、私は妙案を思いついた。

 もう一枚手紙をしたため、封筒に入れて呪文を唱える。


 私に危害が加えられた場合に解除される封印魔術だ。

 魔術師が自身の遺言書などを残す際などによく使われる魔術の応用である。


「私に何かあったらこの手紙が開封されるから、そうしたら転移魔術が使える誰かに助けを求めて」


 手紙には、フィアンナという女性からの手紙を元にアビエテアグロ公国のアテンザ伯爵領に行く旨を書いておいた。

 万が一私が怪我をしたり、自分の意思で眠る以外に意識を失うなどした場合にのみ、封が切られる仕組みだ。


「……って訳だから、よろしくね!」


 言うが早いか、私は窓枠に足をかけ、飛翔魔術を唱えて空へと舞い上がった。

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