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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第二章 忍び寄る悪意

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捌:犯人

 サラマンダーのような巨大な魔物が現れたら、神殿に入り込む前に町で騒ぎになるはずなのに、それもなく突然ここへ現れた。


 更に、私が張った神殿の結界は破られていない。


 この状況から鑑みて、外から侵入してきたのではなく、中から招き入れられたのだと考えるのが妥当だ。


「……ん?」


 ふと、この場にないはずの気配を僅かに感じ取って、私は視線を滑らせた。


「どうした?」


 立ち上がりながら尋ねるクロヴィスに、声を潜めて答える。


「……気配がしたの……トリスタンの魔力の」

「トリスタン? アイツなら俺の部下が見張っている。何かあれば俺に知らせが来るはずだ」


 他の神官に聞こえないように、クロヴィスもまた小声で返してくる。


 彼の部下というからには信用できる人物なのだろうが、今この状況で、この場にいないトリスタンの魔力を感じ取った以上、彼が無関係とは思えない。

 

「……でも誰かが喚ばない限り、結界を破らずに神殿内に魔物が入るなんて不可能よ。そしてここでトリスタンの魔力を感知した事実……疑っておいた方が良いわ。でも、まだ誰にも言ってはダメ」


 言いながら、私はリュカとマルセルの元へ駆け寄った。


「大丈夫?」

「ええ、マルセルも先程気が付きました」


 リュカの手を借りて身を起こしたマルセルが強打した背中が痛む様子だったので、私は治癒魔術を施した。


「ありがとうございます、聖女様」

「良いのよ。それより、サラマンダーが現れた時の事を話してくれる?」


 二人に尋ねると、彼らは顔を見合わせて、リュカから口を開いた。


「はい。神官長の部屋から自室に戻るところで、突然魔物の気配を感じたのでここへ来たら、マルセルがサラマンダーと対峙していました」

「僕はちょっと図書室で調べ物をしていて、遅くなってしまったので急いで部屋に戻ろうとしていたのですが、大聖堂の前を通りがかった時に、突然光が集まって、サラマンダーが現れたんです。リュカが駆け付けてくれなかったら、僕一人ではやられていたでしょう」


 やはり、外から侵入してきたのではなく、召喚されたのだろう。

 だとすると、神殿内にいる人物が怪しい。


 何故なら、召喚魔術は原則として召喚対象を召喚者の元に喚び出すものだからだ。

 術者から離れた場所に対象を呼び寄せる事も不可能ではないが、その距離に比例して凄まじい量の魔力を消費する。神殿との距離を考えたら、城にいるはずのトリスタンが神殿にサラマンダーを召喚する事は不可能だろう。


 彼が監視の目を掻い潜って神殿に転移してきていれば話は変わってくるが、そもそも彼が転移魔術や召喚魔術を使えるとは聞いたことがない。

 

 転移魔術を扱えるようなレベルの魔術師も、上級クラスの魔物であるサラマンダーを召喚できる魔術師もそういない。

 少なくとも、私が知っている中では、今神殿に在籍している者の中で転移魔術を扱えるのは私とジャンしかいない。サラマンダーの召喚となるとジャンでもできるかどうかだ。


 まぁ、トリスタンが習得している魔術について隠している可能性がないとは言えないが。


「……サラマンダーの召喚経路について、調べた方が良さそうね」


 サラマンダーは凍らせて粉砕させてしまったが、あの強大な魔力の残滓は消えていない。

 今なら追えるかもしれない。


 私が探知魔術を行使しようとした時、私の呟きを聞き取ったらしいマルセルが驚いた様子で目を瞬いた。


「サラマンダーを召喚なんて、一体誰が?」

「それを調べるのよ。少なくとも、私の張った結界は破られていない。中から招き入れられた可能性が高いわ」

「じゃあ、誰かが神殿内に侵入して、召喚魔術を……?」


 言われて、はっとする。


 神殿に張った結界の機能は、魔物の侵入の阻止と、私が許可していない人物が転移魔術で入り込む事を拒否するというもの。


 神殿の大聖堂には、日常的に参拝者が集まる。

 彼らを結界で弾く訳にはいかないので、神殿の正面玄関のみ人間が通過できるように調整してある。


 その代わりに、罠魔術を応用して、正面玄関を通ったものに魔術を封じる魔術が掛かるようにしてある。正面玄関を通って出ればその魔術は解除される仕組みになっているので、魔術が使える者であっても、普通に入って普通に出れば問題はない。

 この魔術を掛けた事を知っているのは神官長であるジャンのみだ。特に理由があって伏せていた訳ではないが、ジャンが同席する中で結界を張ったついでにさらっと掛けた魔術だったので、仕掛けた事自体を忘れていた。


 正面玄関の方に視線を送る。その魔術が破られている様子はない。

 つまり、今神殿の中にいて、魔術が使えるのは、その術式の対象外となっている神官以上の者のみ。


 神官見習いは、魔術の暴走事故を防ぐために、神官が同席する魔術の授業中のみ魔術の使用が許されるようになっている。


 つまり、サラマンダー召喚の容疑者は神官以上の九名のうち、城にいるはずのジルベルトとクラリスとトリスタンを除き、六名。

 更に、サラマンダーが現れた時、私にぶっ飛ばされて気を失っていたロジェも除外して、ジャン、ガスパル、アネット、リュカ、マルセルの五名。


「じゃあ、神官長を呪った犯人が、サラマンダーの召喚を行ったという事ですか?」


 マルセルが続けざまに尋ねてきた内容に違和感を覚えて、リュカを見る。

 彼も私と同様の事を考えたらしく、一度僅かに目を伏せ、それからマルセルを見据えた。


「マルセル、神官長が呪われたなんて、誰が言ったんだ?」


 リュカが静かに問う。

 マルセルは露骨にしまったと顔に出した。


 そう、元々神官長が倒れた事はリュカしか知らなかった。

 大神官のガスパルでさえ、私から聞いて初めて知り、その上で神官長は疲労で倒れたと思っているのだ。


 それなのに、マルセルは神官長が呪われたと知っていた。

 倒れた原因が呪いだと知っているのは、私とジャン本人、リュカ、クロヴィスの他は、呪った張本人だけのはずなのに。


「……あーあ。僕も迂闊だね。自分が情けないや」


 マルセルは頭を掻きながら立ち上がった。


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