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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十八章 東端の調査

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零:調査隊の編成

 二十四年前に持ち出された禁書の行方を追った結果、プレアデス聖王国の東側に未知の土地があるということが判明した。

 禁書の行方の鍵を握る人物の気配をオロチが探知魔術で探った結果、そこが視えたと言うのだ。


 ただの魔物だった時に大陸中を移動して回っていたというオロチも、聖王国の東側には足を運んだことがないらしい。


 未開の地の調査を行うためには、調査隊を編成することになる。

 大隊を率いて行くべきか、少数精鋭で行くべきか。まずはその検討からだが、あまり大人数でいくといざという時に私が守りきれなくなってしまう。

 それに、聖王国の領土を通って行けないため、空路か海路でいくことになる。の地が船がつけられる地形であるかがわからない以上、空路で行くのが確実。となると、調査隊の全員が飛翔魔術を使える必要がある。

 飛翔魔術が使える程の魔術師となると、かなり絞られてくる。必然的に少数精鋭になるだろう。


 いずれにしても、帝国の領土外でもある場所へ行くことになるので、私たちの一存では決められない。

 そのため、まずは皇帝陛下に事情の説明と相談のために、クロヴィスと一緒に謁見した。

 と、調査団の編成の話題になったところで、陛下が苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「父上?」

「……ああ、すまない。実は、魔術師団長のリヒターから辞意を表明されていてな……魔術師団は次期団長選出で大騒ぎになっているんだ」

「ええ……」


 リヒターの娘であるリリアナが暗鬱魔術をかけられ、城の中に魔物を召喚する魔具を仕掛けてしまったのは事実だが、魔術師とはいえまだ学生であるリリアナにはそれを防ぐ手立てはなかった。

 確かに、彼が娘の様子に気が付いていれば、防げたことかもしれないが、リリアナは基本的に寮生活だったし、魔術師団長は基本的に多忙で、城に寝泊まりすることも少なくない。

 それで彼に責任を追及するのは理不尽だと思う。


 少なくとも、魔術師団長の職を辞するほどではないと、私は思うし、寧ろこれを教訓として同じことが起きないように対策をしっかりしてほしい。


 とはいえ、リヒターは真面目な男だ。その性格故に、自分が許せないのだろうな。

 だが、そうなると、弟が魔物召喚の魔具をさらに設置した宰相のシャルフも、辞意を表明することになるだろう。

 同じく身内が利用された状態の魔術師団長が辞意を表明したのに宰相がその椅子に座り続けたのでは、周囲からの風当たりが強くなってしまうだろうから。


 内政の混乱は必至だな。

 そんな時に皇太子と聖女が国を離れるのもどうかと思うが、皇帝は変わらず政務に就いているし、他にも優秀な大臣たちはいる。そこまで心配はいらないだろう。

 寧ろ、禁書の手がかりを得たのに放置しておく方が危険だ。


「……そもそも、その未開の地へ赴くに当たり、大所帯で行くのはあまり好ましくないのではないか?」

「はい。あまり大隊ですと有事の際に私が守りきれません……なので、少数精鋭で六名ほどを考えています」

「魔術師六人、か……」


 ふむ、と頷く陛下。

 

 六人であれば、三組にも二組にも分けられるし、いざという時に全員まとめて転移魔術で帝国領土内まで帰って来られる。

 そこにオロチとガリューが加われば戦闘力も申し分なくなる。


 そんな私の意図を、陛下は正確に汲み取ってくれたようだ。


「はい。私とクロヴィス、あとは神官から二名、魔術師団から二名、と考えていたのですが……」


 魔術師団はそれどころではない、となると神官から四名選ぶか。

 と、私の脳裏に適役が浮かんだ。


「……あ、ラシェルは?」

「ラシェル? ああ、夜会でオスカーが連れてきた娘だな……」


 陛下は何か思い出した様子で頷き、私を見た。


「私の目から見ても、彼女はかなり強い魔力を有していたが……アリスはどう思う?」

「とても強いです。魔力の強さだけじゃなく、戦闘力も申し分ありません。しかも、探知魔術の精度だけで言ったら私やクロヴィスよりも上です」

「ほぉ……」


 陛下が感心した風情で顔を上げる。


「ただ、彼女はまだ学生です。あまり危険なことに巻き込むのは……」

「実力は申し分ないが、立場が、ということだな」


 流石は聡明な皇帝、話が早い。


「まずは本人の意思を確認しよう。嫌だと言うなら、無理強いはできん」

「はい」

「……父上、ラシェルに行かせるとなると、オスカーが黙っていないと思いますが」


 それは同感だ。先日の様子では、オスカーは相当ラシェルを気に入っているようだった。

 いくらラシェルが強いとしても、彼は彼女を連れて未開の地へ調査へ出向くことを快くは思わないだろうな。


「それもそうだな。まぁ、そうなったらオスカーも同行させるか。未開の地の調査となれば、いい経験になるだろう」


 オスカーもまた、ダイス貴族学校の魔術専科において優秀な成績を修めているらしいし、下手な魔術師を連れて行くよりはいいかもしれない。

 皇位継承権を持つ皇族二人を同時に調査隊に加え、国外に出してしまうのはどうかと思うが、他に適任者がいないのもまた事実。


「とにかく、オスカーに手紙を出して、ラシェルを連れて登城するよう伝えましょう」


 クロヴィスがそう言い、皇帝陛下が頷く。

 

 呼び出されたオスカーは翌日、ラシェルを伴って登城して来たのだった。

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