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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十六章 イアスピスの風習

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拾:改革

 エルミードが王族への傷害未遂で逮捕され、ディグニティ家も直系親族全員が懲罰対象となり、イアスピスの二大公爵家からほぼ同時に同じ罪状で逮捕者が出たことで、当然イアスピス国内は大騒ぎになった。


 そして、アダムスの意向で、その一連の騒動が収まるまで私とクロヴィスはイアスピスに滞在することになった。


 王位継承権を有していない貴族や平民は『国王選定のための特別な儀式がある』ということだけしか知らず、儀式の詳細は知らされていなかったが、今回の件でアダムスが公表し、その血塗られた風習を自分の代で廃絶することを宣言した。

 儀式の名前は残すが、戦闘は行わず魔力量と魔術の精度を比較し、その結果のみで決めるのではなく、他の王位継承を有する者たち半数以上からの承認を得なければ王にはなれない、という内容に変更することにしたのだ。


 元々アダムスの即位に懐疑的だった貴族の中には、彼が古くからあるしきたりを突然変更することに渋い顔をする者もいたが、そのしきたりによって王位継承権を失い、権力を求める化け物になってしまったのがドレファスであるという事実を突きつけられ、最終的に異を唱える者はいなくなった。


 まぁ、貴族が異を唱え続けたとしても、国王であるアダムスが押し通せばそれで終わりなのだけど、そうすればアダムスは一瞬で独裁者と断じられかねない。それは本意ではないので、きちんと説明して認めてもらうことに意味があるのだ。


 私とクロヴィスは彼の後ろ盾として、彼が議会で重鎮貴族たちを説得する様子を見守った。


「……他に異議のある者は?」


 城の大会議室で、百名近い貴族の当主が集められ、壇上に立ったアダムスが問いかけると、一人がすっと手を挙げた。


「王位継承についての儀式の内容変更については異論はございません。ただ、帝国の配下に下ったことについて、その理由を明確に教えていただきたいのですが、よろしいでしょうか」


 はっきりとした口調で尋ねたのは、焦げ茶色の髪にダークグレーの瞳の見たところ五十歳前後の男性。座席の位置からして高位貴族であると悟る。


 と、私と隣に座るノエリアが、彼はイアスピスでも屈指の有力貴族、ストラーダ伯爵であると教えてくれた。

 イアスピスの爵位体制は帝国と異なり、公爵、伯爵、男爵、騎士爵の四段階しかない。

 公爵家がプラウディアとディグニティの二家しかないため、伯爵家は貴族の中ではかなり上層である。


 ノエリア曰く、彼は実直で真面目、領民からの信頼も厚い誠実な人物らしいが、愛国心も人一倍強いらしく、帝国の配下に下る際には猛反対していたらしい。


 アダムスは小さく嘆息してから答えた。


「大きな理由は、先王ノーラの愚行のせいとしか言いようがない。ノーラが三国同盟に参加し、帝国の皇太子クロヴィス殿下に魅了魔術をかけて、聖女アリス様に代わって皇太子妃になろうなどと企まなければ、イアスピスは今も独立国家としていられただろう」


 ストラーダは小さく「え」と呟いた。その表情から察するに、どうやらノーラのしでかしたことについて、初めて聞いたらしい。


 アダムスは淡々と続けた。


「結果、魅了魔術は失敗し、ノーラはその場で捕らえられた。帝国はイアスピスからの宣戦布告と見なし、その時点で、開戦前にイアスピスの敗北は決まってしまった」


 つまり、アダムスや他の王族がそれを聞いた時点で、既に道はなかったのだ。


 イアスピスは独立国家として長い歴史を持つが、それはロレンマグナとトリブスに隔てられていて、帝国から直接侵攻されることがなかったからだ。

 近代の皇帝たちが他国へ積極的に侵攻しなかったのも大きい。

 決して、イアスピスが帝国と同等の武力を有しているからではない。


「……あの状況で、帝国に対して戦争をする余力があるはずもない。あの時点で降伏していなければ、今頃帝国軍にイアスピス全土は占拠されていただろう……配下に下っても国の名を残し、ノーラ以外の王族もそのまま生かしてくれた皇帝陛下の温情に、私は心から感謝している」


 アダムスの言葉を受けて、ストラーダは「ご説明、ありがとうございました」と素直に礼を述べて着席した。


「……帝国の配下に下ったことに、思うことがある者も少なくはないだろう。だが、あの時点ではそうするしかない状態だった。その事態を招いたノーラのような、王の器として相応しくない者が王になることを防ぐためにも、《継聖の儀》《選聖の儀》の内容の変更が不可欠であるというのが私の見解なのだ」


 そう締め括られてしまっては、皆反論の言葉を呑み込むほかなかった。


「それに、帝国の配下入りも悪いことばかりではない。帝国の聖女アリス様は、とても素晴らしい御方だ。三国同盟事件の後、それよりも前の大嵐で壊滅的な被害を受けていたトリブスの田舎町へ、聖女様自ら物資を届け、病気や怪我人の治療に当たられたのだから」


 トリブスを襲った大嵐の噂はイアスピスにも届いていたらしい。帝国にも届いていたのだから当然か。

 その話を聞いた貴族たちが、揃って私を振り返った。なんだか妙に居心地が悪い。


「それはまさしく聖女の所業……!」

「いやしかし、名を挙げるための偽善かもしれんぞ」

「偽善であっても、平民を救うための行動なら良いだろう」


 こそこそと聞こえてくるのは私に対する素直な賞賛と、懐疑的な声。


 まぁ、予想通りであるし、その疑問は尤もだ。


 と、アダムスは更に言い募った。


「加えて、アリス様は途轍もなく強い。ここにいる魔術を扱える者が全員束になってかかっても、傷一つ付けられないだろう」

「聖女が、強い……?」

「帝国の聖女って、確か浄化魔術って特殊な魔術を使える神官のことだろう? 神官が戦うなんて聞いたことがないぞ」


 意味がわからない、と露骨に怪訝な顔をする貴族たちに、アダムスが私に視線を送ってきた。


「本当よ。ここにいる貴族全員が剣を持って襲いかかって来たとしても、魔術を使わずに全員倒せるわ」


 この中に、魔術をまともに使えそうな者がいないのは一目でわかった。かろうじて魔力を有している者は数名いるが、神官見習いと同等かそれ以下だ。

 そして、体つきを見ればどの程度の戦闘力かはわかる。ここの貴族たちは、ほとんどが剣など握ったことのない文官ばかりだ。

 一部、騎士爵の家と思われる体格の良い者がいるが、それでも私の敵ではない。


 と、私の思考を読み取ったのか、不愉快そうな顔をした青年が手を挙げた。


「そんな少女と変わらん年頃の女性に、私が負けるはずがない。どうか、手合わせ願いたい」


 当然の反応である。

 まぁ、鍛錬を積んできた騎士からしたら、ぽっと出の聖女が自分より強いと言っていたらそりゃあ面白くないよな。


「勿論、良いわよ。アダムス陛下、闘技場、お借りできるかしら?」


 私が自信満々にアダムスを振り返る。彼は微笑んで頷いた。

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