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陸:婚約者

 驚いて振り返り、ロジェがひっと息を呑んだ。


 そこには、鬼の形相をしたクロヴィスが立っていたのだ。


「ク、クロヴィス皇太子殿下っ?」

「その汚い手を放せ」


 彼は私を背後から抱き締めているロジェを見て、剣を鞘から抜いた。

 完全に目が据わっている。


 身の危険を感じたロジェがぱっと手を放して両手を挙げる。


「アリスが俺の婚約者だとは知っているよな?」

「え、ええ勿論です!」

「俺の婚約者に手を出した事、万死に値するぞ」

「えええ! そんなっ! こんな時間に男の部屋を訪ねてきたのは聖女様の方ですよ!」


 ロジェが情けなく半泣きになりながら訴える。

 しかしその言い訳は流石に聞き捨てならない。


「私はこの部屋を調べに来ただけだと言ったでしょう? 何を勘違いしたのか知らないけど、私のせいにしないでくれる? でも良かったわね。あのままだったら、私にぶちのめされてたけど、多分クロヴィス殿下の方が優しい処罰を下してくれるわ」


 にっこりと笑ってやると、ロジェは青褪めてクロヴィスを振り返った。

 そして氷のような目で睨まれ、萎縮しきって私の足元に平伏ひれふした。


「ひぃ……! ごめんなさいごめんなさい申し訳ございません!」

「そんなに謝るくらいなら選ばせてあげるわ。私に殴られるか、殿下に斬られるか、どっちが良い?」

「聖女様! 私をお殴りください! どうか! ご無礼を働いた私に罰を!」


 間髪入れず私からの制裁を希望して来たので、私はクロヴィスを一瞥した後、ぎゅっと拳を握り締めた。


「よし。歯を食いしばりなさい」


 その直後、拳を振るうと、ごん、と鈍い音がしてロジェが吹っ飛び、壁に激突した。

 衝撃で気を失ったらしく、かくんと項垂れて動かなくなる。

 

「……殿下に斬られた方が軽傷で済んだかもしれないのにね」


 ふふっと笑いながら手をはたくと、少々呆れ顔のクロヴィスが溜め息を吐いた。


「……ったく。心配して来てみれば、こんな時間に女好きで有名な神官の部屋に一人で乗り込むなんて、何を考えているんだ」

「だって、ジャンの呪いの痕跡を辿ったらこの部屋が視えたんだもの。うかうかしていたら証拠隠滅されると思って……それに、ロジェが相手ならちょっと色仕掛けしたらあっさり白状するんじゃないかなって」

「色仕掛け?」


 ぴくり、とクロヴィスの眉が動く。


「それに、万が一襲われても私は大丈夫よ。私の強さは知っているでしょう?」

「そういう問題じゃない!」


 大声を出されて、少し驚く。

 クロヴィスは不貞腐れたように唇をへの字に曲げ、苛立った様子で私を抱き寄せた。


「心臓が止まるかと思ったぞ。俺の心臓がな!」

「で、殿下?」

「クロヴィスだ。敬称はやめろ」


 私の肩に顔をうずめて不満そうに呟く。

 先程ロジェに背後から抱き締められた時は何も感じなかったのに、クロヴィスに抱き締められた瞬間、鼓動が大きく跳ねた。


「クロヴィス、は、放して……」


 本当に自分の口から出たとは思えない程に消え入りそうな声で呟くと、彼はようやく腕の力を緩めてくれた。


「忘れるなよ。お前は俺の婚約者だ。 二度と、他の男に触らせるなよ!」

「……勝手に婚約者にしたくせに……」


 照れ隠しにぼそっと呟くと、その件については罪悪感があるらしく、彼はぐっと言葉を呑み込んだ。

 その様子がおかしくて、私は不覚にも少し笑ってしまった。


「……わかった。気を付ける」


 私がそう応じた事で、クロヴィスも満足そうに頷いた。

 

 そして壁際で伸びているロジェを振り返る。


「……で、ジャンを呪ったのはコイツだったのか?」

「ううん。多分違う。この部屋にあの黒い靄の気配は一切感じないし……」


 呪いをかけた人物が、攪乱のために黒い靄をジャンの部屋の真下であるロジェの部屋を経由させた可能性も否めない。


 そんな事ができる人物が、この国にいるだろうか。


 ゴーチエはあの事件で右腕を失い、魔力も封印された上で投獄された。

 彼がこの件に関わっている可能性は皆無とみて良い。


 他に、動機があって、ジャンを呪うだけの力がある人物。

 思考をフル回転させるが、全く見当も付かない。

 

 と、その時だった。


 凄まじい魔力の圧を察知した直後、耳をつんざくような咆哮が響き渡った。


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