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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十六章 イアスピスの風習

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伍:報せ

 執務室に飛び込んで来たのは、初老の男性だった。

 服装からして、家臣だろう。


「ノエリア殿下! 大変でございます! アダムス陛下が……! アダムス陛下が、ご遺体で見つかりました……!」

「何ですってっ?」


 ノエリアは引き攣った声を上げ、ふらりと倒れそうになった。

 それを私が咄嗟に支え、椅子に座らせる。

 

 私とクロヴィスは顔を見合わせ、それから家臣を振り返った。


「それは確かですか?」


 私が尋ねると、家臣の男は小さく頷き、震える唇で言葉を紡ぎ出す。


「先程、城下町の教会の裏で、誰かが倒れていると通報があり、衛兵が向かったところ、そこに遺体が……身なりと、王の証である短剣を所持していたので、アダムス陛下ではないかと、報告が……!」


 動揺している。演技ではなさそうだ。


 と、そこへ先程別室へ案内されたはずのドレファスが戻って来た。


「なんと! アダムスが死んだとは……! これはいけない! 民を不安がらせないためにも、早急さっきゅうに次の国王を選出せねば! すぐに《選聖の儀》の準備をしろ!」


 わざとらしく言い、ドレファスはノエリアを見てにやりと笑った。

 しかし、兄が死んだと聞かされて憔悴している彼女はそれに気付かない。


 私とクロヴィスは視線を交わし、ノエリアを伴ってドレファスの後ろについていく。

 きっと、既に準備を整えているはずだ。


 案の定、彼の娘であるマヌエラも、子供を連れてすぐに登城してきた。先程アダムスの死を聞いたにしては、あまりに早い。


 私とクロヴィスを邪魔くさそうに見ていたドレファスだが、流石に帝国の皇太子と皇太子妃であり聖女である私を無碍にはできず、退出を促してきたりはしなかった。


 そして現時点で王位継承権を持つ九名を広間に集めたドレファスは、偉そうに言い放った。


「誠に残念ながら、アダムス陛下が何者かに襲われて死んだ! よって、これより《選聖の儀》を執り行う!」


 その言葉に、集められた面々は驚いた顔をする。


「……ドレファス殿、今何と?」


 クロヴィスが聞き返すと、ドレファスは眉を上げた。


「聞こえなかったのですかな? アダムス陛下が何者かに暗殺されたと……貴方は先程、家臣の報告も聞かれていたはずですが?」

「ああ、聞いていた。アダムス王が遺体で見つかったと……でも、何者かに襲われたとは聞いていない。その報告を聞いて、俺はてっきり事故死だろうと思っていたのだが……」


 わざとらしく言ってのけるクロヴィスに、ドレファスは露骨に「しまった」という顔をした。

 おいおい、人を陥れるならもう少し上手くやりなさいよ。


「……ってことは?」

「ドレファス公が陛下を暗殺したってことか?」

「いくらなんでも流石にそれは……」


 後ろでコソコソ話しているのは、アダムスより少し若い青年二人。おそらく先王弟の息子たちだろう。


「お父様……?」


 一番間近で父を心配そうに見るマヌエラ。彼女は父親が国王を暗殺したとは流石に思っていないのか。

 それとも、こんなに早く自体が露見した父親の詰めの甘さを憂いているのか。


「ドレファス殿、詳しく話を聞かせてくれるかしら?」


 私が彼をじっと見据えると、ドレファスは射竦められたように小さく息を呑んだ。


「し、知らん! 皇太子殿下が家臣の説明を聞いて勝手に事故死と思われたように、儂には暗殺されたと思えただけだっ! 他意はないっ!」


 慌てた様子で取り繕うドレファス。

 既にぼろは出ているが、少し泳がせるか。


「……いずれにしても、アダムス陛下が亡くなられたのが確かであるならば、《選聖の儀》とやらで次期国王を選出するのが習わしです……私が聞いた報告では、その遺体が本当に陛下なのかどうかについては現在調査中とのことですが、纏っていた服装と所持していた短剣に王の紋章があったことでアダムス陛下である可能性が高いとみられています……調査の結果は当然待ちますが、次期国王の選出も急いだ方が良いでしょう」


 口を挟んだのはセルヴァンだ。


 《選聖の儀》を行うという提案の助け船に、これ幸いとばかりに、ドレファスが頷く。


「その通りだ! セルヴァン! それで、《選聖の儀》に名を上げる者は……」


 ドレファスは部屋を見渡す。皆顔を見合わせて様子を窺っているが、マヌエラがすっと手を挙げた。


「では私が」

「それなら私も」


 セルヴァンも名乗りを上げる。

 すると、後ろにいた先王弟の息子と思われる二人と、マヌエラの子供とみられる二人の少年が手を挙げる。


 計六人、予想通りだ。


 今度は私がそっと手を挙げた。


「失礼。《選聖の儀》とは、どんな儀式か、説明してもらえる?」


 現時点で、私とクロヴィスが昨日アダムスとセルヴァンに接触したことは誰も知らない。

 つまり、《継聖の儀》も《選聖の儀》も、知っているのは不自然だ。


 私の問いに、セルヴァンが口を開いた。


「国王が急死した場合に執り行われる儀式、といいますか、王位継承権を持ち、王位を求める者同士が戦って、次期国王を決める制度です」

「候補者が三人以上いる場合はどのように選定を?」

「城の地下に作られた闘技場で、全員が同時に戦うことになります。最後まで立っていた者が勝者、つまり次期国王です」

「最後まで立っていた者、つまり相手を殺したら勝ちということ?」

「ええ、そうなります」

「……つまり、場合によっては、王位継承権を持つ者が不在になる可能性があるということね?」


 例えば、《選聖の儀》に、その時点で王位継承権を持つ者全員が参加した場合、勝敗が決した時点で勝者以外は死亡、王位継承権を持つ者はいなくなる。新国王が子を成せなければ、王家の血筋は途絶えてしまうのではないか。


「ええ。そのため、原則《選聖の儀》に参加できるのは、王位継承権を持つ者の総数の七割までとされています」

「全員が王位を求めた場合は?」

「その場合は魔力量を測定し、上位七割までが参加権を得られます」


 つまり予選のようなものがあると。

 今回は王位継承権を持つ九人のうち、六人が参加を宣言した。丁度七割程度だ。予選の必要はない。


「……待て」


 不意に口を挟んだクロヴィスに、皆が一斉に視線を向ける。


「イアスピス王国は既にファブリカティオ帝国の配下に下っている。帝国として、各所属国の伝統や文化には干渉するつもりはないが、命に関わる風習であるならば話は別だ」


 クロヴィスの言葉を受けて、ドレファスが忌々し気に舌打ちをした。


「皇太子殿下、お気持ちはわかりますが、これはあくまでも我が国の内政問題です。口を挟んでほしくはありませんな」

「言っただろう、この国は既に我が帝国の配下にあると。貴様、口の利き方に気を付けろ。そもそも、何故王位継承権を持つ者を集めたはずのこの場を、王位継承権を持たない貴様が仕切っているんだ?」


 クロヴィスは苛立った様子で眉を顰める。

 彼は普段こそ尊大な口調で話すことはないが、こういう場で、ドレファスのような人種を相手にする場合はこういう態度の方が効果がある。


 実際、ドレファスは悔しそうな顔で唇を噛んでいる。

 帝国の皇太子相手に偉そうなことを言うなど、本来は許される立場ではないと気付いたらしい。


 クロヴィスは小さく嘆息すると、ノエリアを振り返った。


「……ノエリア殿、提案、というか、要望がある」


 帝国皇太子であるクロヴィスの言葉に、ノエリアは小さく首を傾げたのだった。

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