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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十六章 イアスピスの風習

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参:公爵の息子

 私が動くより先に、オロチが結界魔術を展開してくれたおかげで、急接近して来た何かは弾き飛ばされた。


「ぐふっ!」


 飛翔魔術で飛んで来たその人物は、衝撃で魔術が切れて落下してきたので、地面に着く前に風壁魔術で受け止めてやる。


「……大丈夫?」


 助けてやった相手を見ると、四十代半ばくらいの男だった。高貴な身なりをしていて、栗色の髪にグレーの瞳で、アダムスにどことなく似ている。

 殺気や敵意は感じない。


「た、助かりました……ありがとうございます……!」


 その人物は身を起こすと、私を見て目を瞠った。

 しかし彼が何か言うより先に、アダムスが驚いた声を上げる。


「セルヴァン殿……!」

 

 説明を求めてアダムスを振り返ると、彼はその男を示した。


「クロヴィス殿下、アリス様、ご紹介します。セルヴァン・プラウディア殿……プラウディア公爵の御長男です」


 まさか黒幕の長男だとは。

 驚きつつも彼の眼をよく見てみるが、あの昏い光は見当たらない。


 それでも警戒しつつ、私とクロヴィスは自己紹介をする。


「ファブリカティオ帝国皇太子のクロヴィス・シーマ・ファブリカティオだ」

「聖女で皇太子妃のアリスよ」

「申し遅れました。セルヴァン・プラウディアと申します」


 恭しく一礼してくる様子を見ても、帝国の人間に対する敵対心などは感じられない。


 と、彼ははっとした様子でアダムスを振り返り、何やらこそこそと耳打ちした。


「……陛下、父上が動き出してしまいました。陛下は一旦どこかに身を隠した方が……」


 唇の動きからそう訴えているのが読み取れる。

 実はそれこそが罠で、これで身を隠させた先に暗殺者を差し向ける、という可能性もなくはないが、私の直感はそれを否定している。

 この男は信用できそうだ。


「セルヴァン殿、クロヴィス殿下とアリス様は、その件で駆け付けてくださったんだ」

「え……?」


 驚いた顔で振り返るセルヴァン。


「内政が不安定になっているという情報を得て、様子を見に来たの……当然だけど、帝国の配下に下る決断をされたアダムス殿には、帝国の後ろ盾がある。アダムス殿を害するようなことがあれば、それは帝国に対する反逆罪となるわよ」


 私がそう告げると、彼はしかと頷いた。


「ええ、勿論それは理解しています。私も父を何度も説得したのですが、聞く耳を持たず……父は自身が《継聖の儀》で敗れて臣籍降下を言い渡された身なので、《継聖の儀》も《選聖の儀》も経ずに玉座に就いたアダムス陛下が気に食わないのです」

「その事情はわかったけど、現時点で王位継承権を持たない公爵がアダムス殿を暗殺したとしても、自身が国王になれる訳ではないのに、何故そんな躍起に……?」

「父はマヌエラ……私の妹か、その子供の誰かに王位を継がせようとしています。妹は父に溺愛されて育ち、父を盲信していますから……」


 なるほど。自分を盲信している愛娘を王に仕立て上げれば、ほぼ実権を握るようなもの、ということか。


「……でも、そのマヌエラも、《選聖の儀》は辞退したのでしょう? 父を盲信していたのなら、王位争いに手を挙げそうなものだけど……」

「それは私が説得しました。マヌエラも彼女の子供たちもさほど魔力が強くありませんから、アダムスに挑めば確実に返り討ちに遭うと……しかし、それで私は父の怒りを買い……」

「理不尽極まりないわね」


 何にせよ、プラウディア公爵の身内に味方がいるのはありがたい。


「オロチ、この件が片付くまでは引き続きアダムスの警護をして、異変があればすぐ私に知らせて」

「御意」


 私の指示に頷くオロチを見て、セルヴァンは怪訝そうな顔をした。


「聖女様、この方は……?」

「私の眷属のオロチよ。魔物だけど私に忠誠を誓っていて、その辺の国家魔術師より強いから頼りにしているの」

「ああそんなっ! 勿体無いお言葉! 恐悦至極でございます!」


 私の言葉に恍惚の表情を浮かべるオロチ。相変わらずだ。

 

 アダムスとセルヴァンが何とも言えない顔でオロチを見る。まぁ、先程までの澄ました顔からは想像もできないだろうな。


「あと……ガリュー」

「呼んだ?」


 私の肩に現れたのは小狐の姿をしたガリュー。

 遮蔽魔術を使って潜んでいたのだ。


「貴方はセルヴァンについて。彼も狙われる可能性があるから」

「わかった」


 ガリューはひょいとセルヴァンの肩に飛び移った。


「ガリューよ。こっちも私の眷属。オロチほどではないけど、その辺の魔術師よりは強くて頼りになるから、暗殺者に襲われても大丈夫よ。あと、眷属は私といつでも意思疎通ができるから、何かあったら私を呼べるわ」

「おお! それは頼もしい! よろしくお願いいたします、ガリュー殿!」


 安堵した様子のセルヴァンに、彼自身もまた父親から消される可能性を憂慮していたと悟る。


 卑屈な態度も見せずに挨拶をしたセルヴァンに、ガリューは気をよくしたようで、「任せろ」と言いながら短い前足でふかふかの胸を叩いてみせる。相変わらず可愛い奴だ。


「……それで、この後はどうするつもりだ? 暗殺者を捕らえたところで、プラウディア公爵の名前を吐くとは思えないが……」

「それはそうね……それなら、こちらから罠を仕掛けましょうか」

「罠?」


 クロヴィスが怪しいものを見るような顔をする。

 私はにやりと笑って、思いついた計画を語り出した。

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