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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十六章 イアスピスの風習

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弐:新国王

 分身を放ってから数分後、オロチは眉を顰めた。


「……国王の周りに不穏な気配がありますね」

「暗殺者?」

「その可能性は高そうです」


 その言葉に、私は瞬時に判断した。


「オロチ、国王アダムスを守りなさい。そして、私とクロヴィスが来ていて秘密裏に話がしたいと言っていると伝えて、了承を得たら密かに連れて来て」

「御意」


 オロチはその場に溶けるように姿を消した。


「……大丈夫か?」

「オロチがついていれば、そうそうやられはしないでしょうけど、重鎮貴族ともなれば魔術師であったり、貴重な魔具を所持してる可能性もあるから、油断は禁物ね」

「そうだな……」


 クロヴィスが頷いたその時、オロチが再び姿を見せた。

 その横には、二十代後半くらいの真面目そうな顔つきの青年が立っている。

 栗色の髪で、身なりからしてとても高貴な人物だとわかる。


「オロチ、その人はもしかして……」

「はい、イアスピス王国の新国王アダムスです」


 まさかこんなにすぐに連れてくるとは思わず、驚いてクロヴィスと顔を見合わせる。すると、アダムスが私たちを見てすっと片膝をついた。


「ファブリカティオ帝国王太子クロヴィス殿下並びに聖女アリス様、お初にお目に掛ります。アダムス・エテルナ・イアスピスと申します。アリス様の眷属オロチ殿に命を救われました。心より感謝申し上げます」


 つまり、オロチが護衛に付いた直後、アダムスを狙っていた暗殺者が動き出したということか。間に合ってよかった。


「私たちは、イアスピスの内政が混乱しているという情報を得て、様子を見に来たんだけど……今、イアスピスで何が起きているのか、話してくれる?」


 そう切り出すと、アダムスは小さく頷いた。


「妹のノーラは、我が国伝統の王位継承の儀式である《継聖けいせいの儀》を経て王位に就いた、『正当な王』でした……しかし私は、妹が捕らえられたことでほぼ消去法で王になりました……当然、それに反発する貴族は多いのです」

「今からその《継聖の儀》とやらをやればいいんじゃないの?」

「それが……《継聖の儀》は、王に戦いを挑み、勝利することを指すのです」

「なるほど。その王が捕らえられている以上、《継聖の儀》は行えない、ということか」

「ええ……当然、長い歴史の中で、先王が急死したなどの理由で《継聖の儀》を行えなかったこともありますが、そうした場合は《選聖の儀》と呼ばれる王位継承権を持つ者たちの中で王位を望む者同士で戦う、という風習があり、それに勝利した者が王位に就いてきました」

「それはやらなかったの?」


 私が尋ねると、アダムスは困った顔で首肯する。


「ええ。どういう訳か、王位継承権を持つ者たちが、全員辞退したのです」

「……それなら、貴方が王位を継いだのは正当な気はするけど……」

「ええ。しかし、プラウディア公爵……先々代国王の弟で私の大叔父に当たる人物が、《継承の儀》も《選聖の儀》も経ていない私は王の器ではないと……」


 視線を落とすアダムスを、再度見る。


 その眼の奥には、あの昏い光はない。

 少なくとも彼は、他者を傷付けることを望まない性格であるということだ。

 そして、一目で察した。彼は強い魔力を秘めている。それこそ、あのノーラを軽く凌ぐほどの。


「そのプラウディア公爵の血縁に、王位継承権を持つ者がいるとか?」

「ええ、イアスピス王国では、臣籍降下した元王族の直系の血縁者にも二代下まで王位継承権が与えられますので、彼の息子と娘、そして孫が四人……その他、現在王族で王位継承権を有しているのは私の妹と、先王弟の息子二人なので、合計九名です」

「他に臣籍降下した公爵はいないの?」

「いるにはいますが、先王の末弟ディグニティ公爵は、臣籍降下と同時に、以降生まれる自身の子供達の王位継承を放棄しています」


 子が自らの意思で放棄したのではなく、親が子に王位継承権を放棄させるとは、なんだか引っ掛かる。


 私が口元に手を当てて思案した矢先、クロヴィスが口を開いた。


「その《継聖の儀》で、王に戦いを挑むと言っていたが、もしや王を殺すのか?」

「……ええ、その通りです」


 痛いところを衝かれたように、アダムスが瞑目する。


 しかし、それで先代と先々代が急死となっていた理由が繋がった。

 いずれも、王位を求める者によって殺されていたのだ。


「……父はとても優れた王でした。私は父を尊敬していた。だから《継聖の儀》に挑まなかった……ノーラが名乗りを上げ、勝利した時はまさかと……ノーラは剣術や攻撃魔術は不得手のはずだったのに」

「ノーラは魅了魔術に自信があったようだからな。おそらく先王に魅了魔術をかけ、自分を攻撃できないようにしたのだろう」


 それは私もそう思った。

 ノーラを間近で見て、さほど強くないと感じた。それこそ、アダムスの方が何倍も強い魔力を有している。

 彼女の性格からして、相手に魅了魔術を掛けて勝利したと考えるのが妥当だろう。その他にも、女王として振舞うにあたって、何人かの家臣も魅了魔術で操っていたとみていいだろう。そうでなければ、三国同盟軍による帝国への侵略行為に便乗する国王に対して、苦言を呈する者がいたはずだ。


「……王を殺すことで王位継承する、か……挑んだ者が負けた場合はどうなるの?」

「殺すか生かすかは王が決めます。生かす場合は、王位継承を剥奪して臣籍降下させます」

「……じゃあ、プラウディア公爵やディグニティ公爵も……?」

「ええ、当時の国王……プラウディア公爵は先々代国王に、ディグニティ公爵は私の父である先王に挑んで負けたと聞いています」


 なるほど。ディグニティ公爵が真っ当な人物であれば、自分の子供をそんな血生臭い王位争いから遠ざけたいと思うのも当然だ。


「……ただ、父が自分の弟を殺すとも、ディグニティ公爵が兄である私の父を殺すとも思えないので、もしかしたら父は弟をこの王家から逃すために、わざと負けるように言い含め、殺さず臣籍降下させたのかもしれません」

「ディグニティ公爵は、今回のプラウディア公爵の件について、何か動きを見せてはいないの?」

「ええ、公爵は辺境の地に移り住んでまつりごとには干渉していませんから」


 ふむ、と頷いたその時。

 気配が飛んでくるのを感じて、私は咄嗟に右手を掲げた。

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