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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十五章 鎖国国家の秘密

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陸:心酔

 私は、ほぼ反射的に動いていた。


 ベルセラとギルモアの間に割り込んで、高出力の防御魔術を展開する。

 そこへ、かなり強力な攻撃魔術が私の防御魔術にぶつかった。その威力に、ギルモアがベルセラを殺すつもりで魔術を放ったと確信する。


「っ!」


 ぴし、と音を立てて、防御魔術に亀裂が走った。


「アリス様!」


 視界の隅で、オロチが魔力を飛ばしたのがわかった。


 直後、私の防御魔術が砕け散った。

 防御魔術を展開してから砕けるまで、時間にしたらほんの数秒の出来事だ。


「アリエル!」


 ギルモアが驚いた様子で、自分の攻撃魔術を消し去ったが、僅かに遅く、防御魔術を貫いた攻撃魔術の一部が私を直撃した。

 しかし、間一髪オロチの魔力が私を包んでくれたおかげで、衝撃はあったものの私自身は無傷で済んだ。


 ほっと息を吐いた、その時だった。

 突然、殺気が背後で大きく燃え上がったのを感じた。

 はっとした私が動くより早く。


「アリス!」


 ガリューが私の肩から飛び出し、瞬時に人型に変化して私の背後に降り立った。

 そこへ、ベルセラがナイフを突き出す。


「ガリュー!」


 私が振り返った時、ガリューが彼女の腕を掴み上げた。

 ガリューの人型は少年の姿であるが、魔物である彼の腕力は、人間の女性の数十倍は強い。


「アリスが庇わなければお前は間違いなく即死だった。自分を庇った相手を背中から刺すなんてな」


 忌々し気に目を細めて、ガリューは容赦なくベルセラの腕を捻り上げる。


「っ! 血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)は私だっ! お前さえ、お前さえいなければ……!」


 ベルセラが私を鋭く睨む。


 ああ、そうか。


 唐突に彼女の立場と、言動を理解した。

 彼女は、ギルモアに心酔しているのだ。それこそ、盲目的に。


 偶然にも前世の私、アリエルと瓜二つの顔である彼女は、アリエルに執着するギルモアから寵愛を受けていたのだろう。


 そこへ現れた、本物の血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)の生まれ変わりである私。

 彼女は、このまま私とギルモアが対面すれば、ギルモアの関心は私に移り、自分の居場所は無くなると悟った。

 だから、私が本物の血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)である可能性を感じても、ギルモアの元へは連行しなかったのだ。


 それなら何故、私達を自国へ誘い込んだかという疑問が湧くが、私が本物の血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)である可能性に気付いておらず、誘い込んだ上で不法侵入として処理するつもりだったとすれば納得はいく。

 帝国内で聖女である私に危害を加えたら重罪となるが、聖女の方が侵入してきたとなれば話は変わってくるからだ。


 そうして帝国の聖女を始末するつもりだったが、予想外にも私が、自身の主であるギルモアが探し求めている血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)であることを悟った。

 本当はすぐにでも殺したかっただろうが、オロチとガリューを連れた私を一人で相手にするのは分が悪い。だから一旦退いて、別の算段に移る予定が、予想外に私達がヴェルシス公爵と接触し、彼が私が本物の血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)であることに気付いて、主の許へ連行してしまった。

 

 ベルセラからしてみれば、私がギルモアと会い、彼が私の前世に気付くことが、何よりも避けたい事態だったはずだ。

 そんな彼女にとって、ギルモアからの「要らない」という言葉は、死刑宣告に等しいことだろう。


「……催眠魔術ハイプノシス!」


 私は彼女を眠らせ、オロチを振り返った。

 すぐにこの場を離れるべきだと判断して、彼に転移魔術の行使を命じようとしたが、ギルモアの合図を受けたヴェルシスが、オロチに飛び掛かってきた。


「っ!」


 戦闘が始まってしまい、私はギルモアを睨んだ。


「どういうつもり!」

「俺が逃がすと思うか? ようやく見つけたアリエルを」

「私は、アリエルじゃない! 今の私は帝国の聖女のアリスよ!

「いいや、お前はアリエルだ……」


 言うや、彼は突然立ち上がり、間合いを詰めてきた。

 私は反射的にそれを飛び退いて躱し、身構える。

 彼の戦い方の癖は知っている。


 大きな身体を生かして、ハイキックと右ストレートを大振りで喰らわせてくる。

 しかし一方で、素早く懐まで距離を詰めて、顎目掛けたアッパーを入れることも得意だった。


 前世の記憶を辿ってそれらを回避すると、ギルモアは嬉しそうに笑った。


「ほら、俺の攻撃を躱している……お前がアリエルである証拠だ」

「私はアリスよ! 帝国の聖女で、皇太子妃の……!」

「聖女で皇太子妃、か……ならば今すぐ神殿を消し、皇太子を殺そう。戻る場所が無くなればいいんだろう?」

 

 うっそりと嗤う彼の表情に、前世のガリオスの顔が重なる。


 ガリオスも、自分の意見を通すためにそういう暴論を振り翳す男だった。

 間違いなく、彼はガリオスの生まれ変わりらしい。


「何を馬鹿な……! そんなことしたところで、私は貴方のものになんて絶対ならないわ!」

「ならば、提案を変えよう」


 言うや、彼は右手を軽く振り張った。


 嫌な予感が、胸を締めつける。


「俺の元へ来ないのならば、皇太子を殺す」


 その言葉と共に、彼の前に十字架が顕現した。

 そこに磔にされているのは、銀髪の青年。俯いた顔は影になって見えないが、彼の気配を、私が間違えるはずがない。


「っ!」


 クロヴィスだ。

 縛り付けられている両手首は血塗まみれで、顔も殴られたのか僅かに見える口元には痣がある。


「クロヴィスっ!」


 私の声に、彼の身体がぴくりと動く。

 良かった。生きてる。


 クロヴィスは一流の魔術師であると同時に、剣の腕も体術も一流だ。

 そんな彼が、ここまで一方的に痛めつけられるなんて。

 驚く一方で、ギルモアがガリオスの生まれ変わりであるならば、無理もないと思ってしまう自分がいる。


 何しろガリオスは、前世でアリエルに殺しの技術の全てを叩き込んだ人物なのだ。

 少なくとも、私が知る限り、前世の世界で、最強の殺し屋はガリオス・フィガロだ。

 アリエルが最強の殺し屋と言われたのは、彼の死後なのだ。


「どうして、クロヴィスを……!」

「カルタスの配下の屋敷にいた者達が取引を装って接触してくることは予想できた。念のため人質としての価値があるだろうと踏んで船の乗組員を捕えたが、まさかそれが帝国の皇太子だとは思わなかった」


 ギルモアは嗤いながら、クロヴィスが所持していたはずの皇帝の紋章入りの剣を示した。


「……クロヴィスにここまで手を出して、帝国が黙ってないわよ」

「構わんさ。お前を手に入れるためなら、喜んで戦おう」


 ギルモアは、帝国を相手に戦争をしても勝つ気でいる。

 それだけの自信があるのだ。


『アリス様、申し訳ございません。私ではこの者を倒せそうにありません』

 

 頭に直接オロチの声が響く。

 広い玉座の間で戦闘を繰り広げる二体の魔物は、一見ほぼ互角のようだった。

 しかし、オロチが倒せないと断じている以上、間違いなくヴェルシスはオロチと同等かそれ以上の実力なのだろう。


 オロチを凌駕する魔物が存在するとは驚きだ。

 クロヴィスを人質に取られ、オロチでさえ勝てない配下を持つギルモアに、今の私が勝てるだろうか。


 前世では、ガリオスに勝てたことは一度もなかったのに。

 その上で、ギルモアは膨大な魔力を有している。

 見るだけでわかる。その魔力量は私より上だ。


「……アリ、ス……すまない……お前は、逃げ、ろ……」


 クロヴィスが絞り出した声を、私の耳が拾う。


「誰が喋っていいと言った?」


 ギルモアが、手にしていたクロヴィスの剣で、容赦なくクロヴィスの腹を殴りつける。

 抜き身でなかったことは幸いだが、それでも彼の一振りは相当な威力だ。


「ぐっ!」


 クロヴィスの口から血が溢れる。


「クロヴィス!」

「さぁ、俺の元へ来い、アリエル!」


 どうする。


 今私がギルモアと戦って、勝てなかったらどうなる。

 クロヴィスは間違いなく殺されるだろう。


 では、皇太子と聖女を失った帝国はどうなる。

 帝国の戦力は私とクロヴィスだけではない。皇帝だって有能な人物だ。エルガ率いる竜人族だっている。

 しかし、私とクロヴィスを欠いたら、帝国の騎士達の士気は間違いなく下がるだろう。そんな状態で、フルメンサキと戦争をして、勝てるとは到底思えない。

 

 ならば、私に残された道は、ギルモアと戦って勝つことしかない。


 私はゆっくりと右脚を引いて、戦闘態勢に入った。

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