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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十五章 鎖国国家の秘密

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伍:我が君

 防御魔術を唱えたものの、私達を包み込んだ魔力の範囲が広すぎたせいで、防御魔術ごと転移させられてしまった。


 目の前の景色が変わり、ぐるりと見渡すと、どうやら荘厳な雰囲気の建物の中のようだとわかる。

 帝国内の国のどの様式とも異なる、不思議な造りだ。


「……ここは?」

「エストレア城だ」

「王城?」


 先程見た時、王城には結界魔術が施されているのが傍目にも明らかだった。

 それなのに、魔物が転移魔術で王城へ入り込めるのか。

 魔物が公爵を名乗っている時点で、国王がそれを認知していることは予想していたが、もしや国王もまた、魔物なのだろうか。


 と、ヴェルシスが歩き出し、私について来いと促す。

 私はオロチとガリューと顔を見合わせ、とりあえずついていくことにする。ガリューは仔狐の姿に戻って私の肩に乗った。


 罠の可能性は高いが、相手の黒幕が何者であるのかを知る、絶好の機会であることは違いない。


 と、少し進んだ先の大きな扉の前で、ヴェルシスは立ち止まり、私を一瞥した上で扉を開いた。


「……我が君、失礼いたします。血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)が見つかりました」

「何?」


 ヴェルシスの言葉に、どう見ても玉座であろうそこに座していた人物が、即座に反応した。

 非友好国であっても国王の名前くらいは知っている。

 彼がフルメンサキ王国の国王、ギルモア・バルカン・フルメンサキか。


 黒髪に鮮やかな緑の瞳が印象的な男だ。年齢は二十代半ば程度。端正な面立ちで、そこにいるだけで圧倒されるような覇気を纏っている。


 初めて見る顔だ。

 しかし、彼の緑の眼を見た瞬間に、全身の血の気が引くような心地がした。

 まだ昏い光を確認できるほどの距離にないのに、本能が、大音量で警鐘を鳴らし始めている。


 この男は危険だと、近付いてはいけないと、私の直感が叫んでいる。


「お前が、血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)か?」

「……貴方は何者なの?」

「俺はギルモア・バルカン・フルメンサキ。この国の王だ」

「フルメンサキの国王が、何故、血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)を知っているの?」


 尋ねた瞬間、フルメンサキの国王ギルモアはさっと立ち上がった。


 その立ち姿と、私を射抜く強い眼差しに、既視感を覚える。

 ぼんやりと、脳裏にその姿が蘇ってくる。


「……嘘……」


 思わず漏れた声は掠れていた。


「……まさか、ガリオス……?」


 私が呟いた名を聞き取った彼は、それはそれは満足そうに、微笑を浮かべて頷いた。


 ガリオス・フィガロ。

 それは、前世の私と関わりの深い人物の名前。


 ギルモアがガリオスの転生した姿ということなのか。

 その可能性に気付いた刹那、私は脚の感覚が消えたように感じる程、一瞬で血の気が引いた。

 全身から冷や汗が出て、どくどくと、心臓が脈打つ音だけが耳に響く。

 

「……ああ、やっと……! やっとアリエルが俺の手に戻って来た……!」


 私の反応をよそに、彼はそれはそれは嬉しそうに、両手を広げた。

 まるで私がその胸に飛び込むことを期待しているかのように。


「……おいで、アリエル」


 低く静かな、よく通る声。

 それは、私にとって、畏怖に近い感情を呼び起こすものだ。


「アリス様?」

「アリス?」 


 オロチとガリューが、心配そうに私の顔を覗き込む。


「……い、嫌……」


 小さく首を横に振り、ほんの僅かに、私は左足を引いた。

 身体が、小刻みに震え出す。


「……何をそんなに怯えている?」


 ギルモアが首を傾げた、その時だった。

 ぱたぱたと駆けてくる足音が響いたかと思った直後、玉座の間に誰かが飛び込んで来た。


「ギルモア様!」


 その人物を見て、思わず目を瞠った。


 前世の私と瓜二つの、ベルセラだったのだ。

 彼女は私を見るなり、ぎょっとした顔をした。

  

「……帝国の聖女……! 何故ここに……!」


 それから、私達の傍らに立つヴェルシスを見て、忌々し気に顔を歪める。


「リューギ……! お前、余計なことを……!」

「何のことだ?」


 本気でわからない様子で、リューギと呼ばれたヴェルシスは眉を寄せている。


 そして、彼女の言葉を聞き取っていたギルモアが、私を再度見て目を瞬いた。


「帝国の聖女……? アリエルが?」

「私はアリエルじゃない。私は、アリス・ファブリカティオ! 帝国の聖女であり、皇太子妃よ!」


 私が言い返すと、ギルモアは心底不快そうに眉を顰めた。


「……帝国の聖女で皇太子妃、そうか……アリエルが……」


 意味深長に呟いたかと思うと、彼はベルセラを振り返った。


「ベルセラ、お前の報告では、皇太子と聖女がカルタスの屋敷にやって来て奴隷を発見した。カルタスが自白したため帝国軍が調査のためにフルメンサキへ向かう可能性が高い。だったはずだ……つまりお前は聖女の顔を見ていた……聖女が血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)であることは気が付かなかったのか?」


 その問いに、彼女がびくりと肩を揺らす。


「どうなんだ? ん?」

「恐れながら……カルタスの屋敷で、人身売買を嗅ぎ付けた帝国の皇太子と聖女が捜査に来た際顔を合わせましたが、それだけです。まさか聖女が血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)であるとは露程も思わず……」


 消え入るような声で弁明するベルセラに、違和感を覚える。


 彼女と会ったのは、カルタス子爵邸だけではない。

 取引を装って接触した私達に、彼女は気付いていて王都付近まで誘い込み、戦闘を仕掛けてきた。

 そして彼女は血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)の名を口にした。


 その時のやり取りから、少なくとも彼女は私が血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)のことを知っていると悟っていたはずだ。

 私が血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)かどうかはさておき、少なくともその存在を知っているのなら、血濡れの乙女(レディ・クリムゾン)に執着しているギルモアに会わせようと連行しようとするのが道理だと思うのだが、彼女はそれをしなかった。


 あの場にオロチとガリューがいたことを加味しても、彼女の行動は腑に落ちない。

 あの状況で騙すなり取引を持ち掛けるなり、私達を王城に連れて来ることなどいくらでもできただろうに。


「……そうか」


 追及せずに呟いたギルモアに、ベルセラがほっと息を吐いたのがわかった。

 しかし。


「ベルセラ、お前にはがっかりした」

「っ!」


 唐突に放たれた冷淡な声色に、ベルセラがひゅっと息を呑んだ。

 目を見開き、小さく「あ、あ……」と何か言おうとしているが、恐怖で言葉を紡げないでいるようだ。


「カルタスが配下に持たせていた魔具が発動した時点で、俺は帝国側が人身売買を嗅ぎ付けたことを察知している。だからその配下の屋敷を調()()した……その時に感知した魔力の主が入国したことを、この俺が把握していないとでも?」

「っ!」

「言い訳があるなら聞くだけ聞いてやる。何故、部外者の侵入を許した? 何故、その部外者を、お前ではなくリューギが俺の元へ連れて来るような事態になった?」


 静かな重たい声色に、ベルセラは青褪めて小さく震え出した。


「わ、私は……」


 言い訳さえ紡げない彼女に、ギルモアは心底呆れた様子で溜め息を吐く。


「……アリエルの生き写しだと思って手元に置いていたが、お前はもう要らない」


 言うや、彼はベルセラに向けて右手を突き出した。

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