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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十四章 新婚旅行

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終:出航の準備

 フルメンサキ王国へ潜入するため、私達は取引を偽装して、船で相手が指定してきている場所へ向かうことにした。

 船はセルボにあるので戻る必要があるが、オロチは既に転移魔術を多用しているので、今回はクロヴィスが転移魔術を行使することにする。


 出発前に、ダルガンの屋敷には捜査を続けてもらうために騎士団を召喚した。

 使用人は全員捕らえ、人身売買に関わった者は後に全員逮捕となる。


 正直、使用人の誰が関係者で誰が無関係かなど、証言だけでは判断できない。

 嘘発見の魔術でもあれば楽なんだけど。

 余裕ができたらそんな効果を持つ新しい魔術か魔具を開発するのもいいかもしれない。


 そんなことを考えている間に、クロヴィスが転移魔術を発動させた。

 一瞬でセルボに到着した私達は、日没後の出航に備えて準備をし、食事を摂ることにした。


 オロチとガリューとは一旦別れ、彼らにも体力回復に努めてもらうことにした。

 幸い、セルボは漁港のため、毎日肉体労働をしている漁師が大勢いる。オロチはこっそり彼らの疲労を、ガリューも町民の負の感情を喰らって回るらしい。

 そして最終的にパレット男爵邸の地下牢で落ち合うことにした。


「改めて思うが、疲労と負の感情が主食とは、人間との相性が抜群だな」


 食堂に入って食事をしながら、クロヴィスが感心した風情で呟く。


「本当にね。人間の肉体や生命力が主食じゃなくて良かったわ」


 私も新鮮な魚料理を頬張りながら頷いた。


「……で、この後のことだけど、奴隷役はガリューが化けるとして、船長はクロヴィスに変化へんげ、私とオロチは遮蔽魔術で気配を絶って待機、で良いかしら?」


 声を潜めて今後の流れについて確認すると、クロヴィスも小さく頷いた。


「ああ。相手がどこから監視しているかわからないから、船から離れた場所で魔術を掛けて、それから乗り込もう」

「そうね……でも、取引が無事に成功した場合、クロヴィスはどうするの? 私とオロチはガリューと一緒に相手の船に乗り込むけど、船長であるクロヴィスは船に残らないといけないでしょう?」

「ああ、そのことだが、船はリベラグロの南にあるバモスという港に置いてくる。アルバートにもさっき連絡しておいたから問題ない。その後で、アリスたちに合流する」

「どうやって合流するの?」


 私が尋ねると、クロヴィスは得意げに微笑み、私の手首を示した。


「それ」

「腕輪?」

「ああ。船を港に置いた頃を見計らって、アリスは腕輪を通じて俺に呼びかけてくれ。そうすれば居場所が俺にわかって転移できるようになる」

「転移魔術で侵入して相手に察知されない?」

「この腕輪を通じて転移する分には大丈夫だ。魔力が繋がれば結界さえも擦り抜けられるように術式を組んであるからな」


 それほどの機能がついているとは驚きだ。


「なら、私達がフルメンサキに潜入できたら呼びかけるわ。取引場所からバモスって港まではどのくらいで行けるの?」

「魔術で風を起こせば数時間で行けるはずだ。フルメンサキの状況がわからない以上、安易に通信の魔具を使うのは危険だから、呼び出す時間を決めておいた方が良いな」

「そうね。取引が日没だから、日付が変わる頃にしておきましょう」

「わかった」

「遮蔽魔術を掛けて五日間か……魔力切れは大丈夫だと思うけど、そんなに長い間かけ続けたことがないからちょっと心配ね」


 取引の約束の日時は五日後の日没。

 つまり、出発から五日間、私達は変化魔術や遮蔽魔術を掛けた状態を維持する必要がある。

 いや、そのまま敵陣に潜入することを考えたら、更に長い時間遮蔽魔術を掛け続けなくてはならない。


 変化魔術も遮蔽魔術も、継続するとなると魔力消費はそれなりになるが、私達であれば単純な魔力切れの心配はほとんどないだろう。

 だが、魔術の継続には魔力量だけでなく術者の技量も関わってくる。


「そうだな。遮蔽魔術は特に、油断すると気配が漏れるしな……」


 クロヴィスも小さく頷く。


「……まぁ、俺の変化は髪と瞳の色を変えるだけで済むし、不安なら二重に掛けておくか?」

「それはクロヴィスの負担になるわ。フルメンサキで何が起きるかわからないのに、魔力を無駄に消費するのは避けるべきよ」

「それはそうだな……だが、遮蔽の効果を持つ魔具はまだ開発できていないし……」

「油断しないようにして、気を張って五日間過ごすしかなさそうね」

「そうだな。いずれにせよ、休息は交代で行うことになるだろうし、その時は誰かが術を二重に掛けるようにしよう」


 オロチとガリューは魔術の概念が私達人間とは少し違うようなので、もしかしたらその配慮は不要かもしれないが、それでも休息は必要だろう。


「それで、目的地付近まで行ったら、私とオロチは遮蔽魔術を保ったまま船尾で待機ね」

「ああ、それでいいだろう」


 食事を終えて外へ出ると、丁度太陽が沈み切る頃だった。

 空がオレンジから藍色に変わっている。


 私とクロヴィスは、人目につかぬように建物の裏手に回り込んでから術を発動させた。


 クロヴィスが化けることになった船長は、ダルガンの息がかかった傭兵の中で、船の操縦ができる者が務めていたらしい。

 基本的に顔を隠すようにしていたらしいので、その者の髪色と瞳の色をダルガンに確認し、変化へんげ魔術を掛けた上で、外套のフードを深めに頭、口元にはスカーフを捲いて顔を隠すことにする。


 そして遮蔽魔術を掛けた私は、クロヴィスと共に桟橋の手前にある小屋へ行き、そこから隠し通路を通って地下牢に向かう。

 約束通り、腹を満たしたオロチとガリューが、遮蔽魔術と分身魔術、変化へんげ魔術をそれぞれ掛けた状態で待機していたので、ガリューの分身達に手枷と鎖を着けて船へ乗り込んだ。


 ちなみに、この鎖は本物だ。

 だが、ただの鎖であって魔力封じの効力はないので、いざとなれば魔物であるガリューは簡単にそれを引き千切ることができる。

 まぁ、そうでなくても、変化へんげ魔術を解けば、子狐の前足に対して大きすぎる手枷は、勝手に外れることになるのだけど。


 そうして、私達を乗せた船は、ひっそりとセルボを出港した。


 この先でも巻き起こる困難を想像しながら、私は気を引き締めるために己の両頬を軽く叩くのだった。

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