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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十四章 新婚旅行

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拾:尋問と作戦

 捕らえられている人達の中には、既に大怪我をしていたり、発熱している状態の者も何人かいたので、治癒魔術と回復魔術を掛けた上で、神殿に移動させた。


 私が聖女であり、皆を助けると告げると、彼らは感涙に咽び泣き、他国へ売られる前に助かったことに心から安堵していた。


 クロヴィスが解錠している間に、私は通信の魔具でジャンに連絡を取り、再び奴隷として捕まっていた人達を数十人発見したこと、神殿で保護する旨を報告した。

 ジャンは即座に受け入れの体制を整えると言ってくれたので、一通りの手当てが済んだところで、オロチに彼らを神殿へ運んでもらった。


「……これでよし、と」


 すっからかんになった地下牢を見てから、私はダルガンを振り返った。


「さて、質問に答えてもらうわよ。あの人達をどうするつもりだったの?」


 私がダルガンを見下ろして、語気を強めると、彼は露骨に視線を逸らせた。


 と、オロチが彼の胸倉を乱暴に掴み上げる。


「アリス様が尋ねておいでです。真実を答えなさい。答えない、または偽りを述べたなら、この四肢を捥ぎますよ」


 オロチが魔力を少しだけ放出してダルガンに凄む。

 きらりと光る緋色の眼に射抜かれ、ダルガンはひっと息を呑み、やがて口を開いた。


「……あれらは、フルメンサキの国王に献上するための奴隷だ……」

「フルメンサキだと?」


 クロヴィスが眉を顰める。


 フルメンサキ王国。

 それは帝国の南西に隣接し、リベラグロ王国とモンフォスリウム王国に挟まれている大国の名だ。

 帝国には属しておらず、大陸の国の中では、残り一つとなった非友好国である。


 の国は三方をルノー山脈と呼ばれる、サーブ山脈に似た険しい岩山が囲み、もう一方は海という地形であるため、もしも戦争となった際は攻め入るのに苦心するといわれている。


 セルボからフルメンサキ王国に行くには、リベラグロ王国の西側の海を回り込む必要があるが、非現実的といえるほどの距離ではない。


「正直、フルメンサキならば、人身売買や奴隷文化があっても、不思議ではないな……」


 クロヴィスも苦々しい様子で呟く。


 の国は帝国とだけではなく、他国との取引もほとんどしていない鎖国国家であると聞いていた。確かに、あの山脈の向こうで、何が起きているかなど知る由はない。

 物理的に孤立した土地柄、文化は独特で、町並みは他の国のいずれとも違う雰囲気だという。


 だが、その鎖国国家と、カルタス子爵が人身売買の取引をしていたというのは、一体どういう繋がりだろうか。


「人身売買をするようになった経緯は?」

「十年程前、突然訪ねて来た男に、商売を持ちかけられた……相手の正体について追究しないことを条件に、相手が指定する性別や年代、容姿の人間を売って欲しいと……」

「十年間で、どれほどの人を奴隷としてフルメンサキに売ったの?」

「せ、千人くらいだ……」

「そんなに……」


 予想より多く、愕然とする。


「その人たちは、フルメンサキのどこにいるの?」

「それはわからん……私は捕らえた者達をセルボから送り出していただけだ。船はフルメンサキ南西の沖合にある小さな島につけ、相手が来たら引き渡していた……」

「次の取引の予定は?」

「五日後だ。丁度今日の日暮れ後に、セルボから船を出す予定だった」


 それを聞いて、私はクロヴィスを振り返った。

 しかし私が何か言うよりも早く、クロヴィスが首を横に振る。


「駄目だ」

「まだ何も言ってないわ」

「奴隷に扮して、フルメンサキに潜入するつもりだろう?」

「それ以外に、捕らえられた人たちを探し出す方法がある?」


 非友好国である以上、正面切って入ることはほぼ不可能だ。

 今回の人身売買について、帝国から正式に抗議文を送ったとしても、知らぬ存ぜぬと言われれば何もできない。


 取引相手がフルメンサキ王国の者であることはわかったが、フルメンサキ王国自体が人身売買を禁止していなければ、取引相手を罪に問うことはできない。

 当然、そうなったら既に売られてしまった人達を助けることは叶わなくなる。


「だが、もしも魔力封じの鎖に繋がれたら……」

「オロチとガリューがいるから大丈夫よ」

「遮蔽魔術で船に乗り込めば、奴隷に扮する必要はないだろう」

「それだと、別の誰かに奴隷役をさせることになっちゃうじゃない。奴隷役がいなければ、その時点で怪しまれて王国へ潜入できなくなるわ」

「だからって……」


 クロヴィスが尚も言い募ろうとしたところで、私の肩に乗っていたガリューが口を開いた。


「じゃあ僕が化けるよ。少し前に、蛇からやり方を聞いて分身魔術を習得したんだ。変化へんげ魔術は元々得意だから、数体分身を作って、全部別の姿に変化すれば問題ないだろう?」

「おお、狐にしては名案ですね」


 オロチが馬鹿にしているのか、感心しているのかよくわからない表情で微笑み、その言い方にガリューがむっとした顔をする。

 この二体、仲が良いのか悪いのか、未だにわからない。


 前に聞いた話では、オロチの方が長寿らしく、それもあって魔力の総量はオロチが上なのだ。

 だが、人間にも魔術の得手不得手があるように、オロチとガリューで使える魔術にも違いがある。

 オロチは転移魔術をはじめとする大量に魔力を消費する魔術も軽々使用できる一方で、回復魔術や治癒魔術が魔術が使えない。その他、本体からあまり離れられないなどの制約はあるものの、分身魔術で多数の分身を出すこともできる。

 対するガリューは転移魔術は使えるものの連発はできず、攻撃魔術もオロチほどの威力は出ないらしいが、回復魔術や治癒魔術も使え、変化魔術が得意らしい。


 だが、まさか魔術を教え合うようなことをこっそり行っているとは意外だった。


 まぁ、おかげで今回の問題は解決できそうだ。


「決まりね。クロヴィス、それなら文句ないでしょう?」


 私が尋ねると、クロヴィスは悔しそうに溜め息を吐いてから小さく頷くのだった。

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