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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第二章 忍び寄る悪意

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肆:神官長に掛けられた呪い

 神殿に戻った私は転移魔術によって削られた魔力の消費量に驚いていた。

 あの事件以来、転移魔術も何度か試してはいたが、城から神殿という長距離を移動したのは初めてだ。


 こんなに魔力が消費されるのに、あの事件の日、クロヴィスは軽々と往復のために二回も転移魔術を行使していた。

 大聖堂でゴーチエと対峙した時にあまり戦闘では役に立たなかったが、おそらく魔力を消費しすぎてあまり戦えない状態だったのだろう。


 まぁ、私が大立ち回りしすぎて驚きの余り固まっていたというのもあるだろうけど。


 それより、早くリュカと合流して、ジャンの呪いを解かなければ。


 急ぎ足で神官長の部屋に向かった私は、廊下の向こうから近付いて来る気配に足を止めた。


「……おや? 聖女様。どうしてこちらに?」


 驚いた様子で目を瞬いたのは、今一番鉢合わせたくない人物、ガスパル大神官だった。


「……知らせを受けて、急いで戻って来たのよ」

「そうですか。何かあったんですかな?」


 廊下の窓から差し込む月明りに、ガスパルの褐色の瞳が煌めく。

 その瞳の奥には、相変わらず昏い光が宿っている。


 しかし、違和感がある。

 ガスパルは少なからず『悪い人間』だと、私の直感は言っている。

 だが、この直感はその『悪い人間』の種類や程度はわからない。


 例えば、他者を蹴落としてでも上に行きたいという野心家にも、この昏い光が視える事がある。

 つまり、物理的に誰かを傷付けるつもりはなくても、他者を押しのけて自分が上に行こうとする意志にも反応するということだ。


 果たしてこのガスパルという男は、昏い光は宿しているが、ジャンを呪ってまで自らが神官長になろうとするだろうか。


 いや、待て。

 そこまで考えて、はっとする。


 そもそもガスパルは、魔術は使えてもその実力は先代神官長のゴーチエに遠く及ばず、ジャンと比較しても劣る。

 ゴーチエが皇帝陛下とクロヴィスを呪えたのは、本人がそれだけ強い魔力を有していた一流の魔術師だったからだ。


 ガスパルに、人を呪うだけの力など無い。

 呪うための特別なアイテムでもあれば別だが、そんな禍々しいものを、私が結界を張っているこの神殿内に持ち込む事は不可能だ。


 つまり、ガスパルは白。


「……ジャン神官長が疲労で倒れたそうです。心配なので、戻ってきました」

「おやそうでしたか。それは心配ですなぁ。私にできる事があれば何なりとお申し付けください」


 眉を下げてそう答えたガスパルの瞳に揺るぎはない。

 やはり、ジャンを呪ったのはガスパルではないだろう。


 私は挨拶もそこそこに、その場を離れて急いで神官長の部屋に向かった。

 

 小走りで向かった部屋の前には、リュカが立っていた。


「リュカ! ジャンの具合は?」

「神官長はお休みになっています。眠る前まで意識もあり、ご本人は大丈夫だと仰っていたのですが……申し訳ございません、私が付いていながら……」

「リュカのせいじゃないわ。呪いなら早く解かないと……」


 とはいえ、部屋の主が寝ているところへ無断で入る訳にはいかない。

 どうしたものかと考えたのも束の間、リュカはドアの取っ手に手を掛けた。


「聖女様が到着され次第お部屋にお通しする事は許可を得ています」

「……流石、仕事ができるわね」


 感心しながら神官長の部屋に足を踏み入れる。

 先日までゴーチエが使っていた部屋だが、幾重にも浄化魔術を掛けたので、彼の溜め込んだ穢れはひと欠片も残ってはいない。


 しかし、部屋に入ってすぐにわかった。


「……呪いね」


 黒い靄が視える。眠るジャンの胸元に。


浄化魔術プルガティオ


 彼の胸元に手を翳して唱える。

 淡い光がジャンを包み、黒い靄を消し去った。


「……聖女様……?」

 

 ジャンが目を覚ます。

 彼が起き上がろうとしたのを制して、私は尋ねた。


「無理しないで寝ていて……ジャン、この呪いに心当たりは?」

「わかりません……夕方に突然、上手く息ができなくなって……」

「……おそらくだけど、この呪いは先日クロヴィス殿下に掛けられたものと同種のもの……あれを掛けていたのはゴーチエだった……この国に、ゴーチエと同じレベルの魔術師なんて皇帝陛下くらいしかいないのに……」

「まさか、皇帝陛下が、私を……?」


 愕然とするジャンに、私は慌てて首を横に振った。


「ゴーチエと同等の魔術師は、私が知る限り皇帝陛下しかいないってだけよ。もしかしたら、実力を隠しているだけで、強い魔術師がいるかもしれない……」


 魔術師を呪うのは、一般人を呪うよりも遥かに難しい。生半可な呪いでは跳ね返されて、術者の方が何倍ものダメージを負ってしまうからだ。

 しかし、ジャンを襲った症状は間違いなく呪いによるものだった。


 私はリュカを振り返った。


「大元を叩かない限り、きっとジャンは何度でも呪われるわ。大至急、犯人を探し出さないと」

「それは勿論ですが……どうやって呪った人物を探すのですか?」


 それは最大の問題だ。

 本来、呪いは痕跡を残さずに相手を死に至らしめる、ある意味最強の攻撃魔術だ。

 皇帝陛下が呪われたときにゴーチエの魔力を感じ取ったというのは、あくまでも本人同士が接する機会が多かった事、皇帝陛下自身が強い魔術師であったことが一因と言える。


 ジャンも強い魔術師ではあるが、皇帝陛下やゴーチエに比べるとどうしても劣ってしまう。


「……探知魔術をやってみるか……でも、苦手なのよね……」


 思わず呟く。


 前世の記憶を取り戻したことで魔力量が劇的に増大し、それまで使えなかった魔術が使えるようにはなったが、それは前世の私が持っていた『いかなる武器も思いのままに操れる』という特殊能力の効果によるものだ。


 つまり、魔力を武器として捉える事で、あらゆる魔術が使えるようになったのだ。

 だがそれも、あくまで“武器として捉えられる魔術に対して”だ。攻撃性の魔術はそれこそ思いのままに操れるようになったが、神官見習い時に習う浄化結界回復治癒系の魔術以外のものは、まだ完璧と言えるレベルではない。


 しかしそれでも、今はやる以外の選択肢はない。


探知魔術デプレヘンシオ!」


 先程ジャンの胸に燻っていた黒い靄の残滓から、その痕跡を辿るイメージで魔術を発動させる。

 目を閉じて魔力の流れを追った私は、僅かな魔力の欠片がある人物の私室に続いていることを突き止めた。


「……まさか」


 その部屋の主は、意外な人物だった。

 予想外過ぎて、思わず目を見開いて呟く。


「……ロジェが?」


 その部屋は、アネット派の神官、ロジェ・ミラのものだった。

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