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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十二章 太古の魔物

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終:報告会

 私とクロヴィスとラウルがオロチの転移魔術で神殿に戻った時、ちょうどエルガとガリュー、アネット達の一団も神殿に帰ってきた。


「クラリス! 大丈夫だったかっ!」


 馬車から降りようとするクラリスを見るなり飛びつきそうになるラウルの首根っこを、私が掴む。


「ぐぇ」


 と、クラリスより先に降りていたシェイドが彼女に手を貸している。


 うん? 何て言うか、二人の雰囲気が甘いような。


「……何かあった?」


 トリスタンに尋ねると、彼は無表情のまま淡々と答えてくれた。


「聖女様がお戻りになった後、ニールの奴がクラリスに『どうして自分じゃ駄目なのか、どうしたら自分を見てくれるのか』と詰め寄ったんです。そこでクラリスが咄嗟に自分はシェイドが好きだから応えられないのだと言い、それを聞いたシェイドが驚きつつも自分もクラリスが好きだと答え……おそらくこの後、二人から交際の報告が入ると思います」


 ほうほう、完全に当て馬となった訳だが、ニール、よくやった。

 彼の心情を想うと可哀想であるが。


 そして、可哀想な奴がもう一人。


「そんなぁ……クラリス、俺の、運命の人だと、思ったのに……」


 がくりと膝を衝いて露骨に項垂れるラウル。

 イザベラからの拷問にも耐えた彼が、今両目からボロボロと涙を流して号泣している。


「……とりあえず、戻って早々に悪いんだけど、会議室に集合してもらえる?」


 私は全員にが馬車から降りたのを確認して、そう促した。

 ラウルも、一応仕事の一端であるため、すんと鼻を鳴らしながらもそれに従う。


 皆が会議室に集まって着席したところで、私からことの経緯を説明すると、皆言葉を失って唖然とした。


「……魔薬を撒いていたのが、ロレンマグナの第一王子妃だったとは……」

「しかも、ビュートが古代神話に登場する黄昏の王だったなんて……」

「人間の歴史上、ビュートを封じた五人の王は名君として崇められていたのに……」

「その生まれ変わりが、ゴーチエをはじめとする犯罪者だったなんて……」

「しかも、全員暁の女神によって《裏》の世界に連れて行かれたって……」

「その暁の女神が超絶美女だったんだから驚きよねー!」


 口々に呟く声の中で、妙に明るい口調で言い放たれた言葉に、全員が顔を上げた。


「暁の女神、様……?」


 クラリスが呆然と呟く。


 会議室の壁際に置かれたキャビネットの上に、いつの間にかあのとんでもない美女が座っていたのだ。


「はぁーい! やっとビュートの奴が帰ってきたから、《裏》の世界から解放されたんだぁー! あの五人なら、今頃《裏》で前世の悪行分も含めて制裁喰らっているから、当分はこっちの世界に戻れないし、もし戻れたとしても寿命が尽きる直前くらいになるかしらね。死後は当分人間には転生できないから安心してね。ああ、そうそう、今回の一件で、聖女にお礼をしに来たんだけど」


 つらつらと喋ったかと思えば、思いがけず指名を受けて驚く。


「え、わ、私ですか?」

「そう。アタシの力を使いこなして、見事にアタシの代わりを務めてくれてたみたいね。上出来上出来」

「女神様の、代わり?」

「そ。アタシがビュートの代理で《裏》の世界に掛かりきりになっちゃったら、《表》の世界が荒れちゃうでしょう? だから、この世界の秩序を守るために、千年前に適正のある人間にアタシの力を宿したの。死んでも力だけは適正のある人間に自動で転移する自動機能付きで」


 だから、浄化魔術が使える聖女は世界に一人だけ、死んだら次の聖女に能力が引き継がれてきたということか。

 長年謎に包まれていた聖女の力の秘密が明らかになった瞬間だった。


「……えっと、では、女神様がお戻りになられた今、この力は返さねばならないのでしょうか?」

「え? まさか。そんなことしたらアタシが、今度は《表》の世界の治安維持で奔走する羽目になっちゃうじゃない。アナタには、これからも世界の治安を守るために尽力してもらわないと」


 何だかものすごく身勝手な理由で押し付けられた気がしなくもないが、力を奪われないと聞いてほっとした。

 この力が無くなってしまったら、私が世界平和のためにできることが、今以上に限られてしまうのだから。


「んで、お礼として、アタシの力を少し分けてあげるわね」

「え?」


 聞き返す間もなく、彼女は私に右手を向けた。


 刹那、とんでもない魔力が私の身体に流れ込み、あっという間に体に馴染んでしまった。


「よしよし、問題なさそうな。んじゃ、アタシは行くわ。千年で変わった世界をもっとたくさん見なきゃ!」


 ぶんぶんと手を振って、彼女はその場に溶けるように姿を消した。


「……なんていうか、思っていた感じと違う方でしたね」


 アネットが呆然とした様子で呟き、皆が小さく頷く。


「まぁ、何にせよ、これで一件落着だし、アリスの力が増したのは良いことだ……俺達からの報告は以上だが、何か他にあるか?」


 クロヴィスがそう纏めたところで、シェイドがすっと手を挙げた。


「アリス! あ、えっと、聖女様、報告があります!」


 彼と隣に座るクラリスの表情から察し、私は続きを促す。


「俺とクラリスは、結婚を前提として交際をすることにした。どうか認めてほしい」

「勿論。良いわよ。もし浮気した場合は地位の剥奪と、半年間毎日みそぎをすることになっているから、肝に銘じてね」


 本当は神官が浮気をしたら、であって用心棒であるシェイドは対象外なんだけど、まぁそこは良いだろう。


「クラリスがいるのに浮気なんてするか。たとえアリスに言い寄られたって絶対に靡かねぇぞ!」


 どの口が言っているんだか。と思わなくもないが、その決意に免じて良しとしよう。


「クラリスも、シェイドはこう言っているけど、彼との結婚を前提とした交際は問題ないのね?」


 彼女の気持ちは知っているが、一応聞いておく。

 と、彼女は茹蛸のように真っ赤になりつつも、しっかりと頷いた。


「はい! 何より、私がそう望んだので!」

「よろしい。二人の交際を許可すると共に、邪魔するような人が現れたら私が粛清するので、皆そのつもりで、クラリスに好意を抱いていた男性信者たちにも周知してね」


 その辺は念押しするように言ってから、ニールとラウルを一瞥する。

 彼らは自身の想いが叶わないことを思い知らされてすっかり打ちひしがれているのかと思いきや、揃いも揃って、女神がいた所を見つめて呆けていた。


「……ニール? ラウル?」


 名を呼ぶと、二人ははっとして私を見る。


「く、クラリス様が選んだのだから仕方がありません! 俺はクラリス様の幸せを願っています。そして、今後は神官として暁の女神様に恥じぬよう、一層精進いたします!」

「そうだな! 俺も帝国に仕える身として、暁の女神様に認めてもらえるよう尽力する!」


 どうやらこの二人、失恋直後に現れた人外の美貌を有する女神に心を奪われたらしい。

 とことん女の趣味が似ている二人だ。


 まぁ、ニールについては神官である以上、暁の女神に対して崇拝の念を抱くのは悪いことではない。

 ラウルについても、クラリスに一目惚れして帝国に寝返った経緯があるため、失恋したことでトリブスに戻ることが懸念されていたのだけど、あの様子なら大丈夫そうだ。女神様の魅力は凄まじいな。


 しかも、相手は人間ではなく暁の女神だ。

 女神相手につきまとい行為はできるはずもないし、無礼を働けば女神自身から鉄槌を喰らわされることになるので、二人とも下手なことはしないだろう。


 これで丸く収まったな。

 勿論、まだまだ結婚式に向けてやることは山積みなんだけど。


 それでも最大の問題が解決したので、清々しい気持ちでいられる。

 私はほっと息を吐いたのだった。

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