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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十二章 太古の魔物

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拾:収束と行方

 私達が転移した先は、ロレンマグナの玉座の前だった。


 そうか、先程オロチは薬屋を引き渡すために王城に乗り込んだんだっけ。

 てっきり、城下町のどこかに移動するのかと思っていた私は驚きつつ、謁見の許可を取る手間が省けたと前向きに捉えることにした。


「こ、これは、クロヴィス皇太子殿下と、アリス様……一体、何事でしょうか?」


 ウェズリーが驚いた様子で立ち上がり、駆け寄って来る。


 私がこれまでの経緯を話すと、彼は額に手を当てて、深々と溜め息を吐いた。


「……そうですか……」

「彼女の悪行について、貴方は知っていたの?」

「ええ……ですが、確固たる証拠が掴めず、苦労していました。そこへ、本日、オロチ殿が、あの男共連行してきてくださり、やっとヘルバの魔薬の流布ルートが見えてきたところだったのです」


 そう答えるや、彼は側近に何か伝えた。

 それから私達を応接間へ案内し、椅子に腰かけたところで、彼に呼び出されたらしい、第一王子のマーシャルが慌てた様子でやってきた。


 彼は自分の妻の悪行と末路を聞いて、がくりと項垂れる。


「……そうですか、イザベラが……」

「暁の女神は、動機を帝国への報復だと言ってたけど、心当たりは?」

「はい。元々彼女は、王太子妃……つまり次期王妃という立場を誇りに思っていたようでして……それが、先の事件でウェズリーが王位を継ぐことになり、王太子妃でなくなったことが許せなかったんだと思います。ジョセフに便乗する形で事件に関与したハミルトンにも、かなり当たり散らしていました」

「貴方はそれを黙って見ていたの?」

「……恥ずかしながら、妻は私の言うことを全く聞いてくれなくて……これまでは好きに買い物をさせておけば機嫌も良かったので、そうしていたのですが、最近はウェズリーに予算を定められてそうもいかず……」


 もごもごと口籠りながら答える第一王子。

 彼が国王にならなくて良かったと心から思ってしまう。

 彼は人が好過ぎる。それ故に気が小さく、完全に妻の言いなりだったのだと容易に想像できる。


 もしも彼が国王になっていたら、完全にイザベラが主導権を握り、好き勝手にやってあっという間に国が傾いていたことだろう。


「それが、最近は妙に機嫌が良くて……どうしたのか聞いても答えてくれなくて不思議に思っていたんですが、妻の侍女が、町の薬屋に出入りしているという報告を私の側近から聞いて、少し不審に思っていたところでした」


 侍女が薬屋に出入りすること自体は不思議ではない。

 だが、そのような報告が耳に入るということは、余程頻繁だったとか、王族に仕える者が行くには相応しくないような店だったということだ。


「帝国に魔薬をばら撒いたところで王妃になれるはずもないのに、一体何がしたかったんだろうな」


 クロヴィスが呆れたように呟く。


「帝国中に魔薬を蔓延させて、皇室がその対応で警備が手薄になるところを狙って、帝国の聖女を殺すつもりだったようだぞ」


 聞き覚えのある声が頭上から聞こえてきて、皆驚いて天井を見た。

 と、天井板が一枚外れて、そこから黒髪の青年が降りて来た。ラウルだ。


「ラウル! 無事だったのね! 良かった……」

「ああ、油断してヘマをしたが、何とか隙を見て逃げ出してきた。そしたらこの部屋から話し声が聞こえて……結局俺は役に立たなかったな」


 そう答える彼はボロボロだった。

 私はすぐに治癒魔術と回復魔術を唱えて、彼にも証人としてこの場に同席してもらうことにした。

 一杯の水を飲んだ彼は、ゆっくりと何があったのかを語り出した。


「ロレンマグナに入って、俺はすぐに、第一王子妃の侍女が怪しそうな薬屋に出入りしていることを掴み、城に忍び込んだんだ。でも、第一王子妃の私室に罠が仕掛けられていて捕まった。第一王子妃は俺の顔を知らなかったから、トリブス人のコソ泥だと思ったらしく拷問されて隠し部屋に閉じ込められていたんだ」


 拷問を受けたと言うラウルの報告に申し訳なく思っていると、彼は「これは俺の失敗だ。アンタのせいじゃない」と言って、話しを続けた。


「それに、隠し部屋からは、第一王子妃と侍女の会話が丸聞こえでさ。そこで企みを聞いたんだ。アイツは、帝国の聖女に対して理不尽な怒りを抱えていて、自分が王妃になれなかった腹いせに殺してやると息巻いていた」

「それなら、どうしてヘルバの魔薬を蔓延させるなんて時間のかかる手段を?」

「それは侍女が提案したみたいだ。そうすれば皇室も対応に追われて聖女につける護衛にも隙が生じるはずだって。それに、時間が掛かれば三国同盟軍による帝国侵略の件が忘れられて、自分達に容疑が向くこともなくなるだろうって算段だったらしい……まぁ、第一王子妃も侍女も暗殺に関しては素人だからな。あまりに効率の悪い方法なのも頷ける」


 魔薬蔓延の黒幕が、まさかのロレンマグナの第一王子妃で、動機が逆恨みだったとは。


「本当に、帝国の聖女様には大変申し訳ないことを……何とお詫びをしたらよいか……」


 マーシャルが怯えた様子で頭を下げる。


「今回の件、貴方に責があるとすれば、妻の言いなりになってばかりだったってところね。それ以外はイザベラ本人が暁の女神から責を問われ、《裏》の世界で制裁を受けるはずだから、私は貴方達に何も望まないわ」

「しかし、それでは流石に筋が通りません。我が国の王族に連なる者が、帝国に不利益をもたらしたのですから」


 ウェズリーがそう申し出たので、クロヴィスはヘルバの魔薬の取り締まりの強化と、今後の対策を検討して報告するよう指示を出した。


「後は、イザベラが手を回した薬屋が、どの程度帝国内に魔薬をばら撒いたのか調査して、その報告。および、解毒して回ることだな。解毒魔術が使える魔術師はいるだろう?」

「承知しました。すぐに手配します」


 言うや、ウェズリーは側近に素早く指示を出した。

 やはり仕事が速い。


「それと、これを期に、マーシャル兄上には臣籍降下していただきます。よろしいですね?」

「あ、ああ、勿論だ……もっと早く自分からそう申し出るべきだったのに……」


 しゅん、と肩を落とすマーシャルに、ウェズリーは応接室の壁に掛けられた大陸の地図の一か所を指差した。

 帝国と聖王国に隣接するロレンマグナの北東の端だ。


「ここには王族が所有する防衛の要となる拠点の町があります。そこの領主として、今後はしっかりと役割を果たしていただきます」


 王都からはかなり離れた場所だ。

 防衛の要になるような場所に、マーシャルのような気の弱い者を置いて大丈夫だろうか、と一瞬不安に思ったが、よくよく考えたらロレンマグナはもう帝国の配下に下っているので、帝国軍が攻めて来るようなことはない。

 一方の聖王国は、自国を結界で囲んでいることから領土拡大を狙うことはなく、他国への侵略行為は一切しないと宣言しているため、その拠点での主な仕事は、対国家の侵略の警戒ではなく、国境を越えてロレンマグナに入ろうとして来る者の監視となる。


「これまでのことを反省するのなら、そこでしっかりと役割を果たしてくださいね」


 歳の離れた弟にそこまで叱咤されて、マーシャルは表情を引き締めて頷いたのだった。

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