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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十二章 太古の魔物

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伍:魔薬

 ルクスコリス火山からシエンタ子爵領は、実はさほど遠くない。

 飛翔魔術で一時間程度の距離だ。


 本音を言えば転移魔術で往復してさくっと済ませたいところなのだが、能力など全てが不明のビュートとの戦いの前に、魔力を大幅に削る転移魔術を多用するのは避けたい。


 飛翔魔術は高度と速度に比例して魔力消費が大きくなるため、極力低空飛行でなるべく速度を上げる。


 私がシエンタ子爵領の町ラウムに到着した時には、すっかり夜更けになっていた。

 神官達の魔力を探知して辿り着いたのは、シエンタ子爵の屋敷だった。


「聖女様!」


 窓から顔を出したクラリスが私に気付いて大きく手を振ってきた。

 時間も時間なので、正面からではなく、その窓から屋敷内に失礼することにする。


「遅くなってごめんなさい。状況は?」


 尋ねながら部屋を見る。

 奥のベッドで眠るニールと、その傍らに控えるトリスタン。


 部屋のソファに座るアネットと、クラリスのすぐ隣に立っているシェイド。


「ラウムに到着して、すぐに聞き込みのため別行動をしていたのですが、集合時間になってもニールが戻らず、探したところ、様子がおかしくて……」


 困惑気味に話すクラリスの後を、シェイドが引き継ぐ。


「俺を見るなり、急に魔術で攻撃してきやがったんだ。何とか回避して、クラリスがすぐ束縛魔術を使ってくれたおかげで、お互い怪我なく済んだが……」

「私達が駆けつけた後も意味不明なことを叫んでいて……断片的な言葉から、おそらく何者かに騙されて魔薬を飲んだのだろう、と……」


 アネットが嘆息し、トリスタンを一瞥する。


「解毒魔術で解毒しきれず、暴れるので催眠魔術を使いました。今は眠っていますが、俺の催眠魔術は数時間しかもたないので、間もなく切れるかと」


 トリスタンがそう答えたので、私はさっとベッドに歩み寄り、解毒魔術を施した。


「……かなりの量の魔薬を一気に飲んだみたいね」


 解毒の手応えからそう確信する。


 トリスタンでも解毒しきれなかったと言うのは、毒の量が彼の魔術で解毒できる量を上回ったからだ。


 ついでに浄化魔術を掛けたところで、ニールは目を覚ました。


「……あれ? 聖女様……? 俺は……あっ!」


 ばっと起き上がり、顔面蒼白になって頭を下げる。


「申し訳ありません! ご迷惑を……!」

「謝罪は後でいいから、説明してくれる? どうして魔薬を口にしたの?」

「魔薬だとは思わなかったんです……町に到着して別行動で調査を行っている時、町の女性に声を掛けられて、これを飲むと特殊な魔力が発せられるようになって、意中の女性が自分に夢中になるって、言われて……」


 どんどん声が小さくなる。


「飲んだ後のことは覚えている?」

「興奮状態になったところまでは覚えています……それで、ああ、騙されたんだと思いました」


 しゅんと肩を落とすニール。

 自尊心の高い彼のことだ。騙されたことはかなり堪えるだろう。


「その薬を渡して来た女性って、どんな人だった?」

「金髪碧眼の、四十代くらいの女性でした」

「……そう」


 魔薬を蔓延させようとしている組織の末端だろうか。

 それともあのアプローズにいた薬屋の一員か。


「……で、ニールはその薬を飲んで誰を夢中にさせようとしていたの?」


 もうその答えは察しているが、彼にはここで諦めてもらわなければ、同じことを繰り返しかねないので、あえて尋ねる。


「そ、それは……」

「クラリスだろう?」


 言い淀んだ彼に、焦れたトリスタンが名前を出すと、彼の肩が大きく跳ねた。


「え、わ、私……?」


 クラリスが驚いて目を瞠り、その横で、彼の想いに気付いていたらしいシェイドが不愉快そうにむすっとする。


 ニールは唇を噛み締め、やがて諦めたように口を開いた。


「……神官見習いとして神殿に入り、初めてお会いした時から、ずっと好きでした……最近、その男とずっと一緒にいるのが、許せなくて……! そいつじゃなくて、俺が、隣で守りたくて……! 本当に、申し訳ありません……!」


 悔しそうに両手を握り締め、俯いて絞り出す姿は痛々しい。


 クラリスは一呼吸おいて、それからベッドに歩み寄った。


「ありがとう、ニール。気持ちは嬉しいわ……でも、貴方の気持ちには応えられない。ごめんなさい」


 流石はクラリス、予想外の相手から予想外の拍子で告白をされても、すらすらと断りの文句が口から出ている。

 慣れているんだな、と思い知る瞬間だ。


「あ、それどころじゃなかった。ニールが正気に戻ったなら、私は戻るわね」


 クロヴィスから緊急連絡は入っていない。ルクスコリス火山ではまだ異変が起きていないようだが、早く戻るに越したことはないのだ。


 私は神官達に事情を説明し、この後は皆同じ場所で待機し、必要に応じてトリスタンの転移魔術で神殿に戻るように指示を出した。


 プレアデス聖王国での事件にも居合わせていたトリスタンとクラリスは息を呑み、顔を見合わせる。


「ビュートが……?」

「胴体だけでなく、両手両足まで解放……?」


 二人とも、私が聖王国で結界の継承に同行している間、図書室でビュートについて調べていた。

 今の状況がどれだけまずいかは理解してくれたようだ。


 と、その時。


「っ!」


 私の身体に衝撃が走った。

 パオ遺跡に張った結界が砕かれたと、直感で察する。


 同時に、頭にガリューの引き攣った声が響いてきた。


『アリス! ビュートだ! 強すぎる! 竜人がやられる……!』

「っ!」


 私は額に手を当て、ガリューに向けて念じた。


『ガリュー! 状況は?』

『突然、魔物の群れが遺跡に押し寄せて来たと思ったら、黒い影が飛来してきて、パオ遺跡に攻撃をしてきた。アリスの結界が一撃で破られて、騎士団は壊滅、竜人が応戦しているけど、相性が悪すぎる!』

『怪我は?』

『僕は無傷だ。騎士団のやつらは重傷多数。竜人も、今はまだかすり傷だけど、このまま闘い続けたら殺されるかもしれない』


 その言葉に、私は即座に動いた。


転移魔術(メタスタージス)!」


 転移先は勿論、パオ遺跡。


 瞬き一つの間に、私は鬱蒼とした森の奥にある、パオ遺跡へと移動したのだった。

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