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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十二章 太古の魔物

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参:要塞都市

 通信の魔具でクロヴィスに連絡を取り、経緯を話すと彼はすぐさま神殿に転移して来た。


「俺もアプローズに行くぞ」

「それは心強いけど、クロヴィスだって忙しいんじゃ……」


 公務と結婚式の準備で、毎日分刻みのスケジュールをこなしているはずだ。


「いや、流石に国内に魔薬が蔓延しているとなると、その対処が最優先だ。父上にも了承をもらっている」


 それもそうか。

 魔薬の蔓延は国の一大事だ。


「じゃあ、さくっと片付けないとね!」


 事態はそんなに簡単ではないことはわかっているが、己を叱咤する意味も込めてそう言うと、クロヴィスも真剣な顔で頷いた。


「ああ、すぐに動こう」


 私達はジャンに事情を説明した上で、オロチの転移魔術でアプローズまで移動した。

 とはいえ、転移魔術は一度訪れた場所にしか行けない。前回王都の門を越えることはなかったので、今回も前回と同じく王都から程近い場所への転移だ。

 

 月明りに照らされた山間やまあいに聳える要塞都市は、相変わらず見事な景観だ。


「……どうする? 正面切って門を通る?」

「いや、もしかしたら犯人の息が掛かった者が兵の中にいるかもしれない……潜入した方が良いだろう」

「じゃあ、変装魔術でも使う?」

「そうだな。トリブスの商人でも装うか」


 クロヴィスは言うが早いか、私と自分自身に変装魔術を掛けた。

 肌が褐色に、髪と瞳が漆黒になる。


 顔立ちは変わらないのに、別人に見えるから不思議だ。


「……黒髪のアリスも悪くないな」

「アリス様はどのようなお姿でも最高です」


 色が変わった私の顔を見て、クロヴィスが妙に満足げに笑い、その横でオロチがうんうんと頷いている。

 何だか妙な気分だ。


「さぁ、行こう」


 私の反応にクロヴィスがくすっと笑い、私の手を引いて歩き出した。

 オロチはすっと姿と気配を消してついてくる。


 高い壁に覆われた要塞都市は出入り口が限られており、正面の門である馬車などが出入りできるような大きな鉄扉は、その中央に人一人が出入りするだけの口が開くような造りになっている。

 そして門の左右に一人ずつ、鎧を纏った兵士が待機している。


「トリブスの商人です。仕入れのために来たのですが……」


 丁寧な口調でクロヴィスが話しかけると、兵士は怪しむ様子もなく、小さな扉を開けた。


「中で手荷物検査を受けてもらう」

「はい、勿論です」


 にこりと微笑みつつ、兵に促されるまま扉を潜る。


 今のところ、怪しい様子はない。

 兵士の瞳を見ても、昏い瞳は見当たらない。

 おそらく王位交代に伴って新たに配置された人物だろう。


 扉を潜ってすぐの小屋に通され、手荷物検査を受け、書類にサインをしたところで呆気なく町に入ることができた。


 日が暮れてからそれほど時間が経っていないこともあり、町はまだ人の往来があり、王都だけあって賑わっている。


「……怪しい様子はないな」

「オロチ、ラウルの気配は?」

『町の中に入ったところまでは感知できています……どうやら、王城に向かったようですね』

「城に?」


 気配を絶っているオロチの声は頭に直接響いてくる。


 私が町の正面奥に聳える城を見上げたので、クロヴィスが怪訝そうに首を傾げる。


「どうかしたのか?」

「オロチが、ラウルの気配が城に向かったところで消えたって……」

「城か……何かあるかもな」


 あのウェズリーが何かを企んでいるとも思えない。

 だとすれば、第二王子がまだ王位を諦めきれず何かしでかしているのか。


 あの嫌な笑みを浮かべた第二王子ハミルトンの顔を思い出す。


 ちなみに、第五王子であるジョセフは三国同盟軍による帝国侵略の責を問われて帝国に拘留中だ。

 今後裁判を経て、おそらくロレンマグナ王籍からの除籍と懲役刑になる見込みである。


 そして、まだ会ったことのない第三王子と第四王子と第六王子もいる。

 もし彼らが王位を狙っていたとしたら、あの出来事で第七王子であるウェズリーが王位を継いだことで帝国に対して良からぬ感情を抱いたとしても不思議はない。


「容疑者が多すぎるわね」


 呟きつつ、とりあえず王城に向かう。


 と、その時、私の目の前に白い鳥が飛んできて、くるりと旋回して一枚の紙に変化した。

 これは伝書魔術だ。


「……ウェズリーからだわ」


 今朝、帝国で魔薬が蔓延していることを伝え、調査してほしいと手紙を飛ばしたその返事だ。

 流石はウェズリー。仕事が速い。


『聖女アリス・ロードスター様

 帝国でヘルバの魔薬とみられる薬物が横行しているとのこと、こちらでも早急に調査いたします。

 その件について、確証の無いことは申し上げられないのですが、王族でも怪しい動きをしている者がおり、こちらでも調査を進めているところです。

 取り急ぎ現状のご報告まで。

 ウェズリー・テリオス・ロレンマグナ』


 王族内に反逆者がいる可能性が示唆されたその文面に、私とクロヴィスが顔を見合わせる。


「やっぱり、第二王子かしら……」

「いや、もしそうだとしたら、確証がないにしても第二王子が怪しいと書くんじゃないか? あの第二王子は、アリスを殺そうとした前科があるんだ。アリスにも警戒を促すと思う」


 それもそうだ。

 だとすると、もしかしたらその怪しい人物とは王子のことではないのかもしれない。


「……オロチ、分身を出して王城内を調べてくることはできる?」

『問題ございません』

「じゃあお願い。もしラウルを見つけたら即座に保護して、必要があれば安全なところに退避を」

『承知いたしました』


 オロチが応じた直後、通りの向こうから一人の男がクロヴィスを見て声をかけてきた。


「お兄さん、トリブスの人だね。商人かい?」

「ああ、そうだ。ロランマグナの解毒薬を仕入れに来たんだ」

「おおそうか。それなら丁度良い。うちは薬屋だから、良かったら寄って行きな」


 その男は金髪にくすんだ青の瞳で、歳の頃は五十代半ば。

 体格が良く、肌は日焼けしていて、どう見ても薬屋には見えない。


 勿論、世の中には体格が良くて日に焼けた薬屋もいるだろうが、この男は何とも言えない胡散臭さがある。

 私とクロヴィスは視線を交わし、その男について行くことにした。

 

 男は、大通りから路地に入り、看板もない、いかにも怪しげな店に入っていく。


 あからさま過ぎて、逆に驚く。

 こういうのは、表向きはきちんと薬屋として営業している店が実は裏で魔薬を創って売り捌いていた、という展開になるかと思っていたのだけど。


「……いかにも過ぎるんだけど、大丈夫かしら」

「いざとなったら全員その場で逮捕だな」


 ロレンマグナ王国は、先の事件がきっかけでファブリカティオ帝国の配下に下っている。

 それ故にロレンマグナ国内での犯罪を帝国の皇太子が取り締まるのは全く以て問題ない。


 何かあれば、私だけでなく一流の魔術師であるクロヴィスと、上級よりさらに上の魔物であるオロチがいるし、対処しきれないことはないだろう。


 そう思いつつ、以前油断して罠にかかったことを踏まえ、オロチに念のため本体は店の外で待機し、分身を私達につけるよう命じた。


 オロチの分身は、本体からさほど離れることができない代わりに、本体からの距離が近ければ出せる人数は増えるらしい。

 さほど大きくない町の範囲なら、十人程度の分身体を出せると、以前言っていた。

 逆に帝都ほどの規模になると、せいぜい二人が限界らしい。


 アプローズはロランマグナの王都ではあるが、山間にあることもあり、規模としては帝都の半分にも満たないだろう。


『アリス様、どうかお気をつけて』


 心配そうなオロチの声に見送られ、私とクロヴィスは店内に足を踏み入れる。


 店内は薄暗く、奥のテーブルに置かれたランプが、そこに座る男の顔を照らしている。褐色の髪にグレーの瞳の、見たところ五十代か六十代前後、いかにも悪役といった人相を絵に描いたような強面コワモテの男だ。

 案内してきた男はその後ろに控えるように立つ。


「ヘルバの薬を買い付けに来たんだって?」

「ああ、腕の良い薬師を探しているんだ。実は商売を始めてまだ間もなくて、アプローズには初めて来たから、色々教えてもらえると助かるんだが……」


 クロヴィスは気後れする様子もなく、この店の怪しさにも言及することなく、にこにこと応じている。

 どうやら、世間知らずの新人商人を装っているらしい。

 

 絶好のカモを見つけた、と言わんばかりに、男の目がきらりと光る。

 まじまじと見るまでもなく、男の目にはあの昏い光が炯々としている。


「そうかい。お兄さんは運がいい。俺ぁこの町では有名な薬屋でな。ヘルバを使った解毒薬なら全部取り揃えているんだ」

「ほぉ、それはすごい! 是非見せてもらいたい」


 クロヴィスが前のめり気味に男のいるテーブルに歩み寄る。


 すると、男は案内役だった男に合図を送り、奥の棚から木箱を取って来させた。

 それを開けてテーブルに置く。


 中には、赤、青、黄、緑の液体が入った小瓶がそれぞれ並んでいる。

 

『アリス様、あれは全て本物の解毒薬です』


 オロチの分身が私に囁く。

 見ただけでわかるのか。町医者は伊達じゃないな。

 

「これがヘルバから創り出した解毒薬で、右から、魔草の毒、魔蛇の毒、魔蟲の毒、毒薬の毒に効果がある」

「そうか。これはいくらだ?」

「一本銅貨三枚だ」

「えっ!」


 思わず声が出て口を押える。


「どうかしたかい?」


 男が目を瞬く。私は慌てて首を横に振った。


 てっきり法外な金額を吹っ掛けて来るのかと思ったが、銅貨三枚は、帝国の王都で買える解毒薬よりかなり安い。帝都なら安くても銅貨五枚はする。


「それは安いな。全部貰おう。他にはないか?」


 即決で頷いたクロヴィスに、気をよくした男は懐に手を入れた。


「じゃあ気前の良いお兄さんには特別に……」


 そう言って、男は小さな木箱を取り出した。

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