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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十一章 聖王国の聖女

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玖:その場しのぎ

 私が魔法陣に魔力を流した瞬間、オズワルドがぎょっとして振り返った。


「っ! 聖女様! そんなに魔力を注いだら、魔力切れに……!」


 私は目を瞬く。


「えぇ? この程度で魔力切れなんて起こさないわよ。それより、これで一時しのぎにはなるだろうから、四人は一旦休憩しなさい」


 その言葉に、トリスタンが魔術を止めて僅かに苦笑した。


「聖女様の魔力量が桁違いなのはわかっているつもりでしたが、まさかこれほどとは……」

「見習いの時はそこまでじゃなかったはずなのに、いつの間にそんなに強くなったんですかねぇ……」


 ロジェも、疲弊した様子で座り込みながら小さく笑う。


 と、そこへオロチが大きな魔晶を抱えて姿を現した。

 一目見てわかる、かなりの純度と魔力量。それこそ、先程割れてしまった結界の核になっていたものと同等か、それ以上の大きさだ。


「只今戻りました」

「あら、早かったわね」

「ええ。トリブスの国王、カリムという青年に直接話をしたところ、すぐに王城に保管されていた最も大きな魔晶を無償で譲ってくれました。アリス様にはお世話になったから喜んでと申していました。彼は見どころがありますね」


 満足げに頷きつつ、オロチは抱えた魔晶を魔法陣の中心へ運び、オズワルドとカリーナの足元にどんと置いた。


「殿下、魔晶が手に入ったので、改めて、その魔晶を核にして結界を張ってください。必要があれば私が補佐します」


 私の言葉に、神官達ほどではないにしろ少々疲れた様子を見せていたオズワルドとカリーナが、ほっと息を吐いた。

 二人は顔を見合わせて頷き合うと、同時に魔晶に手を置いた。


 二人が声を揃えて呪文を唱えると、魔晶が眩い光を放ち、それが一直線に空へ昇って広がった。

 結界が無事に生成された。これで元通りだ。


「……ふぅ」


 オズワルドとカリーナが、魔法陣を踏まないようにしながら外へ出て、どさりと座り込んだ。

 それから視線を合わせて、安心したように笑い合う。


 今回の事件で、思いがけず二人の絆が深まったようだ。

 この二人が治める聖王国は安泰だろうな、と二人の様子を見て思う。


 と、私の背後によく知る魔力が顕現した。


「……よくこんな大きな魔晶が手に入ったな」


 感心した風情で私に声をかけてきたのは、パオ遺跡から戻ってきたクロヴィスだ。


「オロチがカリムに魔晶がないか聞いたら、快く譲ってくれたそうなのよ。後でお礼しなきゃ」

「あの野郎に借りを作ったのか……」


 クロヴィスが苦虫を嚙み潰したような顔をしたので、私は首を傾げた。


「トリブスはもう帝国の配下だし、こないだの侵略行為のこともあるから、カリムにしてみれば貸しというよりお詫びだと思うわ。勿論、これだけの魔晶を譲ってもらった以上はそれなりのお礼が必要だとは思うけど」


 と、話を聞いていたオズワルドが、すっと手を挙げた。


「そのお礼は、我が国がきちんといたします。勿論、帝国に対しても、後日改めてお礼をさせてください。国の危機を救っていただいて、本当にありがとうございます」

「目の前に困った人がいたら助けるのは当たり前よ。ああ、でも、もしお礼をしてくれるというなら……」


 私はロジェとジルベルトを一瞥してからオズワルドを見た。


「うちの神官のロジェとジルベルトは婚約中で、聖王国産の宝石をあしらった結婚指輪を作る予定だったんだけど、腕の良い職人を紹介してもらえないかしら?」

「お安い御用です。王室御用達の職人をご紹介しましょう。お二人には一時的な結界を張るのにも協力していただきましたし、御礼として費用については全てこちらが負担しますので、お好きなデザインや宝石をお選びください」


 オズワルドが快諾どころか、指輪を贈ってくれると言ったのを受けて、ロジェとジルベルトがやや困惑気味に顔を見合わせる。


「よかったわね、ロジェ。聖王国の王族から結婚指輪を賜れたら、その分婚約指輪にお金を回せるわよ……まだちゃんとプロポーズしてなかったんでしょう?」


 私がロジェに耳打ちすると、ロジェはかっと頬を紅くした。


 そう、そもそも始まりが結婚前提の交際申し込みだったので、ロジェはジルベルトに「結婚してください」と指輪を贈る、王道のプロポーズをしていないのだ。

 結婚前提の交際に了承している時点で、プロポーズは不要である気がするが、ロジェ自身がそれを気にしていた。


 実はジルベルトがプロポーズに憧れを持っているのではないか、結婚の承諾はもらっているが、きちんとプロポーズをした方が良いのではないか、と。


 しかし、大神官とて高給取りという訳ではない。

 食うに困ることはないが、職業柄贅沢は許されない。


 私は、ロジェが改めてプロポーズするにあたり婚約指輪を用意したいが、結婚指輪を買わなければならないため、婚約指輪にあまりお金を回せないと肩を落としている、とトリスタンから聞いていたのだ。


 ここは私からの結婚祝いとして指輪を買えるだけの金一封を贈るか、と考えたが、ロジェが「自分のお金で指輪を買って贈る」ことに拘っているというのも聞き、どうしたものかと思っていたところだった。

 今回聖王国から贈られる指輪は間違いなく、ロジェとジルベルトが聖王国に協力した結果得られた対価であるし、それによって浮いたお金を婚約指輪に回せるのならロジェの面子メンツも保たれるというもの。


「……聖女様には敵いませんね……」


 ロジェは照れ臭そうにそう笑った。


 と、オズワルドがクロヴィスを振り返る。


「……クロヴィスも、厄介ごとに巻き込んでしまったせめてもの詫びとして、例の件については費用はこちらで負担させてくれ」

「例の件?」


 何のことだろうと目を瞬く私に、クロヴィスは珍しくあたふたとした様子でオズワルドに何かを耳打ちした。


「……ああ、そうだったのか、すまん」


 オズワルドは苦笑してそうクロヴィスに謝ると、その場の全員に対して食堂で休憩しようと提案してくれた。


「ありがとうございます。神官達は魔力切れで疲労困憊だと思うので、是非お願いします。私は、ビュートについて調べたいので、図書室をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、それは勿論構いません」


 快諾してもらえたので、私はガリューとオロチ、クロヴィスと共に聖王国の王城内にある図書室へ向かったのだった。

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